サステナビリティ・リンク債とは?仕組みと他のESG 債との違い

プレスリリース発表元企業:シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社




サイーダ・エガーステッド
ヘッド・オブ・サステナブル・クレジット

[画像1]https://user.pr-automation.jp/simg/2027/47430/100_108_20210512174130609b94baed834.png

今日、ESG債券市場は急速に拡大していますが、サステナビリティ・リンク債市場は引き続きニッチな市場として認識されています。一方、当債券は革新的であり、今後大きな発展の可能性を秘めていると考えます。


今日の資産運用業界において、サステナブル投資、責任投資、あるいはESG投資は資産クラスを問わず運用における取り組みのメイン・トピックとなっており、債券資産クラスにおいても、ESG投資には大きな注目が集まっています。
一方、株式のように議決権を有しないため、債券投資家にとっては、どのようにESG投資を実践すれば良いか、あるいは発行体に対してどのようにエンゲージメントを行っていくかなど、いくつかの重要な論点において明確な回答が得られていないのも事実です。そのような中、解決策の1つとして、サステナビリティ・リンク債は今後役割が拡大する可能性があると考えます。
ESG債券の発行ペースは直近2年で急速に拡大してきました。調達資金が環境保護活動や環境保護関連プロジェクトに活用されるグリーンボンドは、その市場規模が最も大きくなっています。また2020年には、調達資金が労働環境の向上や医療へのアクセスといった生活において必要不可欠なサービスなどに活用されるソーシャル・ボンドの市場が前年比で7倍に拡大しました(これは一部新型コロナウイルスの世界的蔓延に呼応する形とはなったものと考えられます)。
また、徐々に拡大しつつも、まだ広く知られていないものが、サステナビリティ・リンク債です。サステナビリティ・リンク債は、特定の重要評価指標(KPI)を組入れたサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPT)を定め発行されます。例えば、製造業だと、「2030年までに、自社商品製造に必要な素材のX%をリサイクルで補う」などが考えられます。このSPTが未達となると、当債券は内包されるステップアップ条項に基づき、発行体が支払う利払いが上昇する仕組みとなっています。

[画像2]https://user.pr-automation.jp/simg/2027/47430/550_352_20210512174135609b94bf90265.png


出所:BloombergNEF、Bloomberg LP、2021年3月31日時点


サステナビリティ・リンク債の起源は2019年9月
2019年9月、イタリアの大手電力会社であるEnel社は、SDGs (国際連合の持続可能な開発目標) リンク債を世界で初めて発行しました。当債券は自社の再生可能エネルギー発電比率を 55%以上に引き上げるというKPIが設定され、目標未達の場合は利率が0.25%引き上げられる仕組みで、これによって、KPIと役員報酬が関連付けられる形となりました。
Enel社は当時、石炭火力発電が主体だったため、実現可能性に疑義を唱える投資家も一部存在しました。しかし、当債券の発行を通じて、同社の環境保護に向けたコミットメントの強さが示されたと考えます。
サステナビリティ・リンク債市場は、ESG債市場全体の中でも未だに市場規模が小さく、現状は発行の多くが欧州で実施されています。しかし直近では、中南米やアジア地域でも発行が行われ、徐々にグローバルな市場へと発展することが期待されています。
また、2018年以降、銀行が借り手側にESGの促進および外部ESG格付けの改善を促すことを意図するサステナビリティ・リンク・ローンの活用が拡大しています。当ローンは、銀行のクレジット・ポートフォリオにおけるESG特性の改善に繋がるほか、借り手のサステナビリティ目標と資金調達コストの関連性を強固にすることが期待されます。
このように、サステナビリティ・リンク債を含むサステナビリティ・リンク投資は、収益獲得手法の1つであると同時に長期経済リターンの先にある社会環境目標の達成を目指す投資手法です。サステナビリティ・リンク債のKPIに関連した取り組みが企業の資金調達、事業運営、あるいはレピュテーション・リスクなど、発行体に様々な影響を与える可能性があり、さらには発行体の株価にも同時に影響を与える可能性があります。

