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韓国、9月にデジタルウォンの大規模実取引テストへ 政府補助金を活用、米国ではCBDC禁止法案
韓国銀行(中央銀行)は2026年9月、9つの商業銀行とともにデジタルウォンの大規模な実取引テストを開始する。実際の政府補助金を初めて許可型ブロックチェーンで配分し、スマートコントラクトによる不正防止などの実用性を検証する。一方、米国では2030年末まで連邦準備制度理事会(FRB)によるデジタルドル発行を禁止する法案が上院を通過したものの、大統領の署名には至っていない。
■実際の政府資金が動く「プロジェクト漢江」
韓国銀行は2026年7月20日、同年9月に9つの商業銀行とデジタルウォンの大規模な実取引テストを開始すると発表した。実際の政府資金が、プロジェクト漢江(Project Hangang)の中核をなす許可型ブロックチェーン台帳「デジタル通貨システム(DCS)」を通じて動くのは初めてとなる。
対象となるのは、約300億ウォン規模の電気自動車(EV)充電インフラ補助金である。補助金はトークン化預金として提供され、スマートコントラクトによって利用可能な期間、対象事業者、認められる支出区分が取引時に適用される。領収書を事後監査するのではなく、資金が移動する前に不正な取引を阻止する仕組みだ。
DCSは、国際決済銀行(BIS)が2023年に定式化した「統一台帳(unified ledger)」の概念に基づく2層の通貨設計を採用している。基盤となる層には、韓国銀行がDCS上で直接発行し、参加する9つの金融機関だけが利用できるホールセール型中央銀行デジタル通貨(CBDC)、すなわちトークン化された中央銀行準備金が置かれる。その上の層には、消費者や加盟店が支払いや代金の受け取りに使うトークン化預金、いわゆる預金トークンが置かれる。
■「預金トークン」とステーブルコインの決定的な違い
プロジェクト漢江は、一見すると一般的なブロックチェーン決済の実験にも見えるが、その仕組みは民間ステーブルコインとは異なる。
2つの層を結ぶのが「バーン・アンド・イシュー(消却・再発行)」と呼ばれる仕組みだ。銀行Aの顧客が、銀行Bに口座を持つ加盟店へ支払う場合、送金側の銀行が預金トークンを消却し、同額のホールセール型CBDCをDCS上で銀行間移転したうえで、受取側の銀行が加盟店に預金トークンを再発行する。これら3つの処理は、スマートコントラクトによって単一の不可分な取引として実行される。
3つの処理のうち1つでも失敗すれば、取引全体が無効になる。部分的な決済や受け渡しと支払いの時間差が生じず、決済リスクを抑えられる。
銀行間の資金移動が常に中央銀行マネーを使って額面どおりに決済されるため、異なる銀行が発行した預金トークンも等価になる。例えば、KB国民銀行が発行した1トークンとハナ銀行が発行した1トークンは、各銀行の信用力にかかわらず同じ価値を持つ。これは通貨経済学で「貨幣の単一性」と呼ばれる性質である。
民間ステーブルコインは、この性質を同じ形では保証できない。ステーブルコインを受け取った人が取得するのは発行企業に対する請求権であり、発行体の準備資産や信用力に疑念が生じれば、トークンの価値が額面から乖離する可能性がある。これは単なるリスク管理上の失敗ではなく、商品構造に起因する性質だ。
この違いから、プロジェクト漢江は単純なトークン移転ではなく、バーン・アンド・イシューの仕組みを採用している。預金トークンは預金保険の対象となり、従来の銀行預金と同じ7.0%の準備率が適用される一方、民間ステーブルコインには同じ仕組みを適用できない。
■デジタル通貨システム(DCS)の技術的アーキテクチャ
DCSは、オープンソースの許可型ブロックチェーンプラットフォーム「Hyperledger Besu」上で動作する。韓国銀行が権限を持つバリデーターとして取引を確定する「Proof of Authority(PoA)」方式を採用しており、競合する複数の参加者による分散検証を必要としない。
この設計により、合意形成を維持するためにバリデーターへの報酬と手数料収入を必要とするパブリックブロックチェーンで起こり得る、混雑や分断の問題を回避する。
DCSでは、価値の移動を処理する通貨レイヤーと、利用条件を管理するプログラミングレイヤーを分離している。通貨レイヤーには、代替可能トークンの主要規格であるERC-20を使用する。プログラミングレイヤーにはERC-1155を採用し、フェーズ2ではERC-3525へのアップグレードが進められている。
対象となる加盟店、利用可能な期間、認められる支出区分といった条件は、通貨そのものに組み込まず、別のオブジェクトとして管理する。このため、スマートコントラクトにコード上の誤りがあっても、基礎となる預金の代替可能性そのものが損なわれないようになっている。
DCSはハブ・アンド・スポーク構造を採用する。ハブはホールセール型CBDCとトークン化預金の中央決済レイヤーである。炭素排出枠やESG債券の実証実験を扱うスポーク台帳は、統一インターレジャー・プロトコルを通じてハブに接続され、異なる資産間の取引に伴う支払いはハブ上の中央銀行マネーで決済される。
