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韓国政府、NC AIに約54億円のエンタープライズAI開発を委託――Gabiaをテストベッドに

(Ncsoft.com)[写真拡大]
韓国政府は先週、NCSoftのAI子会社であるNC AIを、3400万ドル(約53億7200万円)規模のエンタープライズAIプロジェクトの主幹機関に指定した。評価されたのは、ベンチマーク上で最も高性能なエージェンティックAIを構築したからではなく、多くの企業向けエージェンティックAIプロジェクトが本番稼働前に頓挫する原因を踏まえた提案だったためだ。2029年までの4年間で、実際の企業環境における検証を経た商用サービスの提供を目指す。
■なぜエンタープライズ向けエージェンティックAIは本番環境への移行に苦戦するのか
韓国の科学技術情報通信部(MSIT)と、そのプログラム管理機関である情報通信企画評価院(IITP)は7月30日、NC AIを「実世界プロアクティブ行動型エージェンティックAI技術開発プロジェクト」の主幹機関に指定した。2029年まで続く4年間のプロジェクトで、総予算は493億7500万ウォン(約3400万ドル、約53億7200万円)。このうち395億ウォン(約2700万ドル、約42億6600万円)を国が負担する。コンソーシアムには、エンタープライズ向けクラウド事業者のGabia、高麗大学校、延世大学校が参加している。
このプログラムが多くの政府系AI研究開発プロジェクトと異なるのは、予算や期間ではなく、テストベッドの設計である。韓国の企業向けメールおよび職場向けコラボレーション市場で国内首位の地位を持つGabiaのグループウェアプラットフォーム「Hiworks」が、実際の商用環境として使われる。コンソーシアムの研究成果はここに導入され、実際の企業ユーザーが利用する環境でストレステストを受け、性能と安定性が検証された後、有料サービスとして商用化される予定だ。
エージェンティックAIとは、単にプロンプトへ回答するだけではなく、与えられた目標に向けて自律的に処理を進めるシステムを指す。目標を受け取り、それを一連のステップに分解し、接続された複数のソフトウェアシステム上で実行したうえで結果を検証し、状況の変化にも対応する。適切に機能するエンタープライズエージェントであれば、「取引先から届いた契約書を処理し、承認済みのリスク基準を超える条項があれば注意対象として示す」といった指示を受け、契約書を読み、企業のリスクポリシーデータベースと照合し、要約メモを作成して適切な承認者に回すところまで、人間が各工程を個別に開始することなく実行できる。
この機能に対する市場の需要は疑いようがない。Futurum Groupによると、自律型エージェントおよびエージェンティックAIを最優先のテクノロジー課題として挙げる世界のIT意思決定者の割合は、1年間で31%以上増加した。各種調査でも、現在ではほぼすべての主要なエンタープライズテクノロジーのロードマップにエージェンティックAIが含まれている。Gartnerは、タスク特化型AIエージェントを組み込んだエンタープライズアプリケーションの割合が、2025年の5%未満から、2026年末までに40%へ上昇すると予測している。
課題は本番環境への移行にある。McKinseyの「State of AI 2025」レポートによると、広範な実験が行われているにもかかわらず、単一の業務機能でAIエージェントの本格展開に成功している組織は10%未満にとどまっている。Gartnerは、2027年までにエージェンティックAIプロジェクトの40%以上が中止されると警告している。アナリストたちが根本的な原因として挙げているのは、モデルの能力ではなく、システム統合の複雑さ、ガバナンスの不備、開発中に実際の組織的制約を顕在化できないことだ。
本番稼働に耐えるエンタープライズエージェントには、連携して機能する5つの層が必要となる。コンテキストを解釈して実行するアクションを選択する大規模言語モデル(LLM)、会話のたびにリセットされずセッションをまたいで組織の知識を保持する永続的なメモリ層、メール、カレンダー、ERP、文書リポジトリなどの実際の企業システムに接続するAPIおよびツールアクセス層、高レベルの目標をサブタスクに分解して専門のサブエージェントに割り振るオーケストレーション層、監査証跡を維持し、アクセス制御を適用するとともに、人間によるレビューのチェックポイントを設ける検証・ガバナンス層である。