サステナビリティ・リンク債のメリット
サステナビリティ・リンク債は、発行体が企業全体としての社会環境問題関連目標を明確に定義し、固めることができ、短期あるいは中期的な時間軸での優先的な取り組み事項をクリアにすることにつながります。また、サステナビリティ・リンク債を通じて発行体のコミットメントを、測定可能な形で債券投資家あるいは規制当局に示すことができます。
またサステナビリティ・リンク債は、ESGへの取り組みがまだ早期段階にあり、これからESG認証獲得を目指していきたいと考える企業や、ESGへの考慮が十分でないと考えられているセクターあるいは国にとっても発行が行いやすい可能性があります。このような背景から、サステナビリティ・リンク債によってESG市場が今後より包括的で多様性に富む市場へと発展していくことが期待されます。
同様に、サステナビリティ・リンク債は、クーポンのステップアップ条項についても複数の目標を考慮したうえで様々な条件設定が可能である点が特徴と言えます。例えば、ブラジルの製紙企業であるKlabin社が発行したサステナビリティ・リンク債は、3つのKPIを設定しており、2025年までの目標達成を宣言しています。具体的には、水資源の消費量削減、廃棄物の再利用およびリサイクルの活用幅拡大、そして絶滅危惧種に認定されているブラジル在来種の動物を少なくとも2種救済することを定めています。
グリーンボンドやソーシャルボンドと同様に、サステナビリティ・リンク債を発行した企業も通常年次で特定のKPI達成状況に関する報告書を公表します。しかし、サステナブル・リンク債の投資家は、この報告書を分析するにおいて、単に過去の実績を確認するだけではなく、KPIに対する発行体の行動が将来の目標実現につながっているかどうかを精査することが必要となってきます。グリーンボンドやソーシャルボンドが与えるインパクトは個別債券の枠を超えて永続的なものであるはずであり、先ほどご紹介したKlabin社のサステナビリティ・リンク債が設定するKPIも、同社が企業として2030年までの達成を目指すより大きな目標の一部を担っており、その道筋の中期的目標としてサステナビリティ・リンク債が位置づけられています。また、その活動全体を社会および投資家といった第三者が注視することになります。
そして、サステナビリティ・リンク債は測定可能な目標と目標未達時に発行体が支払う経済的コストが明確であり、投資家が発行体に対してエンゲージメントを行うにあたって具体的な根拠を提供する点は大きなメリットと言えるでしょう。
もちろん、サステナビリティ・リンク債に対して批判的な意見も存在します。KPIの未達が投資家に対してより高いクーポン収入を提供し、投資家に対して経済的リターン向上をもたらすという指摘も存在します。しかし、この考え方は近視眼的な意見であると考えます。KPIが達成できない場合、発行体のレピュテーション・リスクが高まるだけでなく、会社がKPI達成によって得られるであろう将来的なメリットを享受できなくなるため、将来的な株価下落や信用リスクの拡大に繋がるリスクがあります。KPI未達によって、投資家は発行体に対する投資意思決定の再評価を強いられることとなり、目標未達の理由や今後の計画を理解するためのエンゲージメントの結果によっては今後の投資対象から除外される可能性も含みます。
サステナブル投資家にとっては、発行体自身が定めた目標を当初予定期日あるいはその前に達成することが重要な意味を持ちます。目標達成を通じて十分な社会的意義が提供された場合、発行体のファンダメンタルズは改善することが期待されます。コスト削減、環境問題などの世界的テーマに対応した事業展開の推進、環境リスクの削減、持続可能なインフラ設備への貢献などが挙げられます。これらを通じた発行体のファンダメンタルズ改善は、投資家にとって当発行体への長期投資の基礎になると考えます。

