生きた霊長類の脳内で神経細胞「スパイン」を可視化する手法を開発―理研・定金氏ら

2015年9月20日 20:18

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マーモセット大脳皮質のスパイン画像。共同研究グループが開発した手法でマーモセットの大脳皮質のスパインを観察したところ、樹状突起の構造に加えて、樹状突起上の小さな突起であるスパインまで鮮明に可視化できた。(理化学研究所の発表資料より)

マーモセット大脳皮質のスパイン画像。共同研究グループが開発した手法でマーモセットの大脳皮質のスパインを観察したところ、樹状突起の構造に加えて、樹状突起上の小さな突起であるスパインまで鮮明に可視化できた。(理化学研究所の発表資料より)[写真拡大]

  • マーモセット大脳皮質のスパインの経時的変化。開発した手法でマーモセット大脳皮質のスパインの経時的なイメージングを行った。1日目と2日目の画像を比較すると図中の□部にはあらたなスパインが発生し、△部ではスパインが消失したことが分かる。(理化学研究所の発表資料より)

 理化学研究所の山森哲雄チームリーダー、定金理研究員らの研究グループは、猿の一種であるマーモセットの大脳皮質で、2光子顕微鏡を用いてスパインと呼ばれる神経細胞の微細形態を生体内で可視化する手法を開発した。

 大脳皮質の神経細胞は、他の神経細胞群との情報伝達を行うために複雑な形態を持っており、細胞体、樹状突起、軸索の3つの部分から構成されている。樹状突起の形態をさらに細かく見ると、主に興奮性の神経細胞同士が結合する部分に「スパイン」と呼ばれる微細な突起構造が存在している。

 今回の研究では、ウイルスベクターを用いて蛍光タンパクを「強く」「まばらに」神経細胞に発現させることができれば、マーモセットでもスパインを生体内で可視化できると考え、アデノ随伴ウイルスベクターを用いて、GFPをマーモセットの大脳皮質神経細胞に発現させた。

 その際、GFPを「強く」発現させるため、ドキシサイクリンなどの薬剤を用いて標的遺伝子の発現をオン/オフするために使用するTet-Offシステムを用いた。そして、ウイルスベクターをマーモセットの大脳皮質に注入し、GFPの発現を2光子顕微鏡によって生体内で観察したところ、個々の神経細胞の樹状突起と、樹状突起上にあるスパインを鮮明に可視化することに成功した。

 さらに、スパインが時間とともにどのように変化するかを調べるため、経時的なイメージングを行ったところ、少数のスパイン(平均して1日あたり全体の5%程度)が時間とともに消失したり、新たに生じたりする様子を解析することが可能になった。

 今回の研究成果は、学習過程の神経細胞ネットワークの変化や分子メカニズムのほか、神経回路の機能的制御機構の解明に繋がることが期待される。また、今回開発されたスパインの可視化手法と、遺伝子の過剰発現や発現抑制の手法を組み合わせることで、霊長類大脳皮質における神経回路の機能的制御機構が解明できる可能性があるという。

 なお、この内容は「eNeuro」に掲載された。論文タイトルは、「In vivo two-photon imaging of dendritic spines in marmoset neocortex」。

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