問題は、ほとんどのエンタープライズ向けエージェンティックAIプロジェクトが、実際の業務環境から切り離されたラボやサンドボックス環境で開発されていることだ。実際の企業システムに存在する権限制限、データサイロの境界、コンプライアンス上の制約、組織固有のルール構造に直面するのは、導入の最終段階になってからである。その時点でアーキテクチャ上の欠陥を修正するには、多大なコストと時間がかかる。ガバナンスを組み込んだエージェンティックAIのオーケストレーションに関する研究でも、企業への導入には、監査可能で組織のポリシーに沿ったシステムが必要であり、一般的なマルチエージェント構成では対応できないことが多いと確認されている。
「State of AI Agents in Enterprise」レポートによると、高い失敗率を招いているのは、モデル自体の能力ではなく、ガバナンス、統合の複雑さ、組織側の準備不足である。
NC AIコンソーシアムの設計は、この問題に直接対処している。プロジェクトの開始時点から研究成果をGabiaのHiworksプラットフォームに導入することで、コンソーシアムは、開発完了後ではなく開発中に、実際の権限構造、データ境界、コンプライアンス要件といった企業固有の制約を踏まえてシステムを構築する。この構造的な違いこそが、Gabiaのテストベッドを単なる商業上の利便性にとどまらない、重要な仕組みにしている。
■テクノロジーが目指すものとGabiaの役割
公式のプロジェクト名は「目標指向の長期コンテキスト推論に基づく、企業の業務革新に向けたエージェンティックAI技術の開発」である。この名称は、韓国政府が実際に資金を投じる技術領域を示している。具体的には、5層からなるエージェンティックAIアーキテクチャのうち、構築が特に難しく、企業への導入時に欠落しやすい2つの層、すなわちメモリ層に当たる長期コンテキスト推論と、オーケストレーション層に当たる目標の実行可能な計画への分解である。
NC AIは、AIアーキテクチャ、エージェントの学習パイプライン、実行エンジンの設計を主導する。このシステムは、複数の企業業務システムとデータソースを連携させ、組織の業務ルールと個々のユーザーの作業パターンを時間をかけて学習することを想定している。そのうえで、何を行うべきかの特定、作業順序の決定、接続されたシステム上での実行、結果の検証に至るまで、業務タスクのライフサイクル全体を対象に、状況に応じた作業手順を自律的に策定して実行することを目指す。
Gabiaの役割は、研究能力を提供することではなく、実際の導入環境を提供することにある。同社のHiworksは、韓国企業に企業向けメール、カレンダー、タスク管理、コラボレーション機能を提供するグループウェアプラットフォームであり、コンソーシアムの成果が実際の組織的制約に直面する環境となる。計画では、研究成果を商用サービスへ発展させ、4年間の開発期間の終了時に、Gabiaが検証済みのエージェンティックAI機能を自社の企業顧客向けに有料製品として提供する。
高麗大学校と延世大学校は、NC AIとGabiaが担う産業現場での導入経験を補完する、AIおよびコンピュータサイエンス分野の学術研究能力を提供する。
■NC AIのこれまでの取り組みと今後の展望
7月30日の指定は突然決まったものではない。NC AIは、NCSoftでAIおよび自然言語処理(NLP)研究の責任者を務めたイ・ヨンス(Lee Yeon-su)CEOの下、2025年初頭に同社の独立子会社として設立された。2026年に入ってからは、政府支援プロジェクトを相次いで獲得するための取り組みを進めている。
