日本版SCST、ASD成人の日常生活機能の改善をランダム化比較試験で確認

2026年8月4日 23:15

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記事提供元:Tech Times

Image diagram of social cognitive skills training: By practicing social cognitive skills to understand the emotions and intentions of others (left side) and using them in social life situations , the aim is to improve daily functioning and quality of life. Illustration created by Sadao Otsuka using OpenAI ChatGPT GPT-5, image generation function (chatgpt.com)

Image diagram of social cognitive skills training: By practicing social cognitive skills to understand the emotions and intentions of others (left side) and using them in social life situations , the aim is to improve daily functioning and quality of life. Illustration created by Sadao Otsuka using OpenAI ChatGPT GPT-5, image generation function (chatgpt.com)[写真拡大]

日本の研究チームは、自閉スペクトラム症(ASD)の成人を対象とする、文化的に適応した社会的認知スキルトレーニング(SCST)について、日常生活機能の測定可能な改善をランダム化比較試験で初めて示した。これまで日本のASD成人向けには、科学的根拠に基づき、日本の文化に適応した心理的介入がほとんど存在していなかった。既存の精神科デイケア施設で実施できるこの6週間のプログラムは、職場や家庭での人間関係に困難を抱えるASD成人に、新たな支援の選択肢をもたらす可能性がある。

■社会的認知スキルトレーニング(SCST)とは何か、なぜ日本版が必要だったのか

日本の研究チームは、社会的認知を対象として文化的に適応させたグループ療法が、自閉スペクトラム症(ASD)の成人の日常生活機能を測定可能な形で改善することを、ランダム化比較試験で初めて示した。研究成果は7月22日、国際学術誌「Psychiatry and Clinical Neurosciences」に掲載され、兵庫教育大学が8月3日に発表した。他人の表情を読み取ることや、他者の心理状態を推測すること、職場や家庭での人間関係を築くことに困難を抱える日本のASD成人にとって、科学的根拠に基づき、日本の文化に適応した心理的介入はこれまでほとんど存在しなかった。数少ない構造化プログラムも欧米の集団向けに開発されたものであり、日本の臨床現場へそのまま適用することが難しい言語的・文化的前提を含む場合がある。京都大学のチームが、UCLAで統合失調症の人を対象に開発されたプログラムを基に適応させた6週間のプロトコルでは、臨床評価だけでなく日常生活機能にも改善が認められ、その効果はトレーニング終了から6週間後にも維持されていた。

社会的認知スキルトレーニング(SCST)は、UCLAのデイヴィッド・ゲフィン医科大学院で開発されたもので、他者の顔から感情を読み取ること、他者の考えや意図を理解すること、中立的な行動を敵対的だと誤って受け取ることを避けることなど、複数の精神疾患に関係する困難への対応を目的としている。William P. Horanらによる2009年の初期の有効性研究では、症状が安定した外来患者を対象とするランダム化比較試験でSCSTの有効性が検討された。続く2011年のランダム化比較試験では、精神病性障害の患者における表情からの感情認識に有意な改善が認められた。KurtzとRichardsonによる2012年のメタアナリシスを含む研究レビューでは、社会的認知トレーニングに中程度から大きな効果が認められ、特に感情認識と社会的知覚で効果が大きく、「心の理論」でもそれより小さいものの意味のある改善が報告されている。

しかし、これらの有効性試験のほぼすべてが欧米の参加者を対象としていた。韓国の地域精神保健施設で実施されたSCST研究などはあるものの、非欧米の文化的環境に合わせて治療法を適応させる試みは限られていた。異文化心理学の研究によれば、日本の成人を含む東アジアの集団は、SCSTが当初検証された欧米の参加者とは異なる傾向で社会的情報を処理する。心理学者のRichard Nisbettらが「Psychological Review」に発表した研究では、東アジアの文化的背景で育った人は、社会的状況を読み取る際に、周囲の集団や文脈を含めて相手の感情を推測する全体論的な認知スタイルを用いる傾向がある。一方、欧米の参加者は、対象となる人の顔に焦点を当てる分析的なスタイルを用いる傾向がある。このため、京都大学のチームに求められた文化的適応は、単なる言語の翻訳にとどまらず、参加者が社会的な手がかりを処理する際の基準となる認知傾向の違いにも対応する必要があった。