サステナビリティ・リンク債とグリーンボンド、ソーシャルボンドの比較
サステナビリティ・リンク債は、発行体レベルで設定したKPI達成へのコミットメントが求められる一方、グリーンボンドやソーシャルボンドは調達資金の用途が限定されており、よりプロジェクト単位でのコミットメントとなる傾向があります。直近、娯楽や自動車セクターといった新しいセクターからのグリーンボンド発行が散見されますが、使途を特定のプロジェクトのみに限定した資金調達を行うことは、一部のセクターや地域、あるいは小規模ビジネスにおいては難しいことかもしれません。
一方でサステナビリティ・リンク債はより汎用的で、発行体にサステナビリティ活動戦略に関してより詳細にかつ明確な時間軸をもって発信する機会を提供します。これは、サステナビリティ・リンク債の本質的な価値であると考えます。仮に発行体がサステナビリティ・リンク債に定めるKPIを達成した場合、発行体の事業ファンダメンタルズはより強固なものになると想定されます。仮にKPI未達の場合、発行体は投資家に対してペナルティを支払い、投資家は高い利払いを受け取りますが、場合によっては目標未達の結果を受けて、同社の債券への投資を今後控える可能性があります。
グリーンボンドもサステナビリティ・リンク債も、発行体からインパクト・レポートが発行される点は共通と言えます。グリーンボンドでは、調達資金が活用される特定プロジェクトに関する報告が行われることが多く、サステナビリティ・リンク債では、企業全体の進捗状況に関して報告が行われます。いずれの場合も、報告書の内容に関して第三者からの独立したレビューが年次で実施され、内容の精査が実施されます。
また直近では、興味深いサステナビリティ・リンク債の発行も見受けられます。イタリアの航空輸送サービス、空港開発大手であり、過去にグリーンボンドを発行しているAeroporti di Roma社は、直近サステナビリティ・リンク債を発行しました。これは、従来発行していたグリーンボンドを補完する役割を担っており、発行体がSDG目標13に定められる「気候変動により具体的な対策を」により踏み込んだコミットメントを示しました。このように、グリーンボンドを発行するだけでは、発行企業全体のサステナビリティ認証に対して投資家が懸念を抱く可能性も否定できない一方、サステナビリティ・リンク債はより踏み込んで発行体のサステナビリティに対するコミットメントを示すことができる点はプラスと言えるでしょう。

サステナビリティ・リンク債がより重要となるセクターとは?
サステナビリティ・リンク債市場は、あらゆるセクターの発行体に対して開かれた市場となっており、直近では英小売大手のTesco社、スウェーデン小売大手のH&M社、欧州小売大手のAhold Delhaize社などがサステナビリティ・リンク債の発行を実施しています。これらの発行体は、二酸化炭素排出削減、繊維素材や食品廃棄物のリサイクルなどを目標に掲げています。
一方、ESGの考慮が十分に進んでいない困難なセクターに属する発行体は、サステナビリティ・リンク債の発行を通じた資金調達が特に有益になる可能性があります。例えば、海運セクターが挙げられるでしょう。ノルウェーの海運大手Odfjell社は、2030年の二酸化炭素排出量を2008年対比で50%削減する、という同社の長期的目標達成に向けた道筋に沿うKPIを設定したサステナビリティ・リンク債を発行しました。Odfjell社が現在行っている取り組みは、同セクターの発行体が、船体の交換、技術改善、代替燃料の活用をどのように進めるかを学ぶのに役立つ可能性があります。同社は、二酸化炭素排出削減目標が未達となった場合、2025年の債券満期時に投資家から借り入れた元本にノルウェー・クローネベースで1.5%の上乗せを行い同債券を償還する仕組みになっています。

サステナビリティ・リンク債の発行体はどのように目標設定をするべきか?
SDGsが2030年までに達成されるために、我々は達成に向けた行動をより積極化する必要があり、投資家は企業がより野心的かつ迅速に行動することを期待しています。
今後、サステナビリティ・リンク債の発行体は、セクター内あるいは地域内において共通の指標となり得る目標設定を実施し、また様々なシナリオ下においても達成可能な目標を設定することが、信頼性のあるサステナビリティ活動継続のために重要となるでしょう。同時に、消費者や供給者といったステークホルダーを巻き込んだサステナビリティ活動を行うことが必要と考えます。サステナビリティ・リンク債が償還した後もサステナビリティの目標が継続的に定められ、発行体は債券償還後も資本配分を実施しコミットメントを継続するべきです。
サステナビリティ・リンク債市場はまだESG債券市場のごく一部分を構成するに過ぎません。しかし、2021年に入り急速に発展しています。今後は、投資家が発行体とのエンゲージメントを継続し、より明確なベストプラクティスの構築を進めるにつれて、サステナビリティ・リンク債の発行体は、今まで以上に多様性があり、かつ野心的な目標を掲げるようになると考えます。

