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名古屋の国際神経内分泌学会、キスペプチンとClock遺伝子の臨床応用に焦点

(Inf-neuroendocrinology.org)[写真拡大]
私たちの食欲や生殖、老化の進み方を調節する脳の視床下部。その仕組みを研究する世界最大規模の神経内分泌学の国際学会が、現在名古屋で開催されている。不妊治療への応用が期待される「キスペプチン」や、老化の進行に関わる「Clock遺伝子」など、基礎研究から臨床応用へ近づきつつある最新の知見が取り上げられている。不妊症、肥満、代謝症候群、概日リズムの乱れに関連する疾患を抱える人にとって、今後の治療につながる可能性がある一方、研究の多くは臨床試験中または動物モデルでの検証段階にある。
■神経内分泌学の臨床的転換点:生殖、食欲、老化時計のつながり
第11回国際神経内分泌学会(ICN 2026)と第52回日本神経内分泌学会学術集会が、7月26日から29日にかけて名古屋のWINC AICHI(愛知県産業労働センター)で開催されている。テーマは「Fascinating Neuroendocrinology(魅惑の神経内分泌学)」で、南北アメリカ、欧州、アジア、オーストラリアから研究者が集まり、生殖、代謝、ストレス、生物リズムの4つのテーマについて、12のシンポジウムと6つの全体講演で議論を交わす。
今年のプログラムで特に注目されるのは、この分野で有望視される2つの治療標的、キスペプチンと概日リズムを司るClock遺伝子が、研究上の関心対象から臨床応用が視野に入る段階へと進んでいる点だ。キスペプチンはヒトの生殖機能障害を対象に試験されている。Clock遺伝子を巡っては、哺乳類を対象とする老化介入研究が進み、2025年と2026年に査読付き学術誌でデータが発表されている。不妊症、肥満、代謝症候群、概日リズムの乱れに関連する疾患を抱える患者にとって、今週名古屋で議論される研究は決して抽象的なものではない。
神経内分泌学は、神経系と内分泌系がどのように相互に調節し合うかを研究する分野である。具体的には、脳の回路が腺に働きかけてホルモンを産生させ、そのホルモンが脳機能をどのように変化させるかを探る。ゴルフボールより小さい視床下部がこれらを調整しており、生殖、食欲、ストレス応答、体液バランス、体温、そして代謝を明暗周期に同期させる24時間の体内時計を制御している。
この分野の近代的な起源は、ジェフリー・ウィングフィールド・ハリスにさかのぼる。ハリスは20世紀半ば、視床下部が特殊な門脈系を介して下垂体前葉を制御することを実証し、現在の神経内分泌学の基礎となる仕組みを明らかにした。その研究は、下垂体機能を駆動する視床下部ペプチドホルモンを特定し、1977年にノーベル生理学・医学賞を受賞したロジェ・ギルマンとアンドリュー・シャリーの業績へとつながった。ICN 2026は、主要講演であるジェフリー・ハリス記念講演を通じてその功績をたたえており、今年はホリー・A・イングラハムが講演者を務めた。
■視床下部における性差:見過ごされてきた重要テーマ
国際神経内分泌連盟が授与する最高の栄誉であるジェフリー・ハリス記念講演は、今年、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のハーツスタイン分子生理学教授、ホリー・A・イングラハムに贈られた。全米科学アカデミーとアメリカ芸術科学アカデミーの会員でもあるイングラハムは、女性の生涯を通じ、ホルモン変動が脳と身体にどのような適応反応を生み出すかを研究してきた。
日曜日の全体講演では、神経内分泌回路における性差が取り上げられた。これまで多くの基礎的な神経内分泌研究で雄の動物モデルが使われてきたため、この研究領域は歴史的に十分な関心を向けられてこなかった。
視床下部における性差は表面的なものではない。代謝疾患へのかかりやすさ、ストレス応答の仕組み、神経内分泌経路を標的とする薬に対する反応を左右する。女性特有のホルモン環境が脳回路をどのように形作るかを理解することは、男女の双方で同等に有効な治療法を設計するための前提条件とみなされるようになっている。しかし、この基準はまだ一貫して満たされていない。
■概日リズムと老化:体内時計が寿命を左右する可能性
月曜日朝の全体講演では、テキサス大学サウスウェスタン医療センターのジョセフ・S・タカハシが、Clock遺伝子と、それが睡眠だけでなく老化の進行にも関わる可能性について研究成果を発表した。
タカハシは1990年代、哺乳類で最初の概日リズム遺伝子「Clock」を発見した。この功績により2019年にグルーバー神経科学賞を受賞し、全米科学アカデミーと全米医学アカデミーの会員にも選出されている。