2026年2月、NC AIはSamsung SDS、Hanwha Ocean、Rainbow Roboticsなど53組織からなるコンソーシアム「K-Physical AI Alliance」を立ち上げた。物理AI向けの世界モデルおよびロボティクス基盤モデルを対象とする、IITP主導のイニシアチブへの採択を競うことが目的である。物理AIとエンタープライズ向けエージェンティックAIのプログラムは、同じ企業が並行して取り組む政府プロジェクトとなっている。一方は製造・物流用ロボット、もう一方は企業のオフィス業務自動化に焦点を当て、いずれもMSITとIITPによる同じ国家プログラムの管理体制下にある。
NC AIは、産業および防衛分野での商用提携も進めてきた。具体的には、Hanwha Oceanとの自律溶接、POSCO DXとのロボット基盤モデルプロジェクト、Hyundai Rotemとの防衛シミュレーター開発などである。今回のエンタープライズ向けエージェンティックAIプロジェクトは、同社にとってオフィスソフトウェアおよび企業ワークフロー分野で初となる、主要な政府支援プログラムである。
イCEOは、7月30日の採択をより長期的な展開の中に位置付けている。DigitalTodayの取材に対し、実際の企業環境で検証したエージェンティックAI技術を基盤として、デジタル業務の革新から物理AIへと広がる技術の土台を築く方針を示した。
■韓国のAI投資戦略における位置づけ
このエンタープライズ向けエージェンティックAIプロジェクトは、韓国のより広範なAI投資戦略の一部にすぎない。韓国政府の2026年の国家AI予算は10兆1000億ウォン(約70億ドル、約1兆1060億円)で、2025年から206%増加した。これは、米国、中国と並ぶ世界のAI先進3カ国入りを目指す「K-Moonshot」プログラムの一環である。このうちMSITの2026年研究開発予算では、AIトランスフォーメーションに4兆4600億ウォン(約31億ドル、約4898億円)を割り当てており、前年比29.7%増となっている。
MSITに代わってICT分野の研究開発を管理するIITPは、年間約18億ドル(約2844億円)の予算を運用しており、こうした投資の多くを産業界へ届ける制度上の経路となっている。493億7500万ウォンのエンタープライズ向けエージェンティックAIプロジェクトは、IITPの年間運営予算の約1.9%に相当する。幅広い研究を対象とする助成金ではなく、明確な商用検証経路を持つ集中的な投資である。
NC AIを主幹機関とするプロジェクトの設計には、韓国の科学技術情報通信部が過去のAI研究開発投資から教訓を得た可能性がうかがえる。本番稼働に耐える商用環境で検証できない研究成果では、ラボでの性能と現実世界への導入との隔たりを埋められないという教訓である。Gabiaを使ったテストベッドモデルは、その隔たりを埋めるために政府が示した回答といえる。
■プロジェクトがもたらす影響
NC AI、Gabia、高麗大学校、延世大学校が2029年までに検証済みのエンタープライズ向けエージェンティックAIシステムを完成させた場合、商業的な成果はGabiaの製品群に新製品が加わることだけにとどまらない。制御されたベンチマークではなく、現実の組織的制約を前提として明示的に構築された、世界でも数少ない政府検証済みのエンタープライズ向けエージェンティックAIプラットフォームの一つとなる可能性がある。実際の企業環境でこの技術が安定して実行できることと、できないことを示す4年間の研究記録も伴うことになる。
ただし、その検証結果が韓国国外の企業にも採用されるプラットフォームにつながるかどうかは、このプロジェクトだけでは制御できない要因に左右される。2029年時点の最先端システムと比べたモデル品質、海外ユーザーが利用できるドキュメントやツールの整備状況、Gabiaが研究成果を基に開発する商用サービスが、競争力のあるコストで十分な機能を提供できるかどうかなどである。このプロジェクトが提供するのは、そのような成果を生み出すための基盤であり、成果そのものを保証するわけではない。
一方で、このプロジェクトにより、政府が制度設計し、本番環境を前提としたエージェンティックAI開発を4年間にわたって検証することは決まっている。企業が自己資金で実施する多くの実証プロジェクトでは達成できていない、本番環境へ導入され、継続稼働し、検証可能な組織的価値をもたらすエージェンティックシステムを生み出せるかどうかが試される。