サステナビリティ・リンク債のフレームワークの有効性
サステナビリティ・リンク・ファイナンスのフレームワークは、2020年6月に国際資本市場協会(International Capital Market Association;ICMA)によって作成された“Sustainability-Linked Bond Principles”に則る形で発展してきました。歴史が浅いようにも見えますが、企業は同様のフレームワークをローンを通じて経験しています。つまり、従来のローンもサステナビリティ・リンク債も、KPIを選定し、SPTを精査し、ストラクチャリングを行い、レポート作成と検証を実施するという点で、類似性があります。一般的には、サステナビリティ・リンク債がより多様性のある目標設定を行う傾向がある点が、通常のローンと異なる点と考えられます。
サステナビリティ・リンク債にステップダウン条項(特定の目標が達成された場合に、クーポン支払いが下がる条項)の導入に関する有効性を問う意見も聞かれますが、これは発行体のショートターミズム(短期的な経済的利益を優先させる行動)を促進させるリスクがあり、両者の親和性は高くないと考えます。
究極的には、どのようなフレームワークであっても、発行体が野心的なサステナビリティ目標を掲げ、コミットメントを継続できるかが重要であると考えます。その点で、サステナビリティ・リンク債はその他のフレームワーク対比で有効性が高く、付加価値創出余地があると考えます。

国は、サステナビリティ・リンク国債を発行するか?
国あるいは政府関連機関からのサステナビリティ・リンク債発行が行われると、歴史の浅い当市場に対して、市場規模の拡大および流動性を提供することに繋がるでしょう。これらの発行体は、投資家に対して、サステナビリティに関する具体的な目標設定事例を提供することに繋がり、市場全体に“目安”を提供することが期待されます。
国債においては、社会・環境関連セクターにおける安定的な雇用創出、富の不均衡の是正、電気自動車の充電設備の普及などが、目標として掲げられることが期待されるでしょう。また、世界各地の開発系銀行がサステナビリティ・リンク債の発行を通じて加盟国の持続可能な開発目標達成に向けた支援を実施することも想定されます。
政府はまた、技術的支援やテクノロジーの提供を実施することなども想定され、このような役割がサステナビリティ・リンク債において注目されていく可能性があると考えます。政府によるサステナビリティ・リンク債発行は、当市場におけるロールモデルとして極めて重要な役割を担うことが期待されます。



【本資料に関するご留意事項】
・本資料は、情報提供を目的として、シュローダー・インベストメント・マネージメント・リミテッド(以下、「作成者」といいます。)が作成した資料を、シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社(以下「弊社」といいます。)が和訳および編集したものであり、いかなる有価証券の売買の申し込み、その他勧誘を目的とするものではありません。英語原文と本資料の内容に相違がある場合には、原文が優先します。
・本資料に示されている運用実績、データ等は過去のものであり、将来の投資成果等を示唆あるいは保証するものではありません。投資資産および投資によりもたらされる収益の価値は上方にも下方にも変動し、投資元本を毀損する場合があります。また外貨建て資産の場合は、為替レートの変動により投資価値が変動します。
・本資料は、作成時点において弊社が信頼できると判断した情報に基づいて作成されておりますが、弊社はその内容の正確性あるいは完全性について、これを保証するものではありません。
・本資料中に記載されたシュローダーの見解は、策定時点で知りうる範囲内の妥当な前提に基づく所見や展望を示すものであり、将来の動向や予測の実現を保証するものではありません。市場環境やその他の状況等によって将来予告なく変更する場合があります。
・本資料中に個別銘柄についての言及がある場合は例示を目的とするものであり、当該個別銘柄等の購入、売却などいかなる投資推奨を目的とするものではありません。また当該銘柄の株価の上昇または下落等を示唆するものでもありません。
・本資料に記載された予測値は、様々な仮定を元にした統計モデルにより導出された結果です。予測値は将来の経済や市場の要因に関する高い不確実性により変動し、将来の投資成果に影響を与える可能性があります。これらの予測値は、本資料使用時点における情報提供を目的とするものです。今後、経済や市場の状況が変化するのに伴い、予測値の前提となっている仮定が変わり、その結果予測値が大きく変動する場合があります。シュローダーは予測値、前提となる仮定、経済および市場状況の変化、予測モデルその他に関する変更や更新について情報提供を行う義務を有しません。
・本資料中に含まれる第三者機関提供のデータは、データ提供者の同意なく再製、抽出、あるいは使用することが禁じられている場合があります。第三者機関提供データはいかなる保証も提供いたしません。第三者提供データに関して、本資料の作成者あるいは提供者はいかなる責任を負うものではありません。
・シュローダー/Schroders とは、シュローダー plcおよびシュローダー・グループに属する同社の子会社および関連会社等を意味します。
・本資料を弊社の許諾なく複製、転用、配布することを禁じます。


関連リンク
シュローダーの視点
https://www.schroders.com/ja-jp/jp/asset-management/insights/

プレスリリース情報提供元:Digital PR Platform

スポンサードリンク