「宇宙飛行士の育て方」 著者インタビュー

2010年11月15日 12:00

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記事提供元:sorae.jp

Image credit: 日本経済新聞出版社/Kimiyo Hayashi

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  sorae.jp編集部は11月某日、「宇宙飛行士の育て方」 の著者である、フリーライターの林公代さんにインタビューを行いました。

 「宇宙飛行士の育て方」: 宇宙飛行士の仕事とその能力の秘密に迫る一冊。若田光一、野口聡一、山崎直子ら日本人宇宙飛行士をはじめ、選抜・訓練担当者、精神心理支援担当者、ロシア人船長らにも徹底取材。宇宙飛行士をどう選び、育て、現場で間違いなく成果を出し、ストレス管理をするのか。国際宇宙ステーションという「多国籍企業」で成果を出す究極の人材選抜・育成術であり、宇宙に興味のある人だけでなく、ビジネスマンにも参考となる書。

 林 公代(はやし・きみよ)著、定価(本体1600円+税)。好評発売中
http://www.nikkeibook.com/book_detail/31645/

 林 公代(はやし・きみよ): 神戸大学文学部英米文学科卒業。日本宇宙少年団情報誌編集長を経てフリーに。書籍、雑誌、ウエブサイトで宇宙関連の記事を企画・執筆。著書に「宇宙においでよ!」(野口聡一飛行士と共著2008年 講談社)など多数。企画・編集に「宇宙日記」(野口聡一著 2006年世界文化社)、「国際宇宙ステーションとはなにか」(若田光一著 2009年講談社ブルーバックス)など。20年以上にわたって宇宙飛行士へのインタビュー、NASA、ロシア、日本でのロケット打ち上げ、宇宙関連施設取材を続けている。

 
--「宇宙飛行士の育て方」の出版おめでとうございます。本書の出版のきっかけを教えてください。

  元々は出版社の方が2009年3月に放映されたNHKスペシャル「宇宙飛行士はこうして生まれた」を見て面白いと感じ、私の所に「宇宙飛行士の選抜・訓練、宇宙飛行について本を書けないか」という話を頂きました。TV番組は選抜だけでしたが、私自身、長年にわたって宇宙飛行士を取材し、彼らの日々の努力や苦労を知っていたので、その実像を伝えられればと思いました。
 
 また、宇宙飛行士はミッション期間中は注目され、英雄のような存在だと思われがちですが、実際は普通のビジネスマンに求められるスキルと共通点が多く、宇宙飛行士だけが特殊ではないということも伝えたいと思っていました。

 
--本書はこれまで知られていない宇宙飛行士の選抜試験や訓練などについて色々書かれていますが、執筆や取材などで苦労した点について教えてください?

  最初にビジネスマンにも読んでもらえるものを書いて欲しいと言われましたが、これまでビジネス書を書いたことがほとんどありませんでしたので、少しとまどいました。ただ、出版社から「気にしすぎず、宇宙飛行士という仕事を紹介するつもりで」という意見を頂いたので、無事書き上げることができました。

  取材で苦労した点は特にないのですが、若田光一宇宙飛行士、ロシアのゲナディ・パダルカ宇宙飛行士、通訳の菊地涼子さんとの取材は和気あいあいと本音の話を伺うことができて今でも印象に残っていますね。

 
--「宇宙飛行士の育て方」をどんな方に読んで欲しいですか?

  宇宙に興味ある人だけでなく、一般の方にも読んで欲しいです。宇宙飛行士は事故などが起こると、いつ宇宙に行けるかも分からず、先の見えない状況で日々訓練を続け、成果を出し続けるしかない環境に置かれています。不景気の世の中だからこそ、先の見えないような環境に置かれている人たちにもぜひ読んで欲しいと思います。


 --林さんは色々な場所に取材に行かれていますが、これまで最も印象に残った場所と人物、その理由を教えてください。

  これまでNASAのケネディ宇宙センター、ジョンソン宇宙センター、ロシアのバイコヌール宇宙基地、スターシティなどに行ったことがありますが、2007年にロシアのソコール宇宙服を製造しているズヴェズダ社に取材できたことが最も印象に残っています。

  ズヴェズダ社を訪れた際、ガガーリン以前から全宇宙服を開発した77歳の現役技術者ボリス・ミハイロフさんが熱心に案内してくれて、ガガーリンが実際に着た宇宙服や月面用に開発していた宇宙服などを見学できました。

 
--林さんが宇宙に興味を持ち始めたのはいつ頃だったのでしょうか?また、そのきっかけも教えてください。

  大学はは英文科出身で、小さい頃は宇宙に興味はなく、恥ずかしながらアポロ計画にも関心がなかったほどです。編集の仕事をしたかったのですが、大学卒業後に入った某新聞社では営業職で、転職を考えていた頃、知人から日本宇宙少年団の機関誌の仕事に誘って頂きました。

  団員達と一緒に取材していくうちに宇宙飛行士の皆さんたちと仲良くなり、どんどん宇宙のことが面白くなり、特に宇宙を追う「人」に興味を持つようになったと思います。

 
--林さんは宇宙に行きたいですか?行くとなった時の恐怖心はありますか?

  もちろん行きたいです。恐怖心はないです。宇宙飛行士の皆さんにも共通するかもしれませんが、本当に好きなことを実現できるとき、本人には恐怖心はないと思います。

 
--スペースシャトルが来年退役してしまいますが、林さんのスペースシャトルへの思いや打ち上げ見学した時の思い出を教えてください。

  スペースシャトルの打ち上げの見学にも何回か行っていますが、2009年3月に見た、若田光一宇宙飛行士を乗せたスペースシャトル・ディスカバリー(STS-119)の打ち上げが最も美しかったです。夕方の打ち上げで、飛んでいくディスカバリーが一番星のように輝いていました。この時は招待席で見たのですが、周りのアメリカ人たちが国家を歌ったり、大歓声をあげたりして一緒に盛り上がったのも楽しかったです。プレス席は静かですからね。

  ただ、スペースシャトルの帰還はまだ一度も見たことがないのです。野口聡一宇宙飛行士初フライトの時、2005年8月にケネディ宇宙センターで帰還を待っていたのですが、天候が悪く、結局、ディスカバリーはカリフォルニア州のエドワーズ空軍基地に着陸し、見ることができませんでした。帰還を見てみたいと思っています。

 
--国際宇宙ステーション(ISS)で「きぼう」が完成し、6人常時滞在、HTVによる輸送も始まりましたが、日本独自の有人宇宙船開発についてどう思いますか?

  必要だと思います。日本は国際宇宙ステーションの有人実験室「きぼう」を設計、製造、運用技術、H2B/HTVによる打ち上げ、ドッキング技術を持っていますし、若田光一宇宙飛行士、野口総一をはじめ、優秀な宇宙飛行士もたくさんいます。彼らはNASAやロシアで訓練を積み有人宇宙船の知識も持っています。今(独自の有人宇宙船を)やらないと、膨大な技術や経験が受け継がれず、本当にもったいないと思いますよ。

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