理研、摘出した臓器を長期保存・蘇生する技術を開発

2015年4月25日 21:12

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臓器灌流培養システムの回路図と写真。左:臓器灌流培養システムの回路図。肝上部下大静脈と門脈にチューブを接続し、ポンプで培養液を灌流する。培養液の温度やpH、酸素濃度などを制御できる。右:臓器灌流培養システムの写真。手前に臓器チャンバー(臓器を入れる容器)があり、その内部に肝臓を設置している。写真左側に見えるボトルには灌流培養液が入っている。(理化学研究所の発表資料より)

臓器灌流培養システムの回路図と写真。左:臓器灌流培養システムの回路図。肝上部下大静脈と門脈にチューブを接続し、ポンプで培養液を灌流する。培養液の温度やpH、酸素濃度などを制御できる。右:臓器灌流培養システムの写真。手前に臓器チャンバー(臓器を入れる容器)があり、その内部に肝臓を設置している。写真左側に見えるボトルには灌流培養液が入っている。(理化学研究所の発表資料より)[写真拡大]

 理化学研究所の辻孝チームリーダーらの共同研究グループは、ラットから摘出した臓器を長期保存し機能を蘇生する技術を開発した。

 臓器移植を希望している患者は、現在国内に約1万4,000人以上いるが、多くの患者は臓器移植を受けることができない状態が続いている。研究グループは、現在の臓器移植治療の課題である、ドナー臓器の安定した長期保存と、移植不適応となった心停止ドナーの臓器を蘇生する手法の開発を目指した。

 研究グループは、生体内の立体的な臓器が血液の循環によって恒常性が維持されていることに着目し、それを再現するような臓器の血管を介して培養液を灌流させる臓器灌流培養システムを開発した。そして、ラットから摘出した肝臓を培養し、生体へ移植することによって、同システムが臓器移植治療に応用可能であるかどうかを検証した。

 その結果、保存温度を22℃以下に設定することで、臓器障害を顕著に抑制し、細胞をあたかも「休眠」させたような状態にすることが分かった。実際に、培養液に赤血球を添加したラット肝臓を22℃の培養温度で24時間保存し、その肝臓を他のラットへ移植したところ、生存率は100%であった。

 これらの結果によって、臓器灌流培養システムを用いることで、ドナー臓器の保存時間の延長が可能になることが分かった。また、別の実験によって、移植が不可能であると考えられてきた長時間の温阻血による深刻な障害を受けた心停止ドナー由来の肝臓を、生体外培養により再生が可能なほどに蘇生できることも分かった。

 今後、本研究成果をヒトに応用することが予定されており、未だに不可能な生体外における再生臓器の育成のための培養装置としての発展が期待されている。

 なお、この内容は「Scientific Reports」に掲載された。論文タイトルは、「Hypothermic temperature effects on organ survival and restoration」。

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