アステナホールディングスは上値試す、24年11月期は2回目の上方修正で大幅営業・経常増益予想

2024年10月22日 09:14

 アステナホールディングス<8095>(東証プライム)はヘルスケア・ファインケミカル企業集団として、医薬品・医薬品原料・表面処理薬品を主力とする専門商社からメーカーへと変貌している。24年11月期第3四半期累計は大幅増益だった。医薬事業における薬価上昇、HBC・食品事業における自社企画化粧品や輸入化粧品の販売好調などが牽引した。通期は利益を上方修正(6月26日付に続いて2回目)して大幅営業・経常増益予想としている。積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。株価は徐々に水準を切り上げて戻り高値圏だ。高配当利回りや1倍割れの低PBRなども評価材料であり、上値を試す展開を期待したい。

■ヘルスケア・ファインケミカル企業集団

 旧イワキが21年6月1日付で持株会社体制に移行して商号をアステナホールディングスに変更した。アステナは「明日(未来)+サステナブル(持続可能)」の造語である。ヘルスケア・ファインケミカル企業集団として、製造分野が利益柱となり、医薬品・医薬品原料・表面処理薬品を主力とする専門商社からメーカーへと変貌している。

 セグメント区分(24年11月期より一部変更)は、ファインケミカル事業(医薬品のCMC研究開発・製造受託、医薬品原料の製造販売など)、HBC・食品事業(食品原料・機能性食品原料の製造販売、化粧品原料の販売、化粧品の通信販売など)、医薬事業(医薬品・医療機器の製造販売など)、化学品事業(表面処理薬品・表面処理設備の製造販売など)、その他事業(地方創生関連のソーシャルインパクト事業など)としている。医薬事業に含めていた岩城製薬佐倉工場をファインケミカル事業へ変更した。

 23年11月期の新セグメント区分ベースの売上高構成比はファインケミカル事業38%、HBC・食品事業27%、医薬事業18%、化学品事業17%、その他事業0%、営業利益構成比はファインケミカル事業14%、HBC・食品事業29%、医薬事業51%、化学品事業7%、その他事業▲9%、調整額9%だった。

■ファインケミカル事業

 ファインケミカル事業は、20年3月に子会社化した医薬品CMC研究開発・製造受託のスペラファーマ、スペラファーマの子会社として20年7月に設立したスペラネクサス、スペラファーマが21年4月に子会社化したペプチド合成技術のJitsubo、および岩城製薬佐倉工場(岩城製薬が保有していた株式を23年12月にスペラファーマへ譲渡してセグメント再編)が、CMC/CDMO事業と調達プラットフォーム事業を2本柱として、医薬品原薬のCMC研究開発から製造受託・販売まで一貫体制を構築している。またスペラファーマは創薬ベンチャーのジェイファーマに出資している。

 23年6月にJitsuboが、世界有数のヘルスケア企業であるNovo Nordiskの糖尿病・肥満・非アルコール性脂肪肝炎・慢性腎臓病・アテローム動脈硬化性心血管疾患・心不全の分野(ジェネリック医薬品除く)のペプチド合成において、Jitsuboのペプチド合成の特許技術であるMolecular Hiving法の独占的使用および製造ライセンス契約を締結した。本契約によってJitsuboは、Novo Nordiskから開発フィー、年間独占権料、および製品の臨床段階、商品化段階の進捗に合わせたマイルストーンフィーを受領する。

 24年3月には、湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)に拠点を置く創薬支援企業5社(スペラファーマ、AXcelead Drug Discovery Partners、十全化学、東レリサーチセンター、メディフォード)による「湘南創薬コンソーシアム」を発足した。創薬エコシステムを活性化する枠組みの構築を目指す。

■HBC・食品事業

 HBC・食品事業はイワキ、化粧品通販のアプロス、20年12月に子会社化した健康食品・化粧品販売のマルマンH&B、22年12月に子会社化した海外製化粧品輸入販売のアインズラボを中心に展開している。一般医薬品卸売事業については戦略的に順次撤退・縮小している。

■医薬事業

 医薬事業は皮膚科領域に特化したニッチトップ・ジェネリックメーカーの岩城製薬が展開している。20年1月に医療用後発医薬品・一般用医薬品開発の前田薬品工業へ出資、21年1月に岩城製薬が新しいコンセプトの抗ウイルス薬開発に取り組んでいるキノファーマと業務提携、21年4月にインタープロテインとCOVID―19治療薬の共同研究契約を締結した。

 22年4月には岩城製薬がヤンセンファーマから「ニゾラールローション2%」の日本における製造販売承認を承継・販売移管した。22年7月にはスキンケアブランド「ナビジョン/ナビジョンDR」について、資生堂ジャパンが保有していたブランドホルダー機能を岩城製薬に移管することで合意した。ブランド価値向上に向けて役割分担を見直し、資生堂ジャパンが行ってきた研究開発・商品開発機能およびマーケティング機能を岩城製薬が担い、資生堂ジャパンは現行品の製造を担う。    22年8月には、岩城製薬がキノファーマと尋常性疣贅を適応症とした共同開発・商業化契約を締結し、22年10月にはキノファーマの第三者割当増資を引き受けて資本出資した。23年4月には、岩城製薬がキノファーマと共同開発した製剤を用いて、ヒトパピローマウイルス感染症である尋常性疣贅を適応症として第2相臨床試験(キノファーマが実施)を開始した。

