政治家に訊く:長島昭久議員(1)「安倍外交に違和感は感じない」

2014年9月4日 18:00

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【9月4日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

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第二次安倍内閣が発足した。岸田文雄外相は留任。懸案だった新設の安全保障担当相には江渡聡徳衆議院議員が防衛相と兼務することとなった。人事の憶測が乱れ飛ぶ中、安倍総理は、1日にインドのモディ首相と初の日印首脳会談に臨んだ。日本政府が目指していた日印の2+2の開催こそ見送られたが、経済を中心とした分野での関係強化で合意。

だがこの間、ロシアの軍事的な脅威が高まり、ウクライナ情勢は緊迫化した。また、9月上旬に、北朝鮮の特別調査委員会が拉致被害者の再報告書を提出する予定だったが、状況は不透明なものに。SFNでは、安倍政権の対アジア外交について、米国の事情にも精通している民主党の長島議員に話を聞いた。
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■地球儀を俯瞰する外交

 横田 大枠の質問で恐縮ですが、ここ2年余りの安倍外交に対する率直な意見をお聞かせいただきたい。アジアの中でも、中国や韓国といった「隣国」との関係は悪化したように見えますし、ロシアの脅威も見過ごせません。一方で、「北朝鮮」との交渉という大きな課題も残されています。

長島 私は「野党」ですが、安倍外交には全く違和感を感じていません。まさに「地球儀を俯瞰する外交」を地でいっている。そしてこれは、「野田外交」の延長でもあります。

ロシアや北朝鮮の話は後に譲りますが、まずは台頭する中国と安定的な関係をつくっていかなくてはいけないという課題が目の前にある。

台頭する中国の勢力圏拡張への動きは急速で警戒を要します。我が国としては譲歩ばかりではなく、ある程度押し返しながら、パワー・バランスの均衡点を探りつつ政策調整をしていく必要があります。そのためには、日米の安全保障協力を土台に、日本単独でも努力しなくてはいけない。

また、米国以外の友好国との連携をどこまで深められるかによって、日本の対中外交の足場を確立する。

これが日本外交の基本戦略です。今回の日印首脳会談もそうですし、先の豪州訪問もそうですが、安倍さんはそのための努力をしてきたと思いますし、野田外交が目指した外交戦略でもあります。

ただ、戦略としては問題ありませんが、戦術の部分では結構ミスを重ねています。具体的には、靖国神社参拝のタイミングや、TPP交渉へのアプローチといった部分です。ここで相当、ワシントンから不信感を買ってしまったり、過剰な譲歩を強いられたりしたのは痛かったと思います。

■戦術的にはミスを重ねた

横田 安倍さんが訪米したのは、昨年の2月末だったと記憶しておりますが。

長島 そうです。ここで安倍さんは急ぎ過ぎたと思います。

民主党政権の時もそうだったのでよくわかるのですが、特に圧勝した選挙の後に誕生した新政権は、これだけの民意がバックにある、早く民意を形にした成果をあげなくてはいけない----そんな気負いと使命感に背中を押され、とにかく気負ってしまうものです。

安倍さんも、同様だったのだと思います。

「民主党政権でズタズタになった日米関係を1日も早く修復しなければ」

そう、思い詰めていたのではないでしょうか。自民党にとってこの3年間は政権にいなかったばかりに、正確な情報が入っていなかったのかもしれません。

自民党が前回の衆議院選で「圧勝」することは、すでに、選挙戦半ばにはわかっていました。そこで安倍さんは、選挙戦の最中である12月中旬頃、外務省に、

「年内に訪米するよう調整してくれ」

「暮れが忙しいなら、年明け早々にでも訪米したい」

と、矢継ぎ早に指示したと仄聞しています。

しかし、実際のところ、日米関係は野田政権で既に修復されていた。確かに、民主政権発足当初の日米関係は危機的な状況でした。しかし、その後日米関係は復元。

ワシントンからは、「既に関係は元どおりになり、順調に行っているのになぜ?」と、非常に困惑したという情報が漏れ伝わってきています。その上、年明けには「一般教書演説」という、大統領が連邦議会両院の議員を対象に行う大事な演説が控えています。これは、国家の現状や主要な政治課題について、大統領の見解を述べる、非常に重要な政治日程です。