日本版SCSTは、週1回2時間、6週間で全6回というオリジナル版の基本構造を維持し、既存の精神科デイケア施設で、大型モニターとプレゼンテーションソフトを使用するセミナー形式のグループプログラムとして実施された。京都大学のチームはこれに加えて、参加者がセッションの合間に、自分の日常的な対人環境で新たに学んだ社会的認知スキルを練習できるよう、構造化された宿題を導入した。研究者らは、米国のオリジナル版にはなかったこの宿題が、感情認識に関する臨床的な改善を、現実の日常生活機能の改善につなげる仕組みになるとの仮説を立てた。

■試験のデザインと参加者

この試験は、評価者盲検による多施設共同試験として実施された。いずれも結論の信頼性を高める重要な設計である。公表された試験報告によると、京都大学医学部附属病院、丸井クリニック、京都府立洛南病院の精神科デイケアプログラムから、統合失調症、ASD、またはその両方の診断を受けた成人47人が参加した。参加者は、標準治療に加えてSCSTを受けるグループと、標準治療のみを継続するグループにランダムに割り付けられた。結果を評価する心理職には各参加者がどちらのグループに所属しているかを知らせず、非盲検試験で治療効果の評価を押し上げる可能性がある評価者バイアスを抑えた。

評価は、介入前、全6回のセッション終了直後、その6週間後の3時点で行われた。評価項目には、顔の表情からの感情認識、「心の理論」、GAF(機能の全体的評定)尺度による全般的機能が含まれた。「心の理論」の評価には、ケンブリッジ大学のSimon Baron-Cohen教授らが開発した「Reading the Mind in the Eyes」テストが使用された。GAFは、精神状態、社会的関係、仕事や学業を含む全般的な生活機能を評価する臨床指標である。

■試験の結果と診断横断的な可能性

試験では、2つの診断グループに共通する反応と、グループ間の重要な違いの両方が示された。統合失調症とASDの参加者はいずれも、SCSTを受けることで、表情から感情を読み取る能力が有意に改善した。この改善は6週間後のフォローアップ評価でも維持されており、学習効果が短期間で失われなかったことを示唆している。診断を越えて改善が認められたことは、ASDと統合失調症に共通する社会的認知の困難を対象とする介入が、双方の集団に効果をもたらす可能性があるという、診断横断的な考え方を支持する。

ASDの参加者については、さらに幅広い変化が認められた。他者が何を考え、感じているかを推測する高次の能力である「心の理論」についても、改善傾向が示された。この能力は、目元だけを写した写真から心理状態を読み取る課題によって評価された。ただし、この改善は統計的有意水準には達していない。

臨床的に特に重要なのは、ASDの参加者で、6週間後のフォローアップ時にGAFスコアの測定可能な改善が認められたことである。これは、トレーニングによる変化が評価課題の中だけにとどまらず、人間関係、仕事や学業、精神状態を含む日常生活機能の改善にもつながったことを示している。全6回を通じた参加者の出席率は高く、プログラムに対する評価も肯定的だった。日本向けに適応したプログラムが一定の効果を示しただけでなく、対象者にも受け入れられやすかったことを示す結果である。

感情認識の改善が両方の診断グループで認められたことは、診断ごとに完全に独立したプログラムを構築するのではなく、複数の精神疾患に共通する認知上の困難を対象とした、診断横断的な中核トレーニングを開発する考え方を支持する。ASDと統合失調症はいずれも、日常生活機能に大きな影響を及ぼし得る社会的認知の困難を伴う。また、精神医学領域の遺伝学研究では、統合失調症とASDを含む複数の神経発達症が遺伝的リスク要因の一部を共有することが示されており、診断横断的な枠組みの生物学的根拠となっている。

