ソニーなどレコード会社31社が仕掛けた2億3000万円の高額裁判に和解勝利した作曲家・穂口雄右氏へのロングインタビュー(3)

2015年2月21日 19:45

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【2月21日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

■異例の「0円和解」の背景


―――和解内容についてどのように考えますか?

穂口 : ご承知のとおり、損害賠償額が高額の著作権侵害訴訟で原告が損害賠償請求を放棄することは極めて異例です。しかもこの「0円和解」は原告側からの提示です。こちらとしては121ファイルが結果として侵害の可能性があったのであるなら、その121ファイル分については和解金を支払う和解案を提示していました。しかし原告側は121と言う数字の掲載を嫌がり(金額を明記すると侵害がほとんどなかった印象が残ることを嫌ったようです)。これが、最終的に和解条項としては極めて異例な、数字も金額も一切記載されない和解となった理由です。

また、原告らは秘密条項の掲載を強く求めていましたが、これについては私が断固反対した結果、裁判長の調停により、法的拘束力のない紳士協定としての第5条で合意しました。

いずれにしても、数字が一切ない不透明な和解条項は不満ですが、秘密条項なしを勝ち取ったことで、堂々と裁判資料を公開できるので、準備が整いしだい、原告側担当者の陳述書も含めて一切の裁判資料を公開する予定です。(一部はすでに公開済みです)

なお、私は判決を希望したのですが、上級審に進むほど、裁判が必ずしも正義に味方するものではないとの、弁護団および識者の意見に従いました。

―――勝因はなんですか?

穂口:もっと大きな勝因は、やはりTUBEFIREが「著作権保護システム」を備えていたことです。そして原告はTUBEFIREが備えていた「著作権保護システム」の存在を知らずに提訴しました。TUBEFIREの「著作権保護システム」は著作権法に則って構築していたので、これが正常に機能していれば著作権侵害にはなりません。事実、原告は証拠ファイルを121しか提出できませんでした。当初は侵害数は10000ファイルを超えると主張していたのにです。

また、その約10000のエクセルリストも間違いや重複が多く、裁判所の心証開示ではこのエクセルリストは証拠として採用できないと開示されています。またそれに伴う原告担当者の陳述書もコピーペーストが散見されるなど、虚偽の陳述書の可能性を疑わせるものでした。この点も裁判所として重視している印象で、和解が不成立の場合には原告担当者の証人喚問の可能性を開示していました。

当方が「著作権保護システム」のプログラムのすべてを裁判所に提出したことも大きかったと考えられます。専門家がプログラムを検証すれば、TUBEFIREが著作権保護に大きな労力と費用を費やしていた事実が一目瞭然です。原告らは何を血迷ったか「プログラムは後から作った可能性が疑われる」などと証拠もなしに反論していましたが、膨大なプログラムを後から作れるはずもなく、この原告の反論にも裁判官は呆れたものと推察しています。

■米国ではスラップは禁止


―――ミュージックゲート裁判は2億3000万円の高額訴訟だったわけですが、スラップについてどのように考えますか?

穂口 : スラップの存在は今回の提訴を受けた後に、知人から教えてもらってはじめて知りました。そして、なるほどそう言うことなのかと思いました。そして確かに、私の会社のような零細会社が、メジャーレコード会社31社から2億3000万円の高額訴訟を起こされたら、大概はひとたまりもないだろうと思いました。

ご承知のとおり裁判は、訴えられて反論しないでいると原告の主張で判決が確定してしまいます。
そして、普通、素人では裁判書類の作成は難しいので、一定期間に適切な弁護士を選任する必要があります。ところが今回のようなケースでは業界関係の31社が束になっているので、弁護士選びも難しくなります。なぜなら利益相反の規定により、31社に関係している弁護士は私からの依頼を受けることが出来ないからです。

今考えてみるとこれも原告の作戦に含まれていた印象です。つまり音楽や著作権に詳しい弁護士の多くが、何らかの形で原告ら31社と関係があると考えられるからです。今回私は幸いにして、知人からシリウス総合法律事務所の坂井眞先生をご紹介頂いて見事に反論をすることが出来ましたが、ご紹介がなければかなり危ない綱渡り状態でした。

それにしても、いきなりの2億3000万円は、大概のことでは驚かない私も驚きました。
まったく確固たる証拠もなく、しかも予告もなくこれだけの金額を請求されたら、それだけで大概の人は震え上がるでしょう。大会社が小さな会社や個人を潰そうとするにはもってこいの方法だと思いました。その後、このようなスラップ訴訟は、アメリカではすでに禁止されている行為であることを教えて頂き、原告のレコード会社よりも、原告の代理人であるTMIの升本弁護士のいい加減さと杜撰(ずさん)さと卑劣さに腹が立っています。

―――訴状を受け取って何を感じましたか?

最初は、何かの間違いではないかと思いました。しかし、31社がまとまるにはそれなりに理由があるはずなので、TUBEFIREのシステムに何か問題があって「著作権保護システム」が機能していない可能性も否定できないので、弊社の担当者には直ぐにサービスを止めて、原告の訴状を検証するとともに、プログラムを再検証するように指示しました。

そして検証の結果、原告の訴状および証拠リストに多くの間違いがあることを発見し、それからは原告の間違いをただす方針で裁判にのぞみました。

なにしろ、訴状を受け取ってから1ヶ月後にはほとんどの間違いを発見していたので、あとは原告の間違いを裁判所で指摘する時を楽しみにしながら、自分達の証拠の間違いに気付かずに強弁を繰り返す原告代理人の準備書面などを、ピエロを見る気分で楽しんでいました。そして、裁判のスタートから2年3ヶ月が経過した時点で原告訴状の間違いを裁判所に提出したところ、たちまちの攻守逆転で、そこからはあたかも当方が原告になった気分でした。(聞き手 編集部・黒薮哲哉)【続】

【特集】ソニーなどレコード会社31社が仕掛けた2億3000万円の高額裁判に和解勝利した作曲家・穂口雄右氏へのロングインタビュー(1)
http://www.sakurafinancialnews.com/news/9999/20150216_3

【特集】ソニーなどレコード会社31社が仕掛けた2億3000万円の高額裁判に和解勝利した作曲家・穂口雄右氏へのロングインタビュー(2)
http://www.sakurafinancialnews.com/news/9999/20150220_1

(編集部:最終回(4)は、明日以降に、さくらフィナンシャルニュースのサイトに掲載する予定です。)

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