その上、米国政治はこの時、経済状況の悪化により厳しい予算削減を迫られていて混沌とした状況でした。

■米国のシビアな交渉術

 横田 そうした経緯があって、ようやく2月後半に訪米できた。ところが日米両国とも、メディアの報道などは拍手喝采というわけではありませんでした。それは、なぜですか。

長島 米国は日本の大事な同盟国ではありますが、交渉事は非常にシビアです。先ほども申し上げましたが、政権発足直後の安倍さんの対米アプローチはあまり褒められたものではない。当時のカート・キャンベル国務次官補が私にこんな疑問を投げました。

「総理訪米の機会なんていうのはせいぜいが年に一度。なぜその機会をもっと大事にしないのか。政権交代直後のドタバタではなく、政権基盤を固めて、日本経済を復活させたという背景を背負ってくれば、米国はもっと歓迎できる。実りある議論もできる。なぜそんなに急ぐのか」

実際、急いだ結果、安倍さんは、TPPで最大の切り札だったはずの「自動車交渉」で大幅な譲歩をしてしまうのです。これは不覚だったとしか言いようがない。そしてそのことが、今でも、TPP交渉で尾を引く原因となっています。

横田 安倍政権は、05年〜08年まで外務事務次官を務めた谷内正太郎が内閣官房参与を経て内閣官房国家安全保障局長に就任するなど、外交面でも重厚な布陣を引いています。なぜ、そのようなことになるのですか?

長島 そこが先ほど指摘した「気負い」の部分にあたるのだと思います。安倍さんの戦術で「誤っていた点」をもうひとつ挙げると靖国神社参拝の時期です。一昨年の12月26日だったのは、皆さん記憶にあると思います。

この時期は、中国も韓国も、日本と関係改善を図ろうとしていた。韓国では財界の後押しを受けて、メディアが世論づくりまで始めていた。韓国では、朝鮮日報の論説室長が署名入りで、「今の朴槿恵政権のやり方ではダメだ。日本と関係改善図るべし」という社説まで書いていた。

中国も、領土問題は棚上げして、経済関係では正常化を図ろうとしていた。

■中国も韓国も製造業は日本頼み

実際、中国も韓国も、日本の部材なしには製造業が立ち行かない。安倍さんは、靖国参拝したことで、その機運を「ぶっ壊した」。同盟国アメリカからも、「dissapointed=失望した」だったと批判されてしまった。日本の長年の友人で熱烈な安倍ファンであるリチャード・アーミテージ元国務副長官も、「あれは、中国を利しただけだった」と私に言いました。

とはいえ、安倍外交の2年間を振り返ると、我が国の外交ステータスを見事に引き上げたと感じています。11月に北京で開催されるAPECでは、日中・日韓首脳会談が実現するでしょう。

そうすると、北朝鮮は後述するとして、日本にとって残されていたパズルの2ピースが埋まることになる。積極的平和主義という外交の柱がいよいよ定まることになります。

次回は、北朝鮮も含めて安倍外交の「今後の課題」を中心にお話したいと思います。(聞き手・SFN編集長 横田由美子)【了】

 長島昭久/ながしま・あきひさ
1962年、横浜生まれ。慶応義塾大学大学院卒。石原伸晃衆議院議員公設第1秘書を経て渡米。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)で修士号取得。米外交問題評議会で日本人初の上席研究員(アジア担当)に。97年夏から「朝鮮半島和平構想」プロジェクトに参画。帰国後、03年、衆議院議員選挙に初当選。現在4期目。民主党政権下では、防衛大臣政務官、副大臣、内閣総理大臣補佐官等を歴任。著書に「『活米』という流儀」(講談社)、「日米同盟の新しい設計図」(日本評論社)等多数。公式HPに長島フォーラム21(http://www.nagashima21.net)

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