【経済分析】5月機械受注〜「想定外」の景気の行方

2014年7月16日 11:06

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【7月16日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

 10日発表された5月の機械受注は、前月比19.5%減と現行統計が開始した2005年4月以降で最大の落ち込みとなりました。これを受けて10日の株式市場ではさすがに機械株が売られ、東証の機械株指数の下落率は1.3%と、33業種の中で3番目に大きな下げとなりました。

 景気指標は一般に単月で振れがありますが、中でも機械受注は単月の振れが激しく、トレンドを読むのが難しい景気指標です。今回の大幅な落ち込みも単月の一時的な振れに過ぎないのでは、との見方もできそうですが、それにしては落ち込み方が大きく、しかも2か月連続で前月比マイナスとなっています。

5/21のブログでは、過去最大の伸びを示した3月の機械受注がピークとなる可能性を指摘しましたが、実際に5月の機械受注が大幅減となったことでその可能性が高まったとみています。

 増加基調にあった機械受注に変化の兆候がみられることは、このグラフで、大きなトレンドを示す12か月移動平均が足元で減少に転じたことにも現れています。

 10日の結果を受けて、内閣府は機械受注の基調判断を「増加傾向」から「足踏み」に下方修正しましたが、問題は、5月の大幅減が単なる一時的な「足踏み」にすぎないのかどうか、という点です。

 前回、同じような基調の変化が機械受注に現れたのはちょうど2年前の2012年5月でした。この時の機械受注は前月比8%減と今回ほどではありませんでしたがやはり大幅減となり、12か月移動平均が下に折れて、基調が変わったことを知らせました。内閣府が基調判断を「増加傾向」から「一進一退」(「足踏み」と同じ意味と思われます)に修正したのは、翌6月でしたが、その後機械受注は13年1月に底をつけるまで、「一進一退」というよりも「減少基調」で推移しました。ちょうどその時期が景気が後退局面に入った期間(4月〜11月)とほぼ重なっていることから、機械受注の基調の転換は単なる設備投資の回復が足踏みとなったことを示していたのではなく、景気そのものの変調を映し出していたと考えられます。

 今回もまた、機械受注の変調を単なる設備投資ではなく、景気の基調が変わりつつある兆しと捉えた方がよいと思います。

 11日の日経新聞には、機械受注だけではなく、家計調査や貿易統計の輸出など想定外に弱い景気指標がこのところ出てきていることを伝える記事が載っています。前々回のブログにも書いた鉱工業生産などもその一つです。

 「消費税引き上げ後も消費は意外に強い」と一般にみられていることから、「景気は上向き」と多くの人が考えていますが、景気先行指数は1月をピークに4か月連続で低下しており、景気の基調は徐々に変わりつつあるとみられます。「想定外」の指標が今後も増えていくことが「想定」されます。

 先行きの景気回復に自信を持っている日銀も景気認識を改めなければならない日がいずれやってくるかもしれません。その前にマーケットでは追加緩和観測が次第に高まっていくことになるでしょう。そのような変化が今後予想されます。【了】

野田聖二(のだせいじ)/埼玉県狭山市在住の在野エコノミスト
1982年に東北大学卒業後、埼玉銀行(現埼玉りそな銀行)入行。94年にあさひ投資顧問に出向し、チーフエコノミストとしてマクロ経済調査・予測を担当。04年から日興コーディアル証券FAを経て独立し、講演や執筆活動を行っている。専門は景気循環論。景気循環学会会員。著書に『複雑系で解く景気循環』(東洋経済新報社)『景気ウォッチャー投資法入門』(日本実業出版社)がある。著者のブログ『私の相場観』より、本人の許可を得て転載。

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