一方、診断グループ間の違いも重要である。「心の理論」の改善傾向とGAFの改善はASDグループで認められたが、統合失調症グループでは認められなかった。この違いは、両者が感情認識に関する効果を共有する一方で、それ以外の改善の現れ方は異なる可能性を示している。原研究では、その理由として、統合失調症の活動性の精神病症状が、新たに学んだ社会的スキルを日常生活へ応用する際の妨げとなる可能性が示されている。一方、精神病症状を伴わないASD成人では、この要因が障壁となりにくい可能性がある。

研究チームは、診断の境界を越えて共通する認知上の困難を扱う中核プログラムと、診断や個人ごとの反応の違いに関係する要因を扱う個別化モジュールの双方が必要だと考えている。この枠組みは兵庫教育大学の発表でも説明されている。

■なぜ日本のASD成人はこれまで待たされたのか

この研究の背景には、大きな臨床的ニーズがある。日本では年齢調整後の自閉症有病率が有意に上昇し、世界平均との差が拡大しているとされる。また、男性の有病率が高く、男女比はおよそ4対1と報告されている。GBD 2021のデータに基づき2025年に公表された日本の疾病負担研究では、日本の年齢調整後の有病率は2050年までにさらに18%上昇すると予測されている。一方、実人数については、日本全体の高齢化に伴う人口構成の変化の影響を受ける。

この研究が特に焦点を当てたのは、子どもの頃にはASDと診断されず、成人後に初めて診断を受けた人々である。こうした人々の中には、十分な説明や支援を受けられないまま、長年にわたって対人関係や就労上の困難を経験してきた人もいる。日本を含む多くの国では、ASDの診断・支援体制が主として子どもを対象に発展してきたため、成人が利用できる構造化された支援の選択肢は限られていた。

本研究の筆頭著者で、現在は兵庫教育大学准教授の大塚貞男氏は、大学で研究に携わる前に臨床心理学の訓練を受けた。臨床現場でASD成人への心理的支援に関する科学的根拠が乏しいことに気づき、この課題に取り組むため、2014年に京都大学の博士課程へ進学した。それから10年以上を経て、大塚氏と京都大学大学院医学研究科の村井俊哉教授が率いる研究チームは、今後の支援に役立つことを期待する研究成果を発表した。こうした研究の背景は兵庫教育大学の公式発表に記載されている。

■今後の展開と研究の限界

京都大学のチームは、今回のランダム化比較試験を踏まえ、すでに次の研究を進めている。現在、神経画像を用いた新たなランダム化比較試験が進行しており、SCSTが統合失調症とASDの参加者に効果をもたらす神経メカニズムを調べる計画である。研究が進めば、診断名だけでなく、個人ごとの脳の特徴に応じてトレーニングプログラムを改良できる可能性がある。この次の研究段階については、兵庫教育大学のプレスリリースで説明されている。

この方向性は、今回の研究の限界も示している。研究チームは日本版SCSTの効果を示したが、それが神経レベルでなぜ機能するのかは、まだ解明していない。また、京都の3つの精神科デイケア施設から参加した47人という規模は、日本各地の多様なASD成人集団に対する安定した効果量を確認するには小さい。ASDグループに認められた「心の理論」の改善は傾向レベルであり、統計的有意水準には達していない。結果の方向性は改善を示しているものの、現段階では確証された効果とはいえない。

それでも今回の試験は、文化的に適応したグループ形式の心理的介入を、1回2時間、週1回、全6回の日程で、既存の精神科デイケア施設において実施できることを示した。施設で通常利用されている大型モニターやプレゼンテーション環境以外に、特殊な設備を導入する必要もない。さらに、ASD成人の社会的認知と日常生活機能を測定可能な形で改善する可能性を示した。新しい建物や大規模なシステム、専用機器を必要とせず、訓練を受けた臨床スタッフが構造化されたグループプログラムを運営することで実施できる。

研究者らが掲げる長期的な目標は社会実装である。プログラムをさらに改良し、効果が検証された病院のデイケアにとどまらず、日本各地の医療、福祉、地域支援サービスで利用できるようにすることを目指している。この目標は兵庫教育大学の公式発表でも示されている。

■注目ポイントQ&A

●社会的認知スキルトレーニング(SCST)とは具体的に何ですか?一般的なソーシャルスキルトレーニングとはどう違うのですか?

