野木亜紀子のアニメ脚本『LONA』発表、舞台はSPring-8――死者の脳をスキャンする近未来サスペンスの科学的現実味

2026年7月2日 21:18

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記事提供元:Tech Times

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「進撃の巨人」などで知られるWIT Studioが、完全新作アニメ「LONA」を2027年春に放送すると発表した。脚本を手がけるのは、「アンナチュラル」などのヒット作で知られる野木亜紀子氏。本作は実在する大型放射光施設「SPring-8」をモデルにした施設を舞台に、死者の脳から記憶を読み取る近未来サスペンスだが、その設定は現代の最先端神経科学と驚くほど地続きである。

■WIT Studioの15周年記念作「LONA」と野木亜紀子氏の挑戦

「進撃の巨人」や「SPY×FAMILY」などのヒット作で知られるアニメ制作会社WIT Studioは、2026年6月28日に完全新作の近未来アニメ「LONA」を発表した。本作は、死んだ脳が保持している記憶を読み取るという、現代の神経科学における最も野心的な試みをテーマにしたオリジナル作品である。2020年から開発が進められており、2027年春に放送が開始される予定だ。脚本を担当するのは、ドラマ「アンナチュラル」や「MIU404」などの緻密な取材に基づく社会派サスペンスで高く評価されている野木亜紀子氏であり、本作が彼女にとって初のオリジナルアニメプロジェクトとなる。本作がこれまでの科学系アニメと一線を画すのは、そのSF的な設定と現実の科学との距離が、想像以上に近いという点にある。

「LONA」の発表に伴い、2つのティザー映像、3つのティザービジュアル、そして主要キャストとスタッフが公開された。WIT Studioはアニメーション制作だけでなく、製作委員会も自社で完結させる体制をとっており、設立15周年を記念するマイルストーン作品として、クリエイティブおよび商業的な主導権を完全に握っている。野木氏は、自身が長年憧れていた施設である、理化学研究所(RIKEN)が兵庫県播磨で運用する大型放射光施設「SPring-8」を舞台にしたいと考えたことから、このプロジェクトを熱望したと明かしている。SPring-8は日本で最も強力なX線光源であり、世界5大放射光施設の一つに数えられる。

物語は、すでに死んでいるはずの人々による襲撃に直面する近未来の世界を舞台に、研究者のアオと弟子のサンゴが、死者の脳に刻まれた「未解決の思考」を分析して危機に立ち向かう姿を描く。この設定は、現代科学の2つの最先端領域に基づいている。

■実在の巨大施設「SPring-8」と非破壊脳イメージングの現実

劇中の研究所「LONA」がSPring-8をモデルにしているのには、明確な技術的理由がある。SPring-8は電子を光速近くまで加速し、強力な磁石でその軌道を曲げることで、一般的な医療用スキャナーを遥かに凌駕する輝度を持つ放射光(X線)を発生させる。その蓄積環の周回は1,436メートル(サッカー場約13面分に相当)に及び、ミリメートル以下の精度でビームを制御するために極めて高度な温度安定性を必要とする。この施設からは、最大38本の独立したビームラインが同時に稼働している。

脳科学において注目されるのが「位相コントラスト・ナノトモグラフィ」と呼ばれる技術だ。2025年11月、フランシス・クリック研究所とポール・シェラー研究所の研究チームは、マウスの脳組織を物理的に切断することなく、38ナノメートルの解像度で3次元イメージングする新しいX線タイコグラフィの手法を「Nature Methods」誌に発表した。また、同年の「Advanced Science」誌に掲載された別の研究では、放射光を用いてマウスの脳全体をサブミクロン単位で3Dスキャンし、Webブラウザで閲覧可能な3.3テラボクセルのデータセットを作成することに成功している。研究を率いたアンドレアス・シェーファー氏は、従来の電子顕微鏡による脳回路マッピングでは組織を数万枚に薄切りにする必要がありサンプルが破壊されてしまうが、放射光X線であればその必要がないと指摘する。