タカハシの研究室はその後、Clock遺伝子が睡眠・覚醒サイクルを調節するだけでなく、代謝、免疫機能、心血管機能、細胞増殖、老化の分子的特徴など、ほぼすべての主要な細胞経路と相互作用することを示してきた。Clock遺伝子に変異を持つマウスは加齢とともに肥満になる。この結果は、概日リズムの乱れだけでも代謝疾患を引き起こし得ることを初めて示した。
名古屋で発表された研究は、健康寿命を延ばす手段としての概日リズムへの介入に焦点を当てている。タカハシの研究室は、マウスを対象としたカロリー制限下の寿命延長において、時間制限給餌が大きな要因になることを明らかにした。時間制限給餌とは、24時間にわたって食べるのではなく、体の自然な概日位相に合った時間帯に摂食する方法である。
少なくとも老化の過程については、「何を食べるか」と同じくらい「いつ食べるか」が重要である可能性を示す結果だ。同じカロリー量でも、摂食時間を概日リズムに合わせた場合には、24時間全体に分散させた場合とは異なる分子プログラムが活性化されるためである。
代謝症候群のある人、シフト勤務に従事する人、食事時間が不規則な人にとって、これは無関係な研究ではない。概日リズムの乱れは、代謝症候群、がんへのかかりやすさ、神経変性、老化の加速と関連している。低下した概日リズムの振幅を薬理学的に回復させることで生物学的老化を遅らせられるのではないかという仮説を、タカハシの研究室は現在、動物モデルで検証している。
■GnRHパルスの謎:不妊治療を根本から変える可能性
ICN 2026のプログラムによると、火曜日のモルティン・ジョーンズ記念講演では、キングス・カレッジ・ロンドン女性・小児健康学部のケビン・オバーンが、神経内分泌学における古くからの未解決問題の一つを取り上げる。脳がどのようにして性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の正確で規則的なパルスを生成、調節し、生殖ホルモンの連鎖全体を駆動するのかという問題だ。
GnRHは視床下部からパルス状に放出され、月経周期の卵胞期にはおよそ1時間に1回放出される。そのパルスの頻度と振幅によって、下垂体からの卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)の分泌が調節され、排卵、精子形成、生殖能力が左右される。
GnRHのパルス分泌の乱れは、視床下部性無月経、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、先天性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症など、複数の不妊症の基礎にある。パルス発生機構を理解することは、実用的な意味では、不妊症をその発生源から理解することに当たる。
これらのパルスを生み出すシステムが、KNDyニューロンネットワークである。視床下部弓状核に存在し、キスペプチン、ニューロキニンB、ダイノルフィンを共発現するニューロン群だ。ニューロキニンBはNK3受容体を介してキスペプチンの放出を促し、キスペプチンはGnRHニューロンを直接活性化する。ダイノルフィンはパルスをリセットする抑制性シグナルを送り、振動を作り出す。
このシステムは、レプチン、グレリン、血糖状態などの代謝シグナル、メラトニンや日長などの季節性シグナル、ストレスホルモンを統合している。この仕組みは、厳しいカロリー制限、慢性的なストレス、過度な運動がKNDyニューロンの発火を乱し、排卵を抑制する理由を説明する。
オバーンの講演では、宇宙の観測になぞらえた比喩が用いられる。パルス発生器の出力を読み取ることは遠方の天体から届く光を読み取ることに似ており、発生源を突き止めるには推論が必要になるという考え方だ。キングス・カレッジ・ロンドンで数十年にわたり進めてきた電気生理学的・計算科学的研究は、GnRHパルス生成について、現時点で最も詳細な地図を形作ってきた。ICN 2026の講演では、この研究分野の現状が報告される見込みだ。
■キスペプチンの臨床応用:非侵襲的な治療薬への道
ICN 2026のプログラムによると、火曜日のシンポジウム7は学会で特に注目度の高いセッションの一つで、キスペプチンとKNDyニューロンによる生殖制御を全面的に取り上げる。スー・モエンター(ミシガン大学)、エリク・フラボフスキー(HUN-REN実験医学研究所、ブダペスト)、リチャード・ピエト(ケント州立大学)らが、生殖医療の標的の中でも特に速く研究が進展してきたこのシステムについて、最新の知見を発表する。