トークン化国債については、ハブ自体に配置する計画だ。国債の引き渡しと代金の支払いを単一の取引で同時に行うアトミックなDVP(証券と資金の同時受け渡し)は、両方の資産が同じ台帳上に存在する場合に完全な形で実現できるためである。
■商業展開を阻む「24時間365日」と「平日のみ」の壁
9月の実取引テストでも、プロジェクト漢江の商業化に向けた最大の制約は解消されない。
DCSは24時間365日稼働する一方、韓国銀行が1994年から銀行間決済に使用している即時グロス決済システム「BOK-Wire+」の稼働時間は、平日の午前9時から午後8時までである。両システムはリアルタイムでは接続されていない。
現在は、暗号化されたUSBメディアを使って取引データをオフラインで移し、ファイル交換のたびに3重の確認を行う照合プロセスを採用している。各銀行のホールセール型CBDC残高の変動は、翌営業日の午後3時にスナップショットとして取得され、その時点で照合される。
時間を区切った実証実験であれば、この運用でも対処できる。韓国銀行のシン・ヒョンソン総裁は、欧州中央銀行(ECB)の「中央銀行フォーラム2026」向けに作成した論文で、現行システムについて「2つの台帳がリアルタイムで接続されるのではなく、オフラインで照合される暫定的な取り決め」だと説明している。
同氏によると、継続的で円滑な商用運用に移行するには、両システムの稼働時間をそろえること、DCS上で直接発行されるホールセール型CBDCの法的性質を定めること、BOK-Wire+の稼働終了後に日中流動性を供給する仕組みを設計することという3つの課題が残る。
韓国銀行は2026年中に外部の専門家を起用し、DCSとBOK-Wire+の直接的なリアルタイム接続を妨げているセキュリティ要件に対応するシステム更新を設計する計画である。
■フェーズ1の教訓と参加9行の動向
9月のテストは、2026年3月に正式に始まったフェーズ2の参加基盤を引き継ぐ。当初の実証実験に参加した7行に、慶南銀行(Kyongnam Bank)とiMバンク(iM Bank)を加えた9行が参加する。これらの金融機関は、合計で韓国国内の銀行資産の80%超を保有している。
2025年4月から6月まで実施されたフェーズ1では、許可型台帳を使った決済システムが、一般利用者を対象とする事前に筋書きのない環境でも安定して機能することが確認された。約8万人の消費者がデジタルウォレットを開設し、教保文庫、セブン-イレブン、EDIYA COFFEEの店舗や、オンラインのフードデリバリープラットフォームなどで取引した。
一方、利用状況には限界も表れた。参加を案内された10万人のうち、ウォレットを開設したのは約8万人で、総決済額は約6億9200万ウォンだった。参加銀行がフェーズ1のインフラ構築に合計約300億~350億ウォンを投じたことと比べると、決済額は小規模だった。
銀行側からは商業化の実現性を懸念する声が上がり、2025年半ばにはフェーズ2が延期される可能性を伝える報道もあった。それでも対象範囲を広げ、政府補助金を扱い、最大50万人が参加可能なフェーズ2を進めることは、組織間の摩擦がある中でも韓国銀行が計画を前進させようとしていることを示している。
フェーズ2では、フェーズ1で明らかになった利用上の課題に対応する。ウォレットへのアクセスや支払いのたびにパスワードを入力する方式に代えて生体認証を導入するほか、通常の銀行預金とトークン化預金を自動変換し、フェーズ1で利用者の負担となった手動操作をなくす。フェーズ1では利用できなかったウォレット間の個人間送金も可能になる。
■政府補助金による初の実社会での検証
9月の実取引テストで最も重要な新要素は、参加銀行の増加や利用環境の改善ではなく、実際の政府資金を投入することである。
気候・エネルギー・環境省のEV充電施設建設プログラムを通じて行われる補助金の実証実験は、スマートコントラクトを利用した政府資金配分として、世界でも最大級の実社会でのテストケースとなる。2026年の事業規模は約300億ウォンである。
現行制度では、韓国環境公団が補助金の一部を先に支給し、提出書類を審査した後に残額を支給する。このプロセスには、不正請求の余地があること、資金が下流の請負業者まで届いたか追跡しにくいこと、多額の管理コストが生じることなどの問題がある。
トークン化預金を使う仕組みでは、補助金の利用条件をあらかじめ設定する。承認された事業者が、承認された目的のために、承認された請負業者との間で、承認された期間内にだけ資金を利用できる。事後監査で不正を発見するのではなく、支払い時点で不正な取引を阻止する。
工事の進行に応じて充電設備の設置が確認されると、手作業による審査を待たず、元請け事業者だけでなく下請け事業者にも代金が自動的に支払われる。
政府は、公務員による公費支出にも同様の制御を試験導入している。領収書の確認やカード会社による加盟店分類に依存する現行方式に代えて、禁止対象の加盟店や勤務時間外の支出を、取引成立前にスマートコントラクトで止める。
