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韓国の預金トークン決済、Toss Paymentsが既存POSとの統合を担う
韓国政府は、同国の預金トークンネットワークを数百万の小規模事業者が利用するPOSシステムに接続する事業の優先交渉権者として、Toss Paymentsを選定した。これにより、中央銀行デジタル通貨(CBDC)を基盤とする「Project Hangang」が、初めて一般の商取引へと拡大することになる。既存のPOS端末を置き換えずに導入できる後方互換性が特徴で、2026年後半から実店舗でのテストが始まる予定だ。
■CBDCインフラの民間商取引への拡大
韓国は、スーパーアプリを運営するViva Republicaの決済ゲートウェイ部門であるToss Paymentsを、96億ウォン(約670万ドル、約10億6500万円、1ドル=159円換算)規模の政府事業の優先交渉権者に選定した。この事業は、同国の預金トークンネットワークを数百万の小規模事業者が利用するPOSシステムに接続するもので、「Project Hangang」のCBDCインフラを初めて一般の商取引へと拡大する。
この事業は、科学技術情報通信部(MSIT)と韓国インターネット振興院(KISA)が実施する「2026年ブロックチェーン革新先導プロジェクト」の一環である。7月22日にはKISAのソウル本部で合同発足式が開催された。金融決済院(KFTC)が事業の主幹機関を務め、商業銀行9行、決済ゲートウェイ8社、大手小売事業者2社で構成するコンソーシアムを取りまとめる。2026年後半には、実店舗でのテストが始まる予定だ。
この事業を契約金額以上に重要なものにしている設計上の判断が、後方互換性である。加盟店は既存のPOS端末を交換したり、バックオフィスとの連携システムを再構築したりする必要がない。Toss Paymentsは、既存の決済ゲートウェイ基盤と加盟店との関係を活用し、預金トークンウォレットによる取引を、加盟店がすでに使用している決済ネットワークへ橋渡しする。
■預金トークンとは何か:ステーブルコインやリテール型CBDCとの違い
韓国のデジタル通貨へのアプローチは、単なるブロックチェーン決済の実験と誤解されやすい。なぜそうではないのかを理解するには、預金トークンとは何か、そして何ではないのかを理解する必要がある。
預金トークンとは、従来の銀行預金をブロックチェーン上でデジタルに表現したものである。裏付けとなる債務は発行銀行の貸借対照表に残り、預金保険の適用を含め、通常の預金と同じ規制要件の対象となる。この点で預金トークンは、規制対象の銀行ではなく、ステーブルコインの発行者に対する請求権であるステーブルコインとは異なる。国際決済銀行(BIS)は2023年4月、この違いが通貨システムの安定性にとって構造的に重要であると指摘した。
預金トークンは、中央銀行が国民にデジタル通貨を直接発行するリテール型CBDCとも異なる。Project Hangangでは、韓国銀行が金融機関に対してのみホールセール型CBDCを発行する。金融機関はそれを基盤として預金トークンを発行し、消費者は銀行が提供するウォレットアプリを通じて預金トークンを保有、利用する。中央銀行が決済の基盤を提供し、銀行が顧客との関係を維持する仕組みだ。
この仕組みを支えるメカニズムであり、BISが金融経済学でいう「貨幣の単一性(singleness of money)」を維持するための重要な設計上の選択肢として挙げたのが、バーン・アンド・イシュー(焼却・発行)プロトコルである。A銀行の顧客が、B銀行に口座を持つ加盟店へ支払う場合、スマートコントラクトを通じて3つの処理が単一の不可分な取引として実行される。まず送金側銀行の預金トークンが焼却され、次に韓国銀行の許可型Hyperledger Besu台帳であるデジタル通貨システム(DCS)上で、同額のホールセール型CBDCが銀行間で移転される。最後に、受取側銀行が加盟店に預金トークンを再発行する。いずれかの処理に失敗すれば取引全体が無効となるため、部分的な決済や、資産の引き渡しと支払いのずれ、カウンターパーティーリスクは生じない。
民間のステーブルコインは、これと同じ保証を提供できない。ステーブルコインの移転は発行者に対する請求権の移転であり、発行者の準備資産や信用力が悪化すれば、トークンの価値が額面から乖離する可能性がある。これはリスク管理だけの問題ではなく、金融商品そのものが持つ構造的な特性である。BISが2023年4月、持参人型の金融商品として流通するステーブルコインは、中央銀行通貨で決済される預金トークンよりも、貨幣の単一性との親和性が本質的に低いと結論づけたのはこのためだ。
■技術スタック:Hyperledger Besu、PoA、そして残されたBOK-Wire+の課題