キスペプチンがヒトの臨床試験へ進む契機となったのは、キスペプチンが結合するGPR54受容体の機能喪失変異が、ある家系の先天性不妊の原因になっていたという2003年の発見である。それ以降、キスペプチンの静脈内投与と皮下投与が、健康な成人のゴナドトロピン分泌を刺激し、視床下部性無月経や先天性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の患者でパルス状のホルモン放出を回復させることが示されてきた。
キスペプチン54は、体外受精(IVF)において卵子の成熟を促す薬剤としても試験されている。標準的なヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)による方法と比べ、卵巣過剰刺激症候群のリスクを低減できる可能性がある。
2026年4月時点で、キスペプチンはいずれの適応症についても米食品医薬品局(FDA)の承認を受けていない。広範な導入を阻む最大の技術的制約は投与経路だ。視床下部のGnRHニューロンに作用させるための静脈内注射や皮下注射は侵襲性があり、患者に受け入れられにくい。
一方、2025年には、嗅上皮とつながり、視床下部の視索前野へ投射するGnRHニューロンの大きな集団が嗅球内で発見された。これにより、経鼻投与したキスペプチンがこの新たな経路に到達し、非侵襲的に生殖軸を刺激できる可能性が生まれた。2025年時点では、この方法を用いたヒト試験が進行中だった。
■NPYとPOMCニューロン:肥満治療の精密医療化へ
火曜日には、シドニーのセントビンセント応用医学研究センターに所属するハーバート・ヘルツォークが、神経ペプチドY(NPY)に焦点を当てた全体講演を行う。NPYは、哺乳類の中枢神経系で最も広く存在する神経ペプチドの一つと考えられている。
数十年にわたる研究を通じてNPY受容体ファミリーの生理機能を明らかにしてきたヘルツォークは、NPYを、5つの受容体サブタイプを介してエネルギー摂取、ストレス反応、骨代謝、概日リズム、免疫機能を調整する「マスターレギュレーター」として提示する。
NPYは、肥満との関連では強力な食欲刺激物質として最もよく知られている。弓状核にあるNPY発現ニューロンは、絶食によって活性化されると、強い摂食行動を引き起こす。一方、NPY受容体ファミリーは、不安障害、骨密度の調節、免疫調節にも関係する。この作用範囲の広さにより、NPYは複雑でありながら重要な薬理学的標的となっている。
水曜日最後の全体講演となるクロード・ブノワ記念講演では、ボルドー大学INSERM U1215ニューロセンター・マジャンディのダニエラ・コタが、肥満治療薬の研究を変えつつある発見を取り上げる。視床下部弓状核にあるPOMCニューロンは、長年、均一な食欲抑制性の細胞集団として扱われてきたが、実際には単一の細胞タイプではないことが分かってきた。
POMCニューロンは、脳における主要な「食べるのをやめる」シグナルとして働く。その活性化によってメラノコルチンペプチドが放出され、食物摂取が抑えられるとともに、エネルギー消費が増加する。POMCシグナル伝達の乱れは肥満の一因となり、この細胞集団はGLP-1受容体作動薬を含む抗肥満薬の主要な標的でもある。GLP-1受容体作動薬は、POMCニューロンにGLP-1受容体とレプチン受容体が共発現していることを通じ、少なくとも一部の作用を示す。
近年の視床下部の単一細胞RNAシーケンシングにより、POMCニューロンには、分子学的特徴、神経投射、そして生理的役割が異なる複数のサブタイプが含まれることが明らかになった。
コタの講演では、この多様性がもたらす機能上の違いが示される予定だ。異なるPOMCサブタイプは、エネルギーバランスの異なる側面を担っている。これらを区別することで、同じ抗肥満薬に対する反応が患者によって異なる理由を説明できる可能性がある。この発見は、患者に応じて適切なPOMCサブ集団を標的にするという、肥満治療の精密医療化につながる。学会で提示される研究成果の中でも、臨床応用に比較的近いものの一つである。
■情報システムとしてのホルモンと最新技術の貢献
学会の4つの科学的テーマである生殖、代謝、ストレス、生物リズムを結び付けるのは、神経内分泌学者が数十年にわたって発展させてきた一方、臨床医学ではようやく取り入れられ始めた概念的枠組みだ。すなわち、ホルモンは単なる化学的な産物ではなく、情報システムであるという考え方である。
視床下部・下垂体軸は、単にホルモンを産生するだけではない。感覚、代謝、免疫、感情、時間など、体内のほぼすべてのシステムから情報を受け取り、それを統合したうえで、調整されたホルモンシグナルを出力する。