社会的認知スキルトレーニング(SCST)は、社会的行動そのものではなく、社会的なやりとりを成り立たせる認知過程を対象とします。具体的には、表情から感情を読み取ること、他者が何を考えているかを理解する「心の理論」、曖昧な社会的行動の背後にある意図を解釈することなどです。

一般的なソーシャルスキルトレーニングでは、アイコンタクトを取ることや会話の順番を守ることなど、観察可能な行動に焦点を当てる場合があります。SCSTはその基盤となる認知過程を訓練します。日本版では、参加者がセッションの合間に日常生活で認知スキルを練習できるよう、構造化された宿題が追加されました。研究チームは、この宿題が臨床評価上の改善を日常生活の改善につなげる仕組みになると想定しています。

●「心の理論」とは何を意味し、なぜASDに関係するのですか?

「心の理論」とは、信念、意図、感情、欲求などの心理状態を他者に帰属させ、それらが自分自身の心理状態とは異なる場合があることを理解する能力です。例えば、プレゼンテーション中の同僚が自分に怒っているのではなく緊張していることや、友人が無口になったのは退屈しているのではなく動揺しているためだと理解することが挙げられます。

Simon Baron-Cohen教授らの研究では、ASDのある人の中にはこの能力に困難を抱える人がおり、そのことが就労、人間関係、日常生活上の課題に関係すると報告されています。「Reading the Mind in the Eyes」テストは、目元の写真から心理状態を推測することで、この能力を評価する指標の一つです。今回の試験では、Baron-Cohenらによる2001年の改訂版が使われました。ASDの参加者は6週間後にも改善傾向を示しましたが、統計的有意水準には達していないため、効果については今後の検証が必要です。

●単なる翻訳ではなく、日本向けに文化的に適応されたことがなぜ重要なのですか?

異文化心理学の研究では、日本の成人を含む東アジアの集団と、SCSTが当初検証された欧米の集団とでは、社会的情報を処理する際の傾向が異なると報告されています。東アジアの文化的背景を持つ人は、相手の感情状態を読み取る際、周囲の社会的文脈も含めて判断する全体論的なスタイルを用いる傾向があります。一方、欧米の参加者は、対象となる人の顔に焦点を当てる分析的なスタイルを用いる傾向があります。

これは認知スタイルの違いであり、能力の優劣を意味するものではありません。ただし、社会的認知課題に取り組む際の基準となる処理傾向が集団間で異なることを意味します。そのため、欧米の参加者を前提としたプログラムを日本の臨床集団で使用する場合、結果が異なったり、内容の調整が必要になったりする可能性があります。京都大学のチームは、こうした違いを考慮してプログラムを適応させ、日常生活で取り組む宿題を追加することで、日本の参加者を対象に効果を検証できる日本版SCSTを作成しました。

●この研究結果は、日本で支援を求めるASD成人にとって何を意味しますか?

日本のASD成人、特に成人後に診断を受け、構造化された心理的支援を利用する機会が限られていた人々にとって、今回の試験は、期間を限定したグループ形式の介入が役立つ可能性を示すものです。ただし、参加者は47人であり、日本全国のASD成人に対する効果が確立されたわけではありません。

全6回の形式は比較的短期間であり、既存の精神科デイケア施設で実施できるよう設計されています。研究チームは今後、医療、福祉、地域支援サービスに展開できるよう、プログラムの改良と社会実装を進める方針です。現時点では、SCSTを実際に受けられる施設が日本全国に整備されていることまでは示されていないため、利用を希望する場合は、通院先や支援機関に提供状況を確認する必要があります。

元記事: Japan Validates First ASD Social Cognition Therapy That Improves Daily Life

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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