【アナリストの眼:老朽化インフラ設備更新(中)】老朽化設備の現状を探る

2012年7月30日 14:47

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記事提供元:日本インタビュ新聞社

【アナリストの眼:老朽化インフラ設備更新(中)】

■アメリカでは07年にミネソタ州で橋梁が崩落事故

  耐用年数を経過した公共インフラ設備に対して、維持管理・補修・更新が適切に行われなければ、老朽化を原因として機能不全となり、私たちの日常生活への影響が懸念されるだけでなく、場合によっては重大な事故や災害につながりかねない。

  米国では、1930年代のニューディール政策で大量に建設された道路や橋梁などの老朽化の影響が、建設後50年を経過した1980年代から社会問題化している。そして2007年には、米国ミネソタ州でミシシッピ川に架かる橋梁が崩落する事故が発生し、死者13人、負傷者100人以上を出す大惨事となった。

  日本でも、インフラ設備の老朽化を原因とする水道管の漏水・破裂や、道路の陥没などの事故が相次いでいる。老朽化を原因とする損傷や劣化のために、重量制限などの通行規制が実施される橋梁も増加している模様だ。さらに最近では、集中豪雨による堤防の決壊や土砂崩れなどで、被害が広がるケースも目立っている。

  財源難なども要因として、適切な維持管理・補修・更新が遅れている箇所も少なくない模様である。橋梁損傷や地震による建物損傷なども含めて、耐用年数を超えて老朽化した公共インフラ設備の損傷事故が多発する可能性が高まっており、被害が甚大になる可能性もあるだろう。

  総務省が2月3日に公表した「社会資本の維持管理及び更新に関する行政評価・監視<調査結果に基づく勧告>」によると、全国の港湾施設、空港施設、上水道施設、下水道施設、および河川管理施設を対象として抽出調査(調査期間2010年12月1日~2011年3月31日)した結果、主な問題点として定期点検等の実施が不十分などと指摘している。

  たとえば上水道施設では調査した19市のうち、管路の点検調査を未実施が4市(21.1%)、管路の機能診断を未実施が9市(47.4%)だったとしている。また、調査対象施設における損傷事故等の発生状況として、たとえば上水道施設では2010年度の損傷事故等の発生件数678件のうち、585件(86.3%)は老朽化が原因としている。同様に下水道施設では損傷事故等の発生件数361件のうち、202件(56.0%)は老朽化が原因としている。

  首都高速道路でも、塩害による劣化も含めて橋脚や路面接続部などの損傷が目立っているが、補修しきれていない損傷箇所は2009年時点で約9.7万箇所に上り、2002年時点の2.7倍に増加したという。

  老朽化住宅や空き家の増加も深刻化し始めている。国土交通省によると築後30年を経過するマンション数は、現在の106万戸が2021年末に235万戸、2031年末に406万戸に増加する見込みである。建築基準法の耐震基準が強化された1981年6月以前に着工したマンションについては、耐震性が劣っている可能性も指摘されている。また総務省によると、2008年時点で全国の空き家の数は757万戸で、空き家率は約13%に拡大している。

  老朽化が進み、公共インフラ設備の大量更新時代を迎えて、阪神淡路大震災や東日本大震災による甚大な被害も教訓として、大規模自然災害に備えた設備更新は避けられない状況だろう。そして、災害に強い都市づくりに向けたインフラ整備が必要になるだろう。

  公共インフラ設備の適切な維持管理・補修・更新を推進するうえでは、膨大な費用が必要となるが、財源面での制約が大きな課題となっている。

  国土交通省によると、日本の公共事業関係費は東日本大震災復興関係費を除いた当初予算ベースで見ればピーク時(1997年度)の2分の1程度、補正予算を加えたベースで見ればピーク時(1998年度)の3分の1程度まで削減されている。

  また国土交通省は、所管の社会資本(道路、港湾、空港、公共賃貸住宅、下水道、都市公園、治水、海岸)を対象に、過去の投資実績等を基にして、今後の維持管理・更新費(災害復旧費含む)を推計している。

  その試算によると、2011年度から2060年度までの50年間に必要な更新費は約190兆円となるが、今後の投資総額が横ばいで推移すると仮定すると、2037年度には維持管理・更新費が投資総額を上回ることになり、約190兆円のうち約30兆円分の更新ができないと試算している。

  このような財源面の制約がある状況では、選択と集中、長寿命化技術の積極導入など、戦略的な維持管理・補修・更新の手法が求められるのはもちろんだが、PFI(民間資金を活用した社会資本整備)導入などで、インフラ事業の民営化や民間委託を進めることも重要になる。民間の「ヒト・モノ・カネ」の活用は不可避だろう。

  日本では1999年に「民間資金等の活用により公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)」が制定された。内閣府によると、このPFI法に基づいて2011年12月までに実施方針を公表したPFI事業は393事業となり、総事業費は3兆8074億円に達している。

  さらに、政府が2010年6月に閣議決定した新成長戦略では、PFI事業規模を2010年から2020年までの11年間で、少なくとも約10兆円以上(従来の事業規模の2倍以上)に拡大することを成果目標とした。

  この方針に基づいて2011年5月にはPFI法が改正され、コンセッション方式による施設運営が可能になった。コンセッション方式では、施設の所有権は民間に移転しないが、運営権を長期にわたって民間事業者に付与する。民間事業者は、サービス内容や施設の利用料金を自ら決定して、料金を徴収できるようになる。

  海外では、公共投資と財政健全化の両立という課題への対応としても、PFIなどの手法が積極的に活用されている。そして、空港、鉄道、高速道路、港湾、電力設備など、大規模なインフラ整備・運営事業に投資するために、大型のインフラ・ファンドを組成する動きも広がっている。

  たとえば上水道事業は、国民生活に不可欠なライフラインであるため、国や地方自治体が運営するケースが多い。しかし、地方自治体の財政面での制約が大きいため欧州を中心に民営化が進み、世界で民営化された水道事業市場は給水人口ベースで見ると、1999年の3.5億人から2009年には8億人に拡大している。世界の水ビジネス市場の主要企業を見ても、特に早くから水道事業を民営化したフランスには、水メジャーと呼ばれるスエズ社やヴェオリア社などがある。

  日本でも2002年の改正水道法施行により、浄水場管理などの民間委託が可能になったが、民間委託率は1%程度にとどまっており、依然として上水道インフラ設備の大部分は地方自治体が運営している。

  今後、国内でPFI制度の活用が加速するかどうかについては不透明感もあるが、いずれにしても関連する設備機器・工事業界にとっては、膨大な潜在需要が存在することは間違いないだろう。

  関連する設備機器・工事業界にとっては、財政面の課題があるものの、国内では膨大な潜在市場が存在するうえに、官民連携によるインフラ輸出が今後の重要施策として位置付けられていることも追い風だろう。(本紙・シニアアナリスト水田雅展)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)

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