ストレスは、グルココルチコイドによるGnRHニューロンの抑制を介して生殖機能を低下させる。絶食は、レプチンとグレリンのシグナルをKNDy細胞に伝えることで排卵を遅らせる。概日リズムの乱れはコルチゾールの分泌パターンを乱す。POMCニューロン自体も概日リズムの制御を受けるため、抗肥満薬の有効性は、どのPOMCニューロンのサブタイプを、どの時間帯に活性化するかにも左右される。これらは互いに独立したシステムではなく、一つのネットワークを形成している。
腸脳相関を扱うシンポジウム8は、この統合を直接的に示す。胃で産生される空腹ホルモンのグレリンが、どのように視床下部回路へ到達し、摂食行動を調節するかを検討する。
ジェフリー・ジグマン(テキサス大学サウスウェスタン医療センター)とスザンヌ・ディクソン(ヨーテボリ大学)は、グレリンが空腹を知らせるだけでなく、ストレス回路、報酬に関わるドーパミン経路、視床下部の体内時計とも相互作用することを示す研究を発表する。こうした知見は、神経性やせ症やむちゃ食い障害が、純粋に行動上の疾患なのではなく、神経内分泌学的な側面も持つことを示している。
キスペプチンとGLP-1の接点にも注目する必要がある。2017年以降の実験研究では、GLP-1がキスペプチン発現ニューロンにおけるキスペプチン遺伝子の発現を増加させることが示されてきた。腸に由来する食欲シグナルと、生殖機能を調節するパルス発生器を結び付ける知見である。
このため、セマグルチドなどのGLP-1受容体作動薬は、代謝への作用だけでなく、生殖軸にも影響する可能性がある。セマグルチドはオゼンピックやウゴービの商品名で販売されている。この点は現在も研究課題であり、ICN 2026と同時に開かれるKisspeptin 2026サテライトミーティングでも、こうした分野横断的な関係が議論されるとみられる。
水曜日朝の若手研究者シンポジウムでは、神経内分泌学の実験能力を変えつつある技術が紹介される。講演者の一人である北京大学のYulong Liは、覚醒した状態で行動する動物において、神経伝達物質や神経ペプチドの放出をリアルタイムで検出できる遺伝子コード型蛍光センサーを開発した。
このセンサーを視床下部に適用すれば、血液や脳脊髄液を一定間隔で採取してホルモン濃度から間接的に推定するのではなく、GnRHのパルス、キスペプチンの放出、NPYの変動を発生時に観察できる。
単一細胞RNAシーケンシング、化学遺伝学的な神経回路操作であるDREADD、空間トランスクリプトミクスと組み合わせることで、こうした手法は、5年前には不可能だった神経内分泌機能の回路レベルでの理解を可能にしている。
例えば、コタが全体講演で取り上げるPOMCニューロンの多様性を明らかにするには、単一細胞シーケンシングが必要だった。経鼻キスペプチンの経路につながる発見にも、以前から存在していたものの体系的には特徴付けられていなかった嗅球内のGnRHニューロン集団を特定する必要があった。
■内分泌かく乱物質の脅威と日本の橋渡し研究
水曜日のシンポジウム12では、公衆衛生上の重大な意味を持つ研究が取り上げられ、学会を締めくくる。ビスフェノールA(BPA)や関連するプラスチック化合物、残留農薬、医薬品由来のエストロゲンなどの合成化学物質が、従来安全と考えられてきた濃度を大きく下回る量でも、神経内分泌シグナルを乱す可能性を示す証拠が蓄積している。
講演者の一人である米国立環境衛生科学研究所(NIEHS)のヘザー・パティソールは、エストロゲン様作用を持つ内分泌かく乱物質が、日常生活で接する可能性のある低用量でも、げっ歯類モデルの社会行動や生殖行動を変化させることについて、多数の研究を発表してきた。
デボラ・クラッシュ(カルガリー大学)は、低用量の化学物質への曝露が、視床下部回路の形成に及ぼす神経発達上の影響を明らかにしてきた。この時期には、生涯の健康を左右する神経内分泌システムが脳内に形成される。ミシェル・ベリンガム(グラスゴー大学)は、出生前の曝露と生殖軸のプログラミングに関するデータを発表する。
読者にとって実際的な意味を持つのは、胎内や幼少期のホルモン発達環境が、一般的な消費者向け製品に含まれる化学物質によって変化し得ること、そしてその健康への影響を神経回路レベルで測定できるという点だ。
国際シンポジウムと並行して開催される日本神経内分泌学会の3つのワークショップは、日本における神経内分泌学研究の厚みを示している。
臨床神経内分泌学を扱う第2ワークショップは、火曜日夜に日本語で開かれる。日本の内分泌科医が、下垂体腫瘍、尿崩症、成長ホルモン関連疾患について、症例集積と基礎研究を臨床へつなぐ橋渡し研究のデータを発表する。いずれも、治療が神経内分泌回路の研究と直接関係する疾患である。
学会は水曜日まで、名古屋のWINC AICHIで開催される。抄録集、日程表、参加登録に関する情報は、学会の公式ウェブサイトで公開されている。
■注目ポイントQ&A
●神経内分泌学とは何ですか?また、なぜ日常の健康にとって重要なのですか?