Project Hangangのデジタル通貨システム(DCS)は、オープンソースの許可型ブロックチェーンプラットフォームであるHyperledger Besu上で稼働している。韓国銀行は、Proof of Authority(PoA)コンセンサスモデルの下で唯一のバリデーターを務める。つまり、分散型の検証に依存するのではなく、中央銀行がすべての取引を確定させる。この設計によって、パブリックブロックチェーンに見られる混雑、手数料の変動、ネットワークの分断といったリスクを回避している。
トークンのアーキテクチャは、価値の移転機能と利用条件を分離している。ERC-20(代替可能なブロックチェーントークンの標準規格)で実装された通貨レイヤーが、実際の資金移動を処理する。一方、ERC-1155で実装され、ERC-3525へのアップグレードが進められている別の条件レイヤーが、利用可能な事業者、時間帯、経費区分などのプログラム可能な支出制限を担う。こうした条件は通貨そのものには組み込まれない。支出条件を定めるスマートコントラクトにコーディング上の誤りがあっても、基礎となる預金の代替可能性は損なわれない。資金とルールを別々のオブジェクトとして扱う設計である。
Toss Paymentsの統合レイヤーは、消費者が利用する銀行発行の預金トークンウォレットアプリと、加盟店側のアクワイアリングインフラとの間に置かれる。消費者がQRコードを読み取るか、スマートフォンを端末にかざして支払うと、銀行のウォレットがDCS上で預金トークン取引を開始する。決済ゲートウェイとして機能するToss Paymentsは、加盟店がすでに利用している決済ネットワークを通じて、その確認情報を既存のPOS端末へ送る。新しい端末、新たな加盟店向けソフトウェア連携、従業員の再研修はいずれも不要で、預金トークンによる支払いは、決済が完了した取引として加盟店の既存システムに通知される。
この設計の重要性は、単なる運用上の利便性にとどまらない。世界各地で行われてきたCBDCの実証事業は、加盟店側での導入段階において繰り返し停滞してきた。加盟店に端末の交換やシステム連携の再構築を求めると、インセンティブだけでは確実に克服できない導入障壁が生じるためだ。韓国が採用するアトミックな銀行間決済と、後方互換性のあるPOS連携の組み合わせは、BISが指摘した通貨システムの設計問題と、加盟店の導入負担という2つの問題を同時かつ大規模に解決しようとする、文書で確認できる初の実社会での試みとなる。BISは2023年の年次経済報告書に掲載した「統合台帳(unified ledger)」構想で両方の課題を挙げていたが、これまで両面について、構想段階から民間部門との契約締結まで進んだ中央銀行はなかった。
一方、Toss Paymentsの事業では解決されない制約もある。DCSと、韓国の従来型銀行間決済システムとの技術的な隔たりだ。DCSは24時間稼働するが、1994年から韓国の銀行間決済を処理してきたBOK-Wire+の稼働時間は、平日の午前9時から午後8時までに限られる。両システムの照合は暗号化されたUSBメディアを使ってオフラインで行われ、各銀行のホールセール型CBDC残高の変動は、リアルタイムではなく毎日午後3時時点のスナップショットに記録される。韓国銀行のShin Hyun-song総裁は、欧州中央銀行の「Forum on Central Banking 2026」向けの論文で、これを真の24時間365日の商用運用を可能にする前に解決する必要がある「過渡的な措置」と認めている。
■実証実験から実店舗へ:Project Hangangのこれまでの歩み
韓国のCBDCへの取り組みは、2025年4月から6月にかけて実施されたProject Hangangフェーズ1から始まった。7行と約1万2000カ所の加盟店が参加し、約11万4880件の取引が行われた。実証では技術的な信頼性が確認された一方、普及面の課題も明らかになった。参加を案内された市民10万人のうち、ウォレットを開設したのは約8万人で、決済総額は約6億9200万ウォン(約48万3000ドル、約7680万円)にとどまった。参加銀行がフェーズ1のインフラ構築に共同で投じた約300億~350億ウォン(約2090万~2440万ドル、約33億2300万~38億8000万円)と比べると、小規模な利用実績だった。
2026年3月に9行で始まったフェーズ2では、対象範囲が広げられた。生体認証による決済承認、個人間のウォレット送金、自動チャージ、定期的な自動支払いに加え、プログラム可能な政府給付が初めて実取引に導入された。対象事業者への電気自動車充電補助金について、利用可能な事業者、時間帯、経費区分をスマートコントラクトが取引時点で確認する仕組みだ。支払い後に領収書を監査するのではなく、資金が動く前に不正利用を防ぐ。
金融委員会は2026年7月15日、フェーズ2を「革新的金融サービス」に正式指定した。これは規制サンドボックス上の区分で、参加する9行は最大50万人の利用者に預金トークンを発行できる。大規模な実取引は9月の開始を目標としている。
