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慶大、体外で大腸がんの人工的再現に成功 発がんメカニズムの解明に期待
今回の研究では、ヒト大腸から採取した組織よりオルガノイドを作製し遺伝子変異を導入した後にマウスに移植を行った。正常な大腸上皮由来のオルガノイドは、5つの遺伝子変異が入ることにより幹細胞機能が高まったが、肝臓に転移しなかった。一方、腺腫から作製したオルガノイドは3つの遺伝子変異を加えることで、肝臓への転移が認められた(慶應義塾大学の発表資料より)[写真拡大]
慶應義塾大学医学部内科学(消化器)教室の佐藤俊朗特任准教授らは24日、ヒトの大腸幹細胞に体外で遺伝子変異を導入し、がん化過程を人工的に再現することに世界で初めて成功したと発表した。また、正常な大腸上皮からの発がんには、より多くの遺伝学的な変化が必要であり、既に発育した大腸ポリープはがん化しやすく、その切除が効率的な発がん予防につながることを裏付けた。
慶應義塾大学医学部消化器内科と東京大学医学部大腸肛門外科の共同研究グループは、培養されたヒト大腸幹細胞に CRISPRと呼ばれる遺伝子変異導入技術を応用することに成功した。この技術により、大腸がんで高頻度に認められる APC, KRAS, SMAD4, TP53, PIK3CA という5つの遺伝子変異をヒトの正常な大腸幹細胞に組み込んだ、“人工変異オルガノイド”を作製した。
正常なヒトの大腸幹細胞は、適切な増殖因子の存在する腸管粘膜でしか生きることができないのに対して、人工変異オルガノイドは、増殖因子がなくても増える“スーパー幹細胞”能力を獲得し、移植したマウスの体内でも腫瘍を形成できることが確認された。しかし、人工変異オルガノイドは転移が認められず、5つの遺伝子変異ではがんの悪性化の最終ステップには進展しないことが分かった。
これに対し、体内で既に形成された大腸腺腫から作製した人工変異腺腫オルガノイドでは、遺伝子変異による幹細胞機能の強化により、転移能力を持つ進行大腸がんに悪性転化することを見出した。これらの研究成果から、大腸がんで高頻度に認められる5つの遺伝子変異は幹細胞機能を制御しており、それらの変異により、大腸幹細胞が大腸とは異なる環境でも増殖できるようになることが判明した。
この研究により、発育した大腸腺腫は、少数の遺伝子変異が加わることにより、容易に発がんすることが実証された。1cm以上の大腸腺腫は経時的に大腸がんに進行しやすいという臨床的なデータと合致し、大腸がん予防として大腸腺腫の内視鏡的切除治療が有効であることが科学的に裏付けられたという。
研究グループは、今後の研究によって、どのような遺伝子異常が、がん化の最後の引き金になるか、その解明と治療への応用が期待されるとしている。
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