 また23年7月には、岩城製薬が帝人ファーマから「ボンアルファ・ボンアルファハイ」の日本における製造販売承認を承継した。

■化学品事業

 化学品事業(表面処理薬品・表面処理設備の製造販売など)はメルテックス、東京化工機、および海外子会社等を中心に展開している。ハイエンド表面処理薬品に特化し、半導体/電子部品領域で高い市場シェアを誇っている。

■SDGsとソーシャルインパクト事業

 持株会社体制への移行とともに本社機能の一部を石川県珠洲市に移転し、石川県珠洲市が地方創生に向けた人材育成事業の一環として行っている能登SDGsラボと協業し、ソーシャルインパクト事業としてSDGsの達成と社会変革の実現を目的とする新規事業を推進している。

 21年7月には奥能登地域のSDGS達成支援を目的とするファンド「奥能登SDGs投資事業有限責任組合(のとSDGsファンド)」に出資、21年12月には子会社のイワキ総合研究所の商号をアステナミネルヴァに変更して事業内容を地方創生関連事業に変更した。

 23年1月にはアステナミネルヴァが、のとSDGsファンドの投資先である有機米デザイン(東京都小金井市)の「アイガモロボ」(田んぼの雑草を抑制する自動ロボット)を使用した有機米事業を開始すると発表した。またアステナミネルヴァが、森林資源を生かした自立・分散型の脱炭素社会の実現に向けて、石川県珠洲市で森林事業を開始すると発表した。さらに23年1月には、スタートアップ企業を支援するベンチャーファンド「TUAT1号投資事業有限責任組合」へ出資した。同ファンドの主たる投資先は農学分野(特に脱炭素に資する循環型畜産業、スマート農業、持続可能な食料生産)の研究成果を活用したスタートアップ企業を想定しており、アステナミネルヴァとのシナジーを見込んでいる。

■中期経営計画

 2030年に向けたグループ中長期ビジョン「Astena 2030 “Diversify for Tomorrow”」では、定量的ターゲットに30年11月期の売上高1300億円以上、ROE13%以上を掲げている。セグメント別の目標値は、ファインケミカル事業が売上高400億円で営業利益率9%、HBC・食品事業が売上高450億円で営業利益率3%、医薬事業が売上高228億円で営業利益率13%、化学品事業が売上高130億円で営業利益率10%としている。

 そして24年11月期からの中期経営計画(ローリング形式)では、26年11月期の目標値として売上高640億円、営業利益30億円、ROE7.4%を掲げている。また政策保有株式を縮減する方針を打ち出し、27年11月期までに政策保有株式の連結純資産比率を10%未満まで減少させる計画としている。

 基本戦略には3つのサステナビリティ戦略として、プラットフォーム戦略(CMC=医療用医薬品研究開発の国内トップレベルでの受託、ヘルスケア調達プラットフォーム=医薬品・化粧品・機能性食品製造会社の全ニーズをカバー、創薬インキュベーション=CMC提供を通じて新薬開発の成功確率を高める、CDMO=注射剤・外皮用剤・治験薬の受託製造)、ニッチトップ戦略(外皮用剤ジェネリック医薬品=国内塗り薬ジェネリック医薬品市場NO.1、ハイエンド表面処理薬品=エレクトロニクスに特化した表面処理薬品)、ソーシャルインパクト戦略(シニア・アクティベイト=化粧品・機能性食品の提供を通じてシニア総アクティブ化推進)を掲げている。

 ファインケミカル事業は、CMC・CDMO事業および調達プラットフォーム事業を2本柱として、原材料調達からCMC研究、原薬商用生産までの医薬品開発・製造の幅広いサービスを提供する。

 HBC・食品事業は、原料ビジネスのDX化による顧客の開発・調達プロセスの課題解決プラットフォームの提供、独自性を高めた商品・サービスの提供による市場価値増大を推進する。またダイレクトマーケティング領域への投資を実行して、領域特化型ネットワークを構築する。

 医薬事業は、皮膚科領域をベースとして外皮用剤品目数および生産キャパシティでトップ、グローバル要求水準に対応して高活性注射剤CDMOのトップを目指す。また外皮用剤、注射剤導入、新薬共同開発、M&A・アライアンスで事業基盤強化・拡大を目指す。

 化学品事業は、エレクトロニクス実装市場のトレンドを捉えたニッチトップ商品の継続的開発、ハイエンドパッケージ基板での地位確立、チップ部品用途の台湾・中国大手での採用、半導体パワー・センサー系薬品の差別化を推進する。またグローバル企業との共同開発も推進して成長を目指す。