神経内分泌学は、脳と体のホルモン系がどのように相互に調節し合うかを研究する分野です。中心となるのは、アーモンドほどの大きさの脳領域である視床下部です。視床下部は下垂体からのホルモン分泌を制御し、それを通じて生殖、代謝、ストレス応答、体温、体液バランス、概日リズムを調節しています。肥満、不妊症、PCOS、PTSD、代謝症候群、うつ病など、さまざまな疾患に神経内分泌の仕組みが関係しています。ICN 2026で発表される研究は、こうした疾患の影響を受ける人々に直接関係するものです。
●キスペプチンとは何ですか?いつ治療薬として利用できるようになる可能性がありますか?
キスペプチンは、生殖ホルモンの連鎖の最上流に位置する神経ペプチドです。視床下部にGnRHの放出を促し、それによってLHとFSHの分泌、排卵、精子形成へと続く生殖機能全体を作動させます。
体外受精において卵子の成熟を促す方法や、視床下部性無月経の女性および先天性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の患者でホルモンのパルスを回復させる方法として、ヒト臨床試験が行われてきました。ただし、2026年4月時点では、いずれの適応症についてもFDAの承認を受けていません。
最大の課題は投与方法です。視床下部のニューロンに作用させるには静脈内注射や皮下注射が必要で、臨床利用の制約になっています。新たに見つかった嗅覚系から視床下部へ至る経路を利用する経鼻投与法が臨床研究中であり、将来的には非侵襲的な治療法につながる可能性があります。
●体内時計の乱れは、実際に寿命に影響を与える可能性がありますか?
ジョセフ・タカハシの研究によれば、動物モデルでは影響する可能性があり、その仕組みもかなり明らかになっています。Clock遺伝子は睡眠・覚醒サイクルだけでなく、代謝、免疫機能、DNA修復、細胞増殖など、老化に関連する分子経路とも相互作用します。
動物本来の概日位相に合わせた時間制限給餌は、カロリー制限だけを行った場合よりも寿命を延ばすことが示されています。この結果は、栄養摂取のタイミングが老化の仕組みにおける独立した要因である可能性を示しています。同様の介入がヒトの寿命も延ばすかどうかは、現在研究中です。
シフト勤務者や長距離移動を頻繁に行う人など、仕事の都合で慢性的な概日リズムのずれが生じる人にとって、その乱れによる生物学的な負担は、実際に測定可能な健康リスクです。
●セマグルチド(オゼンピック、ウゴービ)のような肥満治療薬は、この学会での生殖研究と関連していますか?
はい、関連しています。セマグルチドのようなGLP-1受容体作動薬は、レプチン受容体も発現するPOMCニューロンなど、視床下部の神経回路を介して少なくとも一部の作用を示します。
さらに、GLP-1シグナルが生殖に関わるニューロンでキスペプチン遺伝子の発現を増加させることが、実験研究で示されています。これは、腸と脳を結ぶ食欲調節経路が、生殖ホルモンのパルス発生機構に直接つながっている可能性を示します。
したがって、肥満の治療薬が生殖機能にも影響を与える可能性があります。代謝機能と生殖機能の双方に異常が生じるPCOSなどでは、有益な作用をもたらす可能性もありますが、現時点では研究課題です。ICN 2026と並行して開催されるKisspeptin 2026サテライトシンポジウムは、こうした分野間の接点を検討する場として位置付けられています。
元記事: Brain-Hormone Science Summit in Nagoya Puts Kisspeptin and Clock Gene on Path to Patients
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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