アンジェス Research Memo(3):HGF遺伝子治療用製品は米大手製薬企業とのパートナー契約締結を目指す
2024年10月7日 16:13
*16:13JST アンジェス Research Memo(3):HGF遺伝子治療用製品は米大手製薬企業とのパートナー契約締結を目指す
■主要開発パイプラインの動向
アンジェス<a href="https://web.fisco.jp/platform/companies/0456300?fm=mj" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><4563></a>の主要開発パイプラインには、HGF遺伝子治療用製品、NF-κBデコイオリゴDNAや、提携先のVasomuneと共同開発中のTie2受容体アゴニスト、アイガーから導入した「ゾキンヴィ」がある。
1. HGF遺伝子治療用製品
HGF遺伝子治療用製品は血管新生作用の効果を活用して、閉塞性動脈硬化症のなかでも症状が進行した慢性動脈閉塞症向け治療薬として開発が進められてきた。慢性動脈閉塞症とは、血管が閉塞することによって血流が止まり、組織が潰瘍・壊疽を起こして最終的に下肢切断を余儀なくされることもある重篤な疾患である。カテーテル治療や血管バイパス手術などが行われるが、手術ができないケースも多く、新たな治療法の開発が望まれている。
HGF遺伝子治療用製品は、血管が詰まっている部位周辺に複数回注射投与することによって新たな血管を作り出し、血流を回復させることで潰瘍の改善を図るものである。国内では2019年3月に「標準的な薬物治療の効果が不十分で、血行再建術の施行が困難な慢性動脈閉塞症における潰瘍の改善」を効能、効果または性能として、条件及び期限付き承認を取得し、同年9月より「コラテジェン(R)筋注用4mg」として提携先の田辺三菱製薬を通じて販売を開始した。用法は、虚血部位に対して筋肉内投与を4週間間隔で2回行い(4mg/回)、症状が残存する場合には4週間後に3回目の投与もできる(薬価は約61万円/1瓶(4mg))。
条件及び期限付き承認となるため、製造販売後承認条件評価を実施し、同結果をもって2023年5月に本承認の申請を行ったが、二重盲検の国内第3相臨床試験成績を再現できなかったことから、2024年6月に申請を一旦取り下げた。今回の承認申請取り下げによって、国内での「コラテジェン」の販売は終了となる。ただ、製品売上高は2023年12月期実績で23百万円と少ないため、販売終了による2024年12月期業績への影響は軽微である。国内の開発戦略は今後の米国での開発動向を見て決定する方針だ。
弊社では今回の開発戦略変更について、米国で実施した後期第2相臨床試験で想定以上の好結果を得られたことが影響したものと推察している。国内では下肢切断リスクの高い重度の患者※1を対象としてきたが、米国では2019年6月に改定された包括的高度慢性下肢虚血に関するグローバル治療指針※2や治験担当医師の提案を踏まえて、下肢切断リスクの低いステージ1~2の患者を対象に臨床試験を実施した。治験担当医師は、重症下肢虚血の患者はがんと同様に早期に治療を開始することが重要との仮説を立てたようで、治験結果でその仮説が証明されたようだ。
※1 投与対象肢の動脈に閉塞又は狭窄部位が認められ、かつ潰瘍を有していること(平均10mm程度、最大約30mmまで)。血行再建術の適応が困難なこと。既存の内科的治療や処置による症状改善が認められないこと。血行動態の指標が一定水準以下であることなど。
※2 グローバル治療指針(Global Vascular Guideline:GVG):包括的高度慢性下肢虚血(CLTI:Chronic limb-threatening ischemia)の初期段階から適切な治療マネジメントを提供することで患者のQOLの向上を図ることを推奨している。当ガイドラインでは臨床ステージを4段階(clinical stage1~4)に分け、それぞれのステージにおける治療方針が示されており、米国での後期第2相臨床試験は下肢切断リスクの低いclinical stage1と2を対象とした。このステージの患者には、まず潰瘍の治療を考慮することがガイドラインで推奨されている。
米国の後期第2相臨床試験では、主要評価項目として「潰瘍の改善」と「血流の改善」を設定し、HGF遺伝子治療用製品またはプラセボを4週間の間隔を置いて4回投与する二重盲検比較試験を実施した。被験者を4mg/回、8mg/回、プラセボの3群に分け12ヶ月の観察期間を設けてデータ収集を行った(被験者数は途中脱落者も想定して全75例を組み入れ)。当初は2024年4~6月にトップラインデータを発表する予定であったが、想定以上の好結果が得られたことで、治験担当医師が論文を作成し、2024年秋頃に権威ある学会や学術紙で発表する予定だ。同社もそれを受けて発表する。治験結果については、4mg/回の投与群でも明確な有効性が確認できたほか、潰瘍の状態についても改善だけに留まらず治癒した例も多くあったようだ。日本の臨床試験結果との違いに関して、同社では被験者の症状(軽度から中等度を対象)や投与回数(4回)の違いに加えて、経過観察期間中の患者の管理体制の違いが影響したのではないかと推察している。米国ではブーツを履くことで患部を保護していたほか、週1度の診察を受けるなどフォローアップ体制も万全だった。
米国における今後の開発方針は、FDAとのミーティング(2024年10~11月頃)を行ったうえでの決定となる。9月18日付でFDAよりブレイクスルーセラピーに指定されたことを発表しており、第3相臨床試験を実施する場合、プロトコルの設定などに関する協議を優先的に行えるほか、後期第2相臨床試験で明確な有意差を得られたことから症例数も同等程度となる可能性があり、治験期間は被験者組み入れで1~2年、経過観察期間も含めれば2~3年になると同社では見積もっている。審査も通常より短期間で実施されるため、順調に進めば2028年頃に上市される可能性がある。また、有効性・緊急性があると判断されれば第3相臨床試験を行わずに、市販後調査を行う条件付きで製造販売承認されることも考えられる。
米国での販売パートナー選定に関して治験担当医師からは、米国での閉塞性動脈硬化症の患者は退役軍人専門の医療施設に多く、これら医療施設に日系企業が新規にマーケティング活動を行う場合、相当の時間を要する。スムーズにこれら医療施設への販売を進めるためには、既に太いパイプを持つ米国大手製薬企業を販売パートナーとすることが望ましいとの助言があった。また、同疾患に対する新薬は20年間出ていないことや、対象患者は糖尿病を患っている患者が多いこともあり、糖尿病治療薬を持つ製薬企業にとっては魅力的に映ることも理由だ。このため、同社は米国での販売パートナー候補の探索に着手しており、2025年2月以降の早期契約を目指している。第3相臨床試験に進んだ場合、パートナー先が決まっていれば開発資金を軽減できる可能性がある。
日本における開発方針については、国内の第3相臨床試験結果と米国における後期第2相臨床試験の結果を中心として、新たな申請データパッケージを構築し、改めて製造販売承認の申請に向けて準備を進めていくが、米国での今後の開発動向が大きく影響するものと考えられる。また、大手製薬企業との契約が締結されれば、欧州市場での展開も予想される。
「コラテジェン」の市場規模については、米国だけで少なくとも数百億円規模になると弊社では試算している。同社では対象患者数を現時点で数万人規模と見込んでおり、これに国内の薬価(約61万円/1瓶(4mg))×4回を掛け合わせた。米国で開発に成功すれば、日本や欧州にも展開していくため、世界では1千億円を超えるブロックバスターになる可能性もある。まずは2024年秋に発表予定の治験結果の内容に注目したい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)《HN》