「LONA」はこの技術等差異をフィクションの土台にしている。劇中では、このイメージング技術が人間の脳に対して大規模かつ短時間で適用される。現実には、人間の脳全体のコネクトーム(神経回路地図)を再構築するにはペタバイト規模のデータと未実用のAIセグメンテーション技術が必要であり、劇中の設定との間には大きな技術的ギャップが存在する。しかし、研究の方向性自体は現実のものである。米国立衛生研究所(NIH)の「BRAIN Initiative」では、11の研究グループによる脳全体の接続写像作成を目指す「BRAIN CONNECTS」プログラムに1億5000万ドル(約244億5000万円、1ドル=163円換算)の資金を投じている。

■死者の脳に記憶は残るのか? 科学が示す可能性

「死んだ脳の構造的状態には、何が記録されているのか」という「LONA」の核心的な問いに対して、現代の神経科学は真剣かつ議論の分かれる回答を用意している。記憶貯蔵の主流な理論では、長期記憶はシナプスの構造(神経細胞同士の接続の密度や形状、強度)に物理的に符号化されているとされる。これらは死後すぐに消失するのではなく、徐々に劣化していく。つまり、十分に保存された脳を高い解像度でスキャンできれば、理論上は持ち主の最後の長期記憶(神経科学でいう「エングラム」)を読み取ることが可能ということになる。プリンストン大学の神経科学者セバスチャン・スン氏は、個人のアイデンティティは神経配線に符号化されていると主張し、「あなたはあなたのコネクトームである」と要約している。2025年の調査でも多くの神経科学者がこのモデルを支持しているが、一部には、記憶は静的な構造からは読み取れない分子レベルの動的な現象に依存しているとする反対意見もある。

また、死にゆく脳が最後の精神状態の高度な記録を生み出すという設定にも、経験的な根拠がある。2013年のミシガン大学の研究では、心停止後30秒以内のラットの脳において、通常の覚醒時よりも一貫したガンマ振動の急増が確認された。さらに、同大学のジモ・ボージギン教授らが2023年に「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表した研究では、生命維持装置を外した直後の昏睡状態の患者4人のうち2人において、記憶の想起や意識に関連する脳領域(側頭・頭頂・後頭接合部)でガンマ波の出力や脳内接続性の著しい急増が記録された。ボージギン氏は、このパターンが、患者がその瞬間に経験したことが「記憶の形で符号化された可能性」を示唆していると述べている。この研究は対象が4人と少なく、具体的な意識体験を証明したわけではないが、死にゆく脳が単に停止するのではなく、高度な認知活動に似たパターンで活動する場合があることを示している。「LONA」の劇中では、放射光イメージング装置がこの最後の活動の後に残された脳の構造的状態を捉え、研究者たちはその構造的痕跡を分析することになる。

■野木氏の徹底した取材力と、アニメ業界における「LONA」の意義

野木亜紀子氏の主要な作品は、日本の社会制度の隙間や現実のギャップを突くことで構築されてきた。「アンナチュラル」は、不自然な死の多くが解剖されずに火葬されている日本の現状に対し、架空の死因究明専門機関を描いた。「MIU404」では、24時間という捜査制限時間の構造的プレッシャーをドラマ化した。野木氏は「LONA」の舞台にSPring-8を選んだ理由について、通常の機器では見えないものを見せる能力を持ちながら、「死者を読み取る」という社会がまだ名付けても管理してもいない問題に適用されるという、同様の構図をより大きなスケールで表現できるからだと語っている。

野木氏は「アンナチュラル」の執筆にあたり、医療専門家に相談し、6冊の専門書を読破したという。今回の「LONA」についても、2020年から「吐き気がするほど巨大な」会議や準備作業を重ね、膨大なスタッフが関わってきたとコメントしている。監督を務める片桐崇氏(「劇場版 SPY×FAMILY CODE: White」監督)は、野木氏のシナリオを初めて読んだ時の衝撃を「一生に一度の経験」と表現した。キャラクター原案の出水ぽすか氏(「約束のネバーランド」)は、システムに囚われた人間を描く独特のビジュアル表現を本作に持ち込んでいる。音楽の世武裕子氏、アニメーションプロデューサーの山中一貴氏ら強力な布陣が揃い、WIT Studioの和田丈嗣社長は、15周年を飾る記念碑的な作品として本作を位置づけている。

