西友再上場にうかがえるウォルマートの腹の内

2019年7月1日 17:12

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 米国の小売業大手ウォルマートが、傘下の西友、ないしは西友の持ち株会社ウォルマート・ジャパン・ホールディングスのいずれかを、再上場させる方針を明らかにした。6月26日に西友が発表した中期事業計画でも、その旨が明記された。

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 2000年代入口に池袋駅から当時の赤羽線に乗り、北区赤羽の西友本社に頻繁に通った。02年に住友商事の仲介でウォルマートと西友が資本業務提携をし、08年には完全子会社となった。「何故だ」という思いが強く働き、取材意欲をかきたてられた結果だった。「何故だ」の背景は以下のようなものだった。

 周知の通りいわゆるセゾングループは、作家:辻井喬氏としても知られた故堤清二氏により構築された西武百貨店を入口とする企業グループである。「左翼系経営者」といった異名も与えられたが、堤氏の足跡は大きい。

 西友は西武百貨店から派生させた1社。また例えば「ラコステ」ブランドで知られる大沢商会や吉野家の再生を図っているし、無印良品やファミリーマートを育て分離・独立するなどその実績は枚挙にいとまがない。

 そんなセゾングループの1社には、バブル期に「自分の目が黒いうちは、不動産担保融資は一切まかりならん」とし、バブル酒をあおらなかった故竹内敏雄氏率いるクレディセゾンがあった。

 にもかかわらず西友が2000年2月期を境に3期連続の赤字に陥ったのは、バブル崩壊もさることながら、ウォルマートの傘下入りまでした最大の要因は、子会社だった東京シティファイナンスの不動産担保融資による失敗(1200億円の特損計上に始まる)だった。

 西友の筆頭株主は発行済み株式の過半数を握るワイオミング ホールディング ジームビーエイチ。ウォルマートの100%子会社であり、東京シティファイナンスの債務を肩代わりし西友の子会社化を実現した存在である。セゾングループ内の足並みの乱れが西友の身売りに繋がった。言葉を選ばずに言えば、堤氏の唯一の汚点と捉えたからの西友詣でだった。

 当然、広報担当者の口は重かった。が、対面取材を拒絶することはなかった。そしてとうとう「東京シティファイナンスがどんな経緯で子会社になったのかは知らない。知っても仕方がないが、あれがなかったならこんな事態にはならなかったはず」と胸の内を吐露してくれた。

 爾来15年余りが経つ。ウォルマートは西友の再上場を何故に目論んだのか。ウォルマート自身がアマゾンの台頭でビジネスモデルの再構築を迫られている。そうした背景から、ここ数年来伝わってきたのは「西友の売却を進めようとしている」というものだった。

 パン・パシフィック・インターナショナルHD(旧ドンキホーテHD)の大原孝治社長が、「売却の意向が本当なら興味がある」と発言したこともある。幾多の投資ファンドの名前が問沙汰されたりもした。

 では今回の方向転換は、いったいどう理解すればよいのか。同業他社の間からはこんな指摘が聞かれる。「収益体制への疑問」「好立地=不動産価格の重荷」。

 西友はこの間、「EDLP(毎日が安売り)」に象徴されるウォルマート流事業展開を図ってきた。だがそれが日本市場に受け入れられなかったことは、前12月期までの3期間に限ってもウォルマート・ジャパンHDが「計2億6000万規模の赤字」になっていることからも明らか。

 西友については、日経新聞が6月26日の電子版でウォルマート・ジャパンHDのリオネル・ディスクリーCEOの「地域に密着した企業として、日本の消費者との結びつきを強めたい」という発言を伝えている。「脱ウォルマート」宣言とも言える。

 まず日本市場に根差した西友を再構築し、収益の回復を図る。その実現の暁には「不動産価値+付加価値」を目玉に売却を視野に入れている、という見方はあまりに穿ち過ぎだろうか。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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