大阪市立大、睡眠障害の治療が糖尿病の血糖改善や血管障害防止に有効であることを解明

2015年4月15日 11:13

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一晩の睡眠パターンを示す図。Stage1-4のノンレム睡眠は脳を休息させる睡眠で眠りの20-25%を占め、特にstage3-4の徐波睡眠は熟眠感が得られる質の高い睡眠といわれている。一方、レム睡眠を睡眠の75-80%を占め、体を休息させる睡眠といわれている。徐波睡眠の役割として、脳の休息以外に交感神経活動の低下とともに副交感神経活動の上昇が見られ、夜間の血圧低下や血糖コントロールの改善が起きるといわれている。(大阪市立大の発表資料より)

一晩の睡眠パターンを示す図。Stage1-4のノンレム睡眠は脳を休息させる睡眠で眠りの20-25%を占め、特にstage3-4の徐波睡眠は熟眠感が得られる質の高い睡眠といわれている。一方、レム睡眠を睡眠の75-80%を占め、体を休息させる睡眠といわれている。徐波睡眠の役割として、脳の休息以外に交感神経活動の低下とともに副交感神経活動の上昇が見られ、夜間の血圧低下や血糖コントロールの改善が起きるといわれている。(大阪市立大の発表資料より)[写真拡大]

  • 睡眠指標(レム睡眠潜時、ログデルタパワー)とHbA1c・頸動脈内膜中膜肥厚度との相関を示す図。血糖コントロール指標「HbA1c」は、睡眠時無呼吸症候群の指標である無呼吸・低呼吸インデックス(AHI)と独立してREM睡眠潜時と有意の負の関連を示した。これは、血糖コントロール増悪を示すHbA1cの上昇が、深睡眠指標であるレム睡眠潜時の短縮をもたらすことを示唆する結果だった。(大阪市立大の発表資料より)

 大阪市立大学大学院医学研究科・代謝内分泌病態内科学の稲葉雅章教授らのグループは、糖尿病の血糖コントロール悪化で睡眠の質の劣化を伴う睡眠障害が引き起こされること、また睡眠障害が早朝高血圧を起こすことで糖尿病の心血管障害の原因となることを明らかにした。この研究の成果は、日本時間14日午前4時にオープンアクセスジャーナル「PLOS ONE」にオンライン掲載された。

 以前より、睡眠障害の患者は糖尿病の有病率が高いことや将来高い確率で発症することが分かっており、睡眠障害で糖尿病が悪化する可能性は示唆されていたが、糖尿病での血糖コントロールと睡眠障害の直接の関与は明らかではなく、血糖の悪化で夜間の排尿回数が増えることなどが原因として考えられていた。

 今回の研究では、63名の2型糖尿病患者に脳波計を用いて精密な眠りの質判定を行った。その結果、糖尿病の血糖コントロール指標である HbA1c増悪が、睡眠の質を決定する睡眠第1相の時間を短縮させ、さらに、脳を休息させる深睡眠である徐波睡眠の短縮させることを明らかにした。さらに、それらの睡眠の質の増悪が動脈硬化指標であり、心血管イベントリスク因子である頸動脈の内膜中膜肥厚度と関連することを示した。

 また、これまでの研究で、糖尿病患者での血糖コントロール増悪が、心血管イベントリスクである早朝の血圧上昇に有意に関連していることがわかっている。

 睡眠に対する治療が夜間・早朝血圧の改善を示した研究を考慮すると、2型糖尿病患者には、血糖コントロール悪化→睡眠障害→早朝血圧上昇→血管障害が起こっていると考えられ、糖尿病での睡眠障害が血糖コントロール増悪で悪化すること、および睡眠時無呼吸とは独立して糖尿病での血管障害を防止するための治療ターゲットであることが、脳波計を用いた本研究で初めて明らかになった。

 さらに、睡眠障害は交感神経系賦活化を通じて夜間・早朝血圧上昇のみならず、血糖コントロールの悪化をもたらすことが示唆されている。今回の研究から、糖尿病患者への積極的な睡眠障害に対する治療は、不眠によるQOL増悪を改善するだけでなく、交感神経活動
の低下により夜間・早朝血圧改善による動脈硬化進展予防や、血糖コントロール改善を目的とする治療として位置づけられるという。

 睡眠導入薬の進歩や新規薬剤の投入により、不眠治療が臨床の
場で安全かつ効率よく行えるようになったことに加え、不眠治療に対する認識を変えることができる研究であるといえる。グループは今後、患者数を増やして睡眠障害に対する治療の位置づけを確立できるように研究を進めていく計画だ。(記事:町田光・記事一覧を見る

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