なお、本文中の通貨換算はすべて概算であり、1ドル=158円として計算している。
■注目ポイントQ&A
●エンタープライズ向けエージェンティックAIとは何ですか。チャットボットとはどう違うのですか。
チャットボットは、単一のプロンプトに応答して単一の出力を返す、受動的で状態を保持しないシステムです。一方、エンタープライズ向けエージェンティックAIシステムは目標を受け取り、それを一連のステップに分解し、メール、ERP、文書管理、カレンダーなど、接続された複数のソフトウェアシステム上で実行します。さらに結果を検証し、状況の変化にも対応します。これらの処理は、人間が各ステップを個別に開始しなくても進められます。アーキテクチャ上、エージェンティックシステムには、セッション間でコンテキストを保持する永続的なメモリ、実際の企業システムを読み書きするためのツールアクセス、サブタスクを適切な専門エージェントに割り振るオーケストレーション層が必要です。この多層構造が、エージェンティックシステムをチャットボットよりも安定して導入することが難しい理由です。
●なぜ多くのエンタープライズ向けエージェンティックAIプロジェクトは、本番環境に到達する前に失敗するのですか。
Gartnerは、2027年までにエージェンティックAIプロジェクトの40%以上が中止されると予測しています。アナリストが共通して指摘している原因は、モデルの能力ではなく、システム統合の複雑さとガバナンスの不備です。ほとんどのエンタープライズエージェントは、実際の企業システムにある権限制限、データ境界、コンプライアンス要件、例外処理条件にさらされないサンドボックス環境で開発されています。導入の最終段階でこれらの制約が顕在化すると、アーキテクチャ上の欠陥を修正するために多大なコストがかかり、多くのプロジェクトが中止されます。NC AIのプロジェクトが用意した構造的な回答が、GabiaのHiworksを使ったテストベッドです。本番稼働に近い企業環境で、研究成果を開発完了後ではなく開発中から実際の制約にさらします。
●NC AIのエンタープライズ向けエージェンティックAIプロジェクトは、同社の物理AI・ロボティクス事業とどのような関係があるのですか。
NC AIは、MSITとIITPを通じた2つの異なる政府プロジェクトで主導的な役割を担っています。一つは7月30日に発表されたエンタープライズ向けエージェンティックAIプロジェクトで、予算は493億7500万ウォン、約3400万ドル、期間は4年間です。もう一つは、ロボットおよび製造分野の基盤モデルを対象とするK-Physical AI Allianceです。両者は企業向けオフィスソフトウェアと産業用ロボティクスという異なる技術領域のプログラムです。ただし、NC AIのイ・ヨンスCEOは、デジタル企業環境で検証された自律実行機能を、製造・物流分野の物理AIにも展開する方針を示しています。エンタープライズ向けプロジェクトは、目標指向のコンテキスト推論、複数ステップの計画、検証を伴う実行といった基盤技術が、工場へ応用される前に実際の組織環境で機能するかを検証するものです。
●4年間のプロジェクト終了後、研究成果はどうなるのですか。
プロジェクトの設計では、NC AI、Gabia、高麗大学校、延世大学校によるコンソーシアムの研究成果を、Gabiaのエンタープライズ向けグループウェアプラットフォーム「Hiworks」に導入し、実際の企業環境で性能と安定性を検証します。検証後、コンソーシアムはGabiaの既存顧客向けチャネルを通じて、これらの機能を有料のエンタープライズサービスとして商用化する計画です。政府プロジェクトは研究と商用検証の第1段階に資金を提供するもので、それ以降の商用化は、Gabiaが持つ企業向け市場での販売基盤を通じて進められる見込みです。
元記事: NC AI Lands Korea’s $34M Agentic Enterprise Mandate With Gabia as Live Testbed
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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