【カイゼンでトヨタは改革が出来ない?(上)】AI EVが遅れている?原因はカイゼン?

2017年10月1日 12:38

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 最近、「カイゼンでトヨタは改革できない」との批判をよく目にする。それも経済学者などかなりの権威者が真面目に論じている。さてはて妙な論理がまかり通るものだと感じる。ここで紹介するのは、長年トヨタを取材してきた実績のあるジャーナリストであり「学者」と呼んでもよい人達だ。

【こちらも】【投資の真髄:トヨタ生産方式(1)】多種少量生産による数千倍の資金効率

 まず、一般論としてだが、技術の進歩にも「成功体験」がその後の革新を阻んできたと言える事例は多い。

 古くは人類初の動力飛行を成功させた「ライト兄弟」。彼らは自転車屋であったので、エンジンとプロペラを繋ぐのにチェーンを用いた。エンジン軸にプロペラを直結するようになったときにも、彼らはチェーンを使い続け、その後は目立った活躍が出来なかった。これには後日談がある。より大径のプロペラをゆっくり回転させた方が良いことが分かり、ギアで大径プロペラをゆっくり回した海軍「ゼロ戦」が、同じエンジンを積んで直結とした陸軍「隼」に性能で勝ったのは、皮肉なことだ。

 現代の事例としては、フォード生産方式が量産製造の生産方式として確立されたが、その後トヨタ方式に一掃されてしまったことである。さて、今度はトヨタ方式がドイツの生産方式に駆逐される番で、その原因は「成功体験」の「カイゼン」であると言うのだ。

 学者の皆さんは、この歴史上の技術の遍歴に学んでいるのであろう。トヨタの「カイゼン」は古い、「下請けでなくサプライヤーからのグローバル調達とすべき」との新しい動きを信じての見解であろう。

■疑問1:「トヨタはAI EVに遅れている」

 「トヨタはAI EVに遅れている」とする見解だが、まずこの見方が間違いだ。

 トヨタのAIによる自動運転技術の開発は、遅れてはいない。確かに新型カムリに搭載されている「前車追従装置」などの「運転支援装置」に目新しいものはない。しかし言い換えると、「他社に遅れているとは認めがたい」となる。この違いは、トヨタが厳密に「運転支援装置」と呼んで「自動運転」としていないことにある。これには、テスラと提携解消した理由と近いものがあるだろう。

参考: 財経新聞 トヨタの自動運転技術は遅れている? 他社と一線を画して慎重なワケ

 トヨタは、「自動運転技術はいまだ完成しておらず、過信してはならない」と認識しているのだ。テスラの最近の死亡事故を見ても、人間側の「過信」と「技術的未熟」が同居しており、まだ「自動運転」としては実用段階にないと判断すべきだ。「人間は余裕を使い果たしてしまう」の記事でも紹介したが、問題の起こり方をトヨタはよく理解しているのだ。

 また、「トヨタはEV技術に後れを取っている」との認識は、完全に誤りだ。トヨタはHV・PHVの開発・生産・販売・メンテナンス・中古下取りなどでEVの現在の技術レベルを知り尽くしている。「トヨタは世界最高のEV技術を持っている」と言って良い。EVが実用レベルになっていないことを知っているのだ。HVで成功した今、未熟なEV車を発売する必要もない。「トヨタが社会に責任を持って販売できる」と判断したら、発売するだろう。

参考: トヨタはEV技術世界No.1も実用レベルはまだ EVは未だ金持ちのお遊びレベルか

 一般論として電子技術は進歩が速い。そのため開発も速いのだ。まして、基本技術がサプライヤーから買える情勢であると、心配することではない。ニッサンが電池開発をサプライヤーに売り渡したのは、その方が世界最新鋭の技術が安く買えるメリットがあるとしたからだ。

【続きは】【カイゼンでトヨタは改革が出来ない?(中)】バーチャル・シミュレーションの欠落?(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

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