葉緑体が植物の成長・栄養応答を制御する仕組みを明らかに―東工大・増田真二氏ら

2015年12月6日 20:34

印刷

緊縮応答を過剰に引き起こす組換え植物体は、通常条件では葉緑体のサイズは減少するが、個体は大きく育った。この組換え体を窒素欠乏条件下に曝すと、緑色を保ち、光合成を継続した。(東京工業大学の発表資料より)

緊縮応答を過剰に引き起こす組換え植物体は、通常条件では葉緑体のサイズは減少するが、個体は大きく育った。この組換え体を窒素欠乏条件下に曝すと、緑色を保ち、光合成を継続した。(東京工業大学の発表資料より)[写真拡大]

 東京工業大学の増田真二准教授らの研究グループは、葉緑体が植物の成長・栄養応答を制御する新たな仕組みを発見した。

 細菌には、緊縮応答と呼ばれる遺伝子発現・代謝制御機構が存在する。これは、飢餓応答、温度適応、抗生物質耐性、病原性などに関与する細菌にとって必須の環境応答機構であり、近年のゲノム解析によって、緊縮応答に関与する遺伝子が、植物や動物といった真核生物のゲノムに保存されていることがわかってきた。しかし、真核生物における緊縮応答の機能については明らかになっていなかった。

 今回の研究では、シロイヌナズナを用いて、植物における緊縮応答の役割を調べた。その結果、緊縮応答を担うタンパク質はすべて葉緑体で働いていることを明らかにした。

 なお、それらの遺伝子は、シアノバクテリアのものと似ていることから、葉緑体がシアノバクテリアの細胞内共生によって誕生した際に植物細胞にもたらされたと考えられる。また、緊縮応答を過剰に引き起こす組換え植物体を作出したところ、葉緑体の遺伝子発現や代謝産物量が減少していること、葉緑体のサイズも小さくなっていることがわかった。

 つまり、葉緑体で行われる緊縮応答は、葉緑体の機能を全体的に抑制すると考えられる。そして、実際に緊縮応答が過剰となった植物体は、通常条件下において野生型の約1.5倍の大きさに成長し、貧栄養条件で育てると、野生型は枯死するのに対し、組換え体は緑を保ちつつ光合成を継続した。

 今後は、研究をさらに進めることで、動物における緊縮応答の存在の有無、その応答の詳細、栄養飢餓応答との関わりなども明らかになると期待されている。

 なお、この内容は「Nature Plants」に掲載された。論文タイトルは、「Impact of the plastidial stringent response in plant growth and stress responses」。

関連記事