また、本作はアニメ業界における制作手法の議論が活発化している時期に登場する。2026年4月、WIT Studioは「本好きの下剋上」第4期のオープニング映像における生成AI背景の使用を謝罪し、映像を差し替えるとともに、今後の制作において生成AIの使用を認めない方針を表明した。6年という歳月をかけて手作業で丁寧に制作されてきたオリジナル作品である「LONA」は、こうした業界の文脈に対するスタジオの明確な姿勢を示すものとしても重要な意味を持っている。

■死者の脳データが提起する倫理的・法的課題

「LONA」の設定がもたらす最大の意味は、科学捜査の枠を超える。もし死者の脳の構造から最後の記憶や意思を物理的に読み取れるのであれば、死は情報的実体としての個人の消滅を意味せず、情報の劣化の始まりに過ぎないことになる。これは、現代 of 脳倫理学者たちが直面し始めている「死者は自身の脳組織に符号化された神経データに対してどのような権利を持つのか」という問いに直結する。2022年の「BMC Medical Ethics」誌の論文では、死後も人間は生物学的な主体ではなくなるが、依然として不利益を被る可能性のある「情報的実体」として存在し続けるため、死者にも健康データに対するプライバシーの道徳的権利があると主張されている。しかし、これに対処するための法的な枠組みはまだ存在しない。

「LONA」がこれらの問いにどう答えるのか、そして死者の「未解決の思考」に何が隠されているのかは、2027年春の放送開始まで明かされない。しかし、その背景にある科学的探究は、現実世界で着実に加速している。本作が埋めるのは、SFと現実のギャップではなく、現在の技術で死者の脳から「見えているもの」と、十分な解像度と時間をかければ将来的に「読み取れるかもしれないもの」との間のギャップなのである。

■注目ポイントQ&A

●アニメ「LONA」とはどのような作品ですか?

WIT Studioが2026年6月28日に発表した完全新作の近未来アニメで、2027年春に放送予定です。脚本は野木亜紀子氏が担当します。死んでいるはずの人々が襲撃してくる危機に対し、研究者のアオとサンゴが、実在の施設「SPring-8」をモデルにした研究所で死者の脳を分析し、その「未解決の思考」を解読して真相に迫るサスペンスです。

●死んだ脳から記憶を読み取ることは本当に可能ですか?

現時点では不可能ですが、科学的背景は実在します。長期記憶はシナプスの構造に物理的に符号化されており、死後すぐに消えるわけではありません。2025年にはマウスの脳組織を非破壊で38ナノメートル解像度でイメージングする技術が発表されています。また、死にゆく脳が心停止直後に活発な活動(ガンマ波の急増)を示すことも研究で確認されており、本作はこの最後の活動の痕跡を読み取るという設定に基づいています。

●放射光とは何ですか?なぜ脳のスキャンに必要なのですか?

光速近くまで加速された電子が磁石で曲げられる際に放出される、極めて強力なX線などの光のことです。一般的な医療用X線よりも桁違いに明るく、脳などの柔らかい生体組織を、切断したり傷つけたりすることなく、ナノメートル単位の超高解像度で3次元イメージングできます。劇中の設定において、組織を破壊せずにシナプス構造をマッピングできる唯一の現実的な技術です。

●死者の脳が読み取れるようになった場合、どのような問題が生じますか?

死後も個人の記憶や意思が読み取り可能なデータとして残る場合、人間は死後も「情報的実体」として存在し続けることになります。これにより、死者の脳データのプライバシー権や、解読された記憶の裁判での利用可否など、現在の法制度や倫理枠組みでは対処できない新たな課題が生じます。医療倫理の研究者らは、死者にもプライバシーを守る道徳的権利があると主張し始めています。

元記事: Dead-Brain Reading: WIT Studio’s LONA Maps Memories That Survive Death

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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