政府は長期目標として、2030年までに国庫金執行全体の25%を、ホールセール型CBDCとトークン化預金を使ってデジタル化する方針を掲げている。
■ステーブルコインを巡り分かれる銀行陣営
CBDCの仕組みをテストする9行は、並行して民間のデジタル通貨市場でも事業機会を探っている。こうした動きにより、韓国の銀行業界は競合する陣営に分かれつつある。
ハナ銀行は2026年5月、韓国最大の暗号資産取引所Upbitを運営するDunamuの株式6.55%を約1兆ウォンで取得した。両社は、ウォン連動型ステーブルコイン、ブロックチェーンを使った送金、トークン化証券を共同開発する計画を明らかにしている。この取引は、韓国の銀行によるデジタル資産企業への単独投資として過去最大とされ、ハナ銀行とDunamuを新たな業界対立の一方の陣営に位置づけるものとなった。
一方、新韓フィナンシャルグループは2026年6月、KBフィナンシャルグループ、Toss、IBK企業銀行、BNKフィナンシャルグループ、iMバンクと連合を組み、ウォン建てステーブルコインの発行を検討し始めた。韓国の金融メディアは、この対立構図を「ハナ対その他」に発展する可能性があると表現している。
両陣営が直面する規制上の問題は同じである。韓国銀行は、ノンバンク企業がウォン建てデジタル通貨を発行した場合、金融政策の波及や外国為替規制の回避に影響する恐れがあるとして、ステーブルコイン発行コンソーシアムの過半数を銀行が所有する、いわゆる「51%ルール」を求めている。
これに対し、金融委員会(FSC)は、拡張可能なブロックチェーン基盤を構築する技術力を持つフィンテック企業を排除することになるとして反発している。こうしたルールを制度化するデジタル資産基本法は2026年後半の成立を目標としているが、内容はまだ確定していない。
■韓国の広範なトークン化推進
7月20日の発表は、韓国政府が2026年初めから整備してきた、より広範な政策体系の一部でもある。
企画財政部は2026年7月15日、「国家資産基本法」を発表した。1950年制定の国有財産法を改正して仮想通貨や知的財産を国家資産に分類し、国有財産の管理を近代化するとともに、将来の政府資産管理を韓国銀行のCBDC基盤と連携させる内容である。
政府は2027年にトークン化国債の実証実験を行う計画である。また、個人投資家が公共不動産から得られる収益の一部を受け取れるよう、セキュリティトークンを使って国有不動産をトークン化する構想も検討している。
金融委員会は7月15日、プロジェクト漢江のフェーズ2を「革新的金融サービス」に指定した。この規制上の指定により、同プロジェクトはサンドボックス制度の下で運用され、参加者は商業化に向けた保護されたテスト環境を利用できる。
2027年2月4日に施行される法改正では、ブロックチェーンを使った台帳が、韓国の資本市場法および電子証券法上の証券登録簿として正式に認められる。
■世界のCBDC開発と米国の動向
韓国が9月に実取引テストを始める一方、世界各国のCBDC開発方針は大きく分かれている。
アトランティック・カウンシルの追跡調査によると、41カ国がCBDCをテスト中で、33カ国が開発段階にある。このほか、15カ国が活動を停止し、9カ国が計画を中止している。
正式に小売向けCBDCを導入した国は限られる。バハマは2020年10月に「Sand Dollar」、ナイジェリアは2021年に「eNaira」、ジャマイカは2022年に「Jam-Dex」を導入した。
米国は反対方向に進んでいる。上院は2026年6月22日、超党派の住宅供給法案「21st Century ROAD to Housing Act」を85対5で可決した。同法案の第11編には、FRBがCBDCまたは実質的に類似するデジタル資産を発行・創設することを、2030年12月31日まで禁止する条項が盛り込まれている。
トランプ大統領は6月24日に予定されていた署名を取りやめ、上院がすでに否決した別の選挙関連法案を署名の条件とした。このためCBDC禁止条項を含む法案は未署名だが、成立するとの見方が示されている。
韓国銀行は9月、実際の政府補助金を許可型ブロックチェーンで処理する予定であり、米韓の制度的な違いは鮮明になっている。
プロジェクト漢江のDCSと、7つの中央銀行が参加する国際相互運用プロジェクト「BIS Project Agorá」は、いずれも基盤にHyperledger Besuを使用する。この共通性により、デジタルウォンをウォンそのものとともに国際市場へ広げる、国境を越えたアトミック決済への技術的な道が開かれる可能性がある。
9月の実取引テストは、プロジェクト漢江が技術的に成功した実証実験から、韓国の消費者や企業が義務づけられなくても選んで利用する商用システムへ移行できるかを見極める、これまでで最も明確な試金石となる。
■注目ポイントQ&A
●プロジェクト漢江とは何ですか? 預金トークンとステーブルコインの違いは何ですか?