木曜日に発表されたMSITとKISAの加盟店インフラ事業は、この基盤に新たなレイヤーを加えるものだ。総予算96億ウォン(約670万ドル、約10億6500万円)のうち、約30億ウォン(約210万ドル、約3億3400万円)は、システムの開発と商用化に参加する中小企業、スタートアップ、IT企業に関係する開発、運用、プロモーション活動へ充てられる。参加する商業銀行やその他のコンソーシアムメンバーも、この主要事業と並行して、約45億ウォン(約310万ドル、約4億9300万円)規模の関連事業を追加で実施する予定だ。
■手数料削減と迅速な決済:韓国の小規模事業者が得るメリット
政府がこの事業を推進する明確な理由は、韓国の小規模事業者が負担する決済手数料の軽減である。韓国のカード決済では、アクワイアラー、カードネットワーク、カード発行会社を経由して資金が処理され、それぞれの段階で取引手数料が発生する。韓国銀行のホールセール型CBDCを基盤としてブロックチェーン上で直接決済する預金トークンは、カードネットワークの仲介手数料を取り除くことにより、1取引当たりのコストを大幅に引き下げると期待されている。
決済に要する時間も、2つ目の商業上の利点となる。韓国の従来型カード取引では、加盟店口座への入金まで通常1~3営業日かかる。預金トークンは、支払い指示と不可分な形で実際の銀行資金が移動する仕組みであるため、原理上は即時決済が可能だ。資金を迅速に回転させる必要がある小規模事業者にとって、大きなキャッシュフロー上の利点となり得る。
ただし、BOK-Wire+との照合に関する制約があるため、平日の稼働時間外や週末の取引を含む完全な24時間365日の即時決済は、まだ実現していない。一方、BOK-Wire+の稼働時間内であれば、DCSは銀行間取引部分をリアルタイムで確定できる。
■TossエコシステムにおけるToss Paymentsの位置づけ
Toss Paymentsは、ソウルを拠点とするフィンテック企業Viva Republicaの決済ゲートウェイ子会社である。Viva Republicaは、元歯科医のLee Seung-gun氏が2013年に設立し、Tossスーパーアプリを韓国で最も利用されている金融プラットフォームの一つへ成長させた。Tossのエコシステムは銀行、証券、保険、決済、加盟店向けサービスに及び、韓国で数千万人の利用者にサービスを提供している。Viva Republicaは米国での新規株式公開(IPO)も別途進めており、Reutersは2025年、同社が100億ドル(約1兆5900億円)を超える評価額での上場を目指していると報じた。
これとは別に、Viva Republicaは独自のブロックチェーンメインネットを開発し、ステーブルコインの活用も検討してきた。これは、Toss Paymentsの事業が扱う規制下のCBDCインフラとは並行する取り組みである。Lee Seung-gun氏は、規制が認めれば韓国ウォン建てのステーブルコインを発行する意向を示している。
政府のCBDCゲートウェイと民間ステーブルコインという2つの取り組みは相互に排他的ではないが、異なる法的枠組みと制度上の関係の下で進められる。MSITとKISAの事業は、Toss Paymentsを規制された中央銀行インフラの中に位置づける。一方、ステーブルコインの取り組みは、2026年後半の国会通過を目標とする、内容がまだ確定していないデジタル資産基本法(Digital Asset Basic Act)の枠組みに左右される。
CBDCゲートウェイ事業への参画は、Toss Paymentsの消費者向け事業に、制度インフラという新たな側面を加える。政府の主要なCBDC商用化事業の優先交渉権者として、Toss Paymentsは、将来の韓国の決済アーキテクチャの中核に位置する可能性がある。その構想では、即時決済、24時間稼働、加盟店の取引コスト削減が目標となる。
■デジタルウォン決済の導入に加盟店側の変更は必要か
端的にいえば、変更は必要ない。この後方互換性こそが、今回の取り組みを過去の多くのCBDC加盟店導入事例と区別する、重要なアーキテクチャ上の選択である。
コンソーシアムの仕組みでは、加盟店は既存のPOS端末を通じて預金トークン決済を受け付ける。消費者は銀行が提供する預金トークンウォレットアプリを使い、カード決済ですでに利用している端末でQRコードを読み取るか、スマートフォンをかざして支払う。決済ゲートウェイであるToss Paymentsが、DCS上の銀行ウォレット取引と加盟店の既存のアクワイアリング環境を橋渡しする。KISAとMSITの事業資料によると、加盟店は現在のカード決済処理と同じチャネルを通じて、取引の確認と決済を受ける。
Toss Paymentsを含むコンソーシアム参加の決済ゲートウェイ8社により、預金トークンの受け入れは、単一事業者の加盟店網に閉じた仕組みではなく、開始時点から幅広いアクワイアリング関係に対応する計画だ。コンソーシアムに参加する大手小売事業者2社は、2026年後半に実店舗テストを始めるためのパイロット店舗を提供する。
■注目ポイントQ&A
●預金トークンとは何ですか?なぜ韓国はリテール型CBDCの代わりに採用するのですか?