 その他事業(ソーシャルインパクト事業)では既存事業との親和性、将来に亘る成長性、グループ全体への波及効果なども勘案して、SDGsの達成と社会変革の実現を目的とする売上100億円規模の新規事業を推進することを目標とする。なお24年1月には公益財団法人岩城留学生奨学会に対し、本財団の社会貢献活動を継続的かつ安定的に支援する目的で、第三者割当による自己株式の処分(67.4万株)を行うと発表した。

■24年11月期大幅営業・経常増益予想

 24年11月期の連結業績予想については、10月11日付で売上高を据え置き、各利益を上方修正(6月26日付に続いて2回目の上方修正)して、売上高が23年11月期比10.6%増の575億円、営業利益が77.3%増の20億円、経常利益が46.6%増の20億円、親会社株主帰属当期純利益が3.2%増の12億円としている。配当予想は据え置いて、23年11月期と同額の18円(第2四半期末9円、期末9円)としている。予想配当性向は60.0%となる。

 第3四半期累計は売上高が前年同期比3.4%増の420億77百万円、営業利益が2.9倍の20億01百万円、経常利益が2.6倍の20億15百万円、親会社株主帰属四半期純利益が5.4倍の11億38百万円だった。

 大幅増益だった。医薬事業における薬価上昇、HBC・食品事業における自社企画化粧品や輸入化粧品の販売好調などが牽引した。

 ファインケミカル事業は、売上高(外部顧客への売上高)が3.6%増の152億09百万円、営業利益(全社費用等調整前)が1億14百万円の損失(前年同期は1億36百万円の利益)だった。医薬品原料部門は売上面が堅調だったが、利益面は輸入品原価上昇や人件費増加などにより低調だった。CDMO(医薬品開発製造受託)部門は専門的研究人材の増員により受託キャパシティを拡大しつつ、大手新薬メーカーからの受注拡大や受託案件の利益率向上を推進した。またペプチド基幹原料「疎水性タグ」の販売により、中分子原薬のプロセス開発案件の受注を拡大した。

 HBC・食品事業は、売上高が16.0%減の106億22百万円だが、営業利益が108.6%増の3億98百万円だった。不採算だった一般用医薬品等卸売事業からの撤退により大幅減収だが、化粧品通販の自社企画化粧品「ピュレア」や輸入化粧品「Torriden」の販売が好調に推移したことなどで営業損益が大幅に改善した。

 医薬事業は売上高が20.6%増の84億61百万円、営業利益が161.2%増の10億83百万円だった。22年12月に発売した抗真菌薬であるルリコナゾール軟膏・クリームが伸長し、23年7月に帝人ファーマより承継したボンアルファ・ボンアルファハイも好調だった。また、同業他社の一部製品販売中止に伴う代替需要としてゲンタマイシン硫酸塩軟膏やピコスルファートナトリウム内用液などの販売も伸長した。さらに利益面では、24年4月の薬価改定において一部製品が不採算品再算定および基礎的医薬品指定を受けたことが寄与した。

 化学品事業は売上高が22.7%増の77億59百万円、営業利益が6億72百万円(同48百万円の損失)だった。表面処理薬品部門では半導体電極形成用薬品や電子部品の受動部品向けめっき薬品の需要が伸長した。表面処理設備部門では工場拡張に伴って受注・生産件数が増加した。

 その他事業(人材事業、ふるさと納税事業、投資事業等の新規事業)は、売上高が23百万円(同6百万円)で、営業利益が1億02百万円の損失(同77百万円の損失)だった。

 なお全社ベースの業績を四半期別に見ると、第1四半期は売上高が134億26百万円で営業利益が4億54百万円、第2四半期は売上高が146億65百万円で営業利益が8億91百万円、第3四半期は売上高が139億86百万円で李業利益が6億56百万円だった。

 通期は前回予想(6月26日付の修正値、売上高575億円、営業利益16億円、経常利益16億円、親会社株主帰属当期純利益8億円)に対して売上高を据え置き、営業利益を4億円、経常利益を4億円、親会社株主帰属当期純利益を4億円それぞれ上方修正した。なお特別利益では前期計上の固定資産売却益が剥落する。積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。

■株主優待制度は毎年11月末に500株以上を継続1年以上保有株主対象

 株主優待制度(詳細は会社HP参照)は、毎年11月末時点で500株(5単元)以上を継続して1年以上保有する株主を対象に保有株数および保有期間に応じて自社商品等を贈呈する。23年11月末対象より実施した。

■株価は上値試す

 株価は徐々に水準を切り上げて戻り高値圏だ。高配当利回りや1倍割れの低PBRなども評価材料であり、上値を試す展開を期待したい。10月18日の終値は530円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS30円02銭で算出)は約18倍、今期予想配当利回り(会社予想の18円で算出)は約3.4%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS719円53銭で算出)は約0.7倍、そして時価総額は約217億円である。(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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