関連記事
「ストレスはなぜ体に悪いのか」の一端が明らかに
ストレスががんの成長を促進する様子。(図:東京大学発表資料より)[写真拡大]
誰もが知るように、ストレスは体に悪い。しかし、「なぜストレスは体に悪いのか」となると、その生理学的機構はほとんど明らかになっていない。しかし今回、東京大学の研究グループにより、神経ストレスが胃がんの進行を加速させるメカニズムが解明された。
世の中で当たり前の常識として知られていることが、実は科学的にはまったく未解明の現象である、というのはさほど珍しいことではない。例えば、酒は飲みすぎると害である。そんなことは古代バビロニア人でも知っていた。有名なハンムラビ法典に「酒乱の者に酒を売ってはならない」とあるから間違いない。だが、アルコールが具体的にどのような生理学的機序で人体に害をもたらすのか、となると、今日の科学の力をもってしてもほとんど明らかになっていないのである。
ストレスという概念は、1930年代後半、カナダの生理学者ハンス・セリエによって提唱された。生体に与えられた有害な刺激は、消化器官の出血や潰瘍などのような、様々な生理学的反応を引き起こす。セリエはこれを明らかにし、ストレスという言葉を用いて一つの理論にまとめた。
さて、今回の東大の研究はその具体的な、生理学的な「根本」を明らかにするものである。消化管内において、ストレスなどの神経シグナルは、アセチルコリンという神経伝達物質によって伝達される。アセチルコリンは、胃がんの細胞に働きかけ、神経成長因子というホルモンを発現させる。研究グループがこの神経成長因子を過剰発現するマウスを人為的に作り出したところ、そのマウスは胃がんになった。
そして逆に、神経成長因子を阻害したり、アセチルコリンを産出する細胞を除去したマウスでは、胃がんの増殖が抑えられることも確認された。すなわち、ストレスは、アセチルコリンを介して胃がんの発生に関与していたのである。
この研究は極めて画期的である。抗がん剤や放射線治療などの既存の手法とは別に、神経細胞をターゲットにした何らかの新しい治療法の確立への道が開かれたのだ。
研究の詳細は、16日、研究誌Cancer Cellのオンライン版に掲載される。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る)
スポンサードリンク