預金トークンとは、従来の銀行預金をブロックチェーン上でデジタルに表現したものです。債務は発行銀行の貸借対照表に残り、預金保険の適用を受け、既存の銀行規制の対象となります。韓国は、中央銀行が一般の利用者へデジタル通貨を直接発行するリテール型CBDCではなく、信用創造や顧客関係における商業銀行の役割を維持するため、このモデルを選びました。
韓国銀行は参加する9行に対してのみホールセール型CBDCを発行し、その銀行が消費者向けの預金トークンを発行します。バーン・アンド・イシュー(焼却・発行)の決済メカニズムにより、異なる銀行の顧客間で預金トークンが移動する際には、焼却、銀行間CBDC移転、再発行の3つの処理が不可分な形で実行されます。これにより、どの銀行が発行した預金トークンであっても、中央銀行通貨を使って額面どおりに決済されます。これは金融経済学で「貨幣の単一性」と呼ばれる性質であり、民間のステーブルコインが確実に保証することはできません。
●韓国の加盟店は、預金トークン決済を受け入れるために決済端末を交換したり、ソフトウェアを再構築したりする必要がありますか?
いいえ。Toss Paymentsの統合システムは、既存のPOSハードウェアやアクワイアリング環境との後方互換性を持つように設計されています。消費者は銀行発行の預金トークンウォレットアプリを使って支払い、Toss Paymentsがその取引を加盟店の既存の決済ネットワークへ橋渡しします。
現在カード決済を受け付けている加盟店は、新しいハードウェアの導入、ソフトウェア連携の再構築、スタッフの再研修を行わずに、同じ端末を通じて預金トークン決済を受け付けられるようになります。専用の新決済ネットワークを構築するのではなく、後方互換性を優先したことが、政府による銀行9行、決済ゲートウェイ8社のコンソーシアム形成を可能にした理由です。
●韓国の預金トークン決済ネットワークは、いつ一般の消費者や企業に利用可能になりますか?
Project Hangangのフェーズ2では、参加9行が最大50万人の消費者に預金トークンウォレットを提供することが認められており、2026年9月からの大規模な実取引開始を目標としています。MSITとKISAの加盟店インフラ事業は、2026年後半に実店舗環境でのテストを始める予定で、現在はコンソーシアムの参加企業との間で、詳細な開発・統合計画が進められています。
本格的な商用展開には、DCSと韓国の従来型BOK-Wire+決済システムとの技術的な隔たり、DCS上でネイティブに発行されるホールセール型CBDCの法的地位、ステーブルコイン発行とデジタル通貨の規制枠組みを定めるデジタル資産基本法の最終的な内容など、複数の未解決問題への対応が必要です。
●これは他国がCBDCで行ってきたこととどう違いますか?
リテール型CBDCを正式に導入した国は、バハマ(Sand Dollar、2020年10月)、ナイジェリア(eNaira、2021年)、ジャマイカ(Jam-Dex、2022年)の3カ国のみです。いずれも韓国のようにホールセール型CBDCと預金トークンを組み合わせる方式ではなく、リテール型CBDCを直接発行するモデルを採用しています。
Atlantic Council CBDC Trackerによると、中国のデジタル人民元(e-CNY)は世界最大規模のCBDC実証であり、2025年後半までに34億件を超える取引を処理し、その総額は約16兆7000億元(約2兆3000億ドル、約365兆7000億円)に達しました。これは中国人民銀行が国有銀行を通じて発行するリテール型CBDCであり、預金トークン方式ではありません。
ホールセール型CBDCによるアトミックな銀行間決済と、後方互換性を備えた加盟店ゲートウェイ連携を組み合わせる韓国のモデルは、いずれの方式ともアーキテクチャが異なります。一般の加盟店のPOSレイヤーで、トークン化預金に関するBISの2023年の「統合台帳」構想を検証しようとする、政府支援による初の主要な試みとなります。
元記事: South Korea Taps Toss Payments to Route CBDC Into Merchant Checkouts Without Replacing Terminals
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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