プロジェクト漢江は、ソウルを流れる漢江にちなんで名づけられた、韓国銀行のホールセール型CBDC構想です。許可型ブロックチェーンであるDCSを使い、銀行間取引をトークン化された中央銀行準備金で決済する一方、商業銀行は消費者の小売決済向けにトークン化預金を発行します。
民間ステーブルコインとの重要な違いは決済の仕組みにあります。異なる銀行の顧客間で預金トークンを移転する場合、送金側銀行のトークンの消却、銀行間でのホールセール型CBDCの移転、受取側銀行によるトークンの再発行が不可分の処理として同時に実行されます。この「バーン・アンド・イシュー」の仕組みにより、どの銀行が発行した預金トークンも額面どおりに決済されます。
一方、民間ステーブルコインの受取人が取得するのは発行体に対する請求権であり、発行体の信用力に疑念が生じれば、その価値が額面から乖離する可能性があります。
●韓国の消費者はいつから、デジタルウォンをどのように利用できますか?
一般利用者が参加する実取引テストは2026年9月に始まる予定です。フェーズ2では、通常の銀行預金をトークン化預金に変換し、参加する実店舗やオンライン店舗でQRコード決済を利用できます。フェーズ1では対応していなかったウォレット間の個人間送金も可能になり、多くの操作でパスワード入力に代えて生体認証が使われます。
参加上限は、フェーズ1の10万人から最大50万人に拡大されます。また、フェーズ1が3カ月間に限定されていたのに対し、フェーズ2の一般参加取引は継続的に実施される予定です。
ただし、恒久的な商用サービスになるかどうかは、DCS上で直接発行されるホールセール型CBDCの法的地位、既存決済システムの稼働終了後に日中流動性を確保する方法、十分な数の加盟店と消費者が利用を選ぶかどうかといった未解決の問題に左右されます。
●世界におけるCBDCの開発状況と、米国の動向はどうなっていますか?
小売向けCBDCを正式に導入したのは、バハマ、ナイジェリア、ジャマイカの3カ国です。アトランティック・カウンシルの追跡調査では、41カ国がテスト中、33カ国が開発中で、9カ国が計画を中止しています。
米国は反対方向に進んでいます。米上院は2026年6月、FRBによるデジタルドルの発行を2030年末まで禁止する条項を含む超党派法案を可決しましたが、2026年7月20日の記事公開時点では大統領の署名を待つ状態です。
この禁止条項の対象は、小売向けCBDCとFRBが直接発行するデジタル通貨です。民間ステーブルコインやホールセール型の銀行間決済基盤を禁止するものではありません。
●政府補助金を最初の実社会でのテストケースに使うことには、どのような意味がありますか?
多くのCBDC実証実験は、ウォレットを開設できるか、取引を処理できるか、システムを安定稼働させられるかといった技術面を検証します。韓国の補助金実証では、それに加えて、プログラム可能な資金によって政府支出に伴う不正や管理コストの構造を変えられるかを検証します。
対象事業者、利用可能な期間、認められる支出区分などの条件をあらかじめ設定することで、領収書を取引後に調べる事後監査から、禁止された取引を成立前に止める事前制御へと、不正防止の方法を移行させます。
EV充電インフラ補助金の実証が成功した場合、韓国銀行と企画財政部は、この仕組みを2030年までに国庫金執行全体の25%へ広げる目標を掲げています。実現すれば、主要国によるスマートコントラクトを使った政府支出としても最大級の導入事例の一つになります。
元記事: South Korea Moves Digital Won Into Real Government Funds as US Blocks CBDC
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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