【QAあり】三井物産、中長期的な成長を見据えた、成長投資と株主還元のバランスを意識した経営によりさらなる飛躍へ

2024年10月4日 09:09

個人投資家向け会社説明会

堀健一氏(以下、堀):みなさま、こんばんは。三井物産株式会社代表取締役社長の堀です。本日は、幅広い年代の方にご参加いただけるよう、夜の時間帯にオンライン形式で開催しています。たくさんの方にご参加いただき、誠にありがとうございます。

当社の株式は、本年3月末時点で約26万人の個人投資家のみなさまに保有いただいており、その保有株式数は、当社発行済み株式の約20パーセントを占めています。個人投資家のみなさまは、大変重要な存在です。

本日の説明会を通じて、当社の強みや戦略、持続的成長に向けた道筋などについて、当社へのご理解を深めていただくための一助となれば幸いです。

自己紹介

まずは、私自身のキャリアについて簡単にご紹介します。スライドのとおり、国の内外、例えば、メーカー型の事業や、商社らしいトレーディングなど、いろいろな幅広い仕事に取り組んできました。大半はビジネスサイドにいましたが、コーポレート側にいたこともあります。

当社では、両方がうまく組み合わさって仕事ができていますので、両方経験できたのは良かったと思っています。社長になる前は、ポートフォリオ管理委員長でした。2021年から現職に就いています。

目次

本日は、当社の概要、昨年5月に公表した「中期経営計画2026」をご説明した上で、当社のビジネスモデルと3つの強みについて、当社事業の事例を紹介しながらご説明します。

事業概要

当社の事業分野は多岐にわたっており、各分野でのトレーディング・物流に加えて、事業に投資し、当社の強みを活かしてその価値を上げるなどの幅広い活動を行っています。

具体的には、鉄鉱石や銅などの「金属資源」、LNGやガスなどの「エネルギー」、自動車、船、発電プロジェクトなどの「機械・インフラ」、さまざまな素材を扱う「化学品」、自動車・建築用の鋼材などの「鉄鋼製品」、食やヘルスケアなどの「生活産業」、ICTサービスや不動産、金融事業などの事業を行う「次世代・機能推進」の7つの事業分野で取組みを展開しています。

各分野の知見と機能を掛け合わせ、世の中の変化を捉えながら、世界中で当社ならではの価値創造に挑戦しています。

数字で見る三井物産グループ(2024年3月期)

当社グループには約5万4,000人の多様な人材がおり、国内外61ヶ国125拠点、491社の関係会社を展開しています。7つの事業分野は、幅広い産業にまたがり、かつグローバルに広がりを持つ事業ポートフォリオを構築しています。

当社の主要事業について、いくつかの特徴的な数字を用いながらご説明します。鉄鉱石の持分生産量は年間約6,100万トンと世界有数の規模です。海上貿易のトップ3を占める資源メジャーとの共同運営・投資を通じて、非常に低いコストで大規模な生産を行っています。

LNG事業では8ヶ国11プロジェクトに参画しており、グローバルに分散された事業ポートフォリオを構築しています。後ほどご説明しますが、2024年7月には新たにアブダビのLNG事業への投資も決定しました。

当社名義にて国内外で行うLNG物流の年間取り扱い数量は、約1,000万トンレベルです。この数量規模は、日本の年間輸入量の約15パーセントに相当します。

近年、業績の伸びが著しい自動車産業、ヘルスケア事業においては、当社の重点出資先が米国におけるトラック管理台数、アジアにおける病床数は、それぞれ第1位の規模となっています。

トレーディングにおいては、代表的なものとして化学品ではアンモニア、生活産業ではトウモロコシ・大豆・菜種について、日本向けに高い輸入シェアを占めています。

こちらの数字で示したように、鉄鉱石、LNG、自動車、ヘルスケア、化学品、食料など幅広い産業において競争力の高い事業を展開しています。

企業価値向上の軌跡

当社成長の軌跡について簡単にご説明します。当社は設立以来、時代に応じて変化する社会課題に対して、ビジネスを通して現実解を提供するために、事業ポートフォリオを変革して、成長を続けてきました。

各セグメントが着実に収益を伸ばし、バランスの良い収益構造となり、トータルの当期利益を大きく成長させていることが、スライドの図からおわかりいただけるかと思います。

安定した収益基盤を持ちつつ、例えば、商品市況が想定よりも上振れした場合など、事業環境に応じたアップサイドも取り込める体制になっています。

当社は、絶えず発展段階にあります。トレーディング、サプライチェーンの管理、リスクマネジメントをはじめとする商社の基本的な機能を常に磨きながら、今後も成長を続けていきます。

中期経営計画2026 定量目標

2023年5月に「中期経営計画2026」を発表し、今期はその2年目に当たります。以降は「中経」と略しますが、中経最終年度の2026年3月期は、基礎営業キャッシュ・フロー1兆円、当期利益9,200億円を目標としています。ROEは、中経3年間の平均12パーセント超を目指しています。

これらの定量目標は、2023年5月以降に発生した円安などの外部環境の変化を織り込んでおらず、例えば、為替の前提は1ドル130円となっています。

成長戦略~3つの攻め筋(Key Strategic Initiatives)~

現中経では、経営資源を重点的に配分する3つの攻め筋を設定しています。1つ目は、世界中に展開するさまざまな事業を通じて、資源、素材の安定供給やインフラ構築のための高度な仕組みを作るIndustrial Business Solutionsです。

2つ目は、脱炭素社会への移行に向けたGlobal Energy Transitionです。3つ目は、医療・健康に加え、健康に通じる食などの人々のライフスタイルの質向上に向けた事業を展開するWellness Ecosystem Creationです。

それぞれ中経の3年間で8,000億円、6,000億円、4,000億円、現時点で合計1.8兆円の成長投資を見込んでいます。これらを通じて、早期収益貢献と、中長期的な収益基盤の構築を両立させながら、会社全体の継続的な成長を目指していきます。

株主還元方針

スライドは、長期的な株主還元の推移を示したものです。当社は一貫して、株主還元の拡充に注力してきました。前の中経3年間の累計での総還元額は1兆円を超えています。

現中経3年間累計の総還元額も、現在公表している範囲だけでもすでに1.3兆円を超える見通しです。なお、こちらは先週公表した追加の自己株式取得分も含めた金額となります。

スライドの折れ線グラフは、1株あたりの配当の推移を示しています。当社では、安定的なキャッシュ・フローの拡大に応じて配当を拡大しており、過去15年間で約10倍に増加しています。

2023年5月には、現中経における基礎的な収益力の成長や安定的なキャッシュ創出力を勘案し、下限配当の維持または増配を行う累進配当を導入することを発表しました。

また、2014年3月期から、資本効率の向上を意識して、継続的に自己株式取得を実施しています。

三井物産のビジネスモデルと3つの強み

当社のビジネスモデルと、それを支える3つの強みについてご説明します。当社は、事業を通じて、複雑化する社会課題に対して産業横断的な現実解の提供を目指しています。

三井物産の強み-人材と企業文化-

強みの1つ目は、「人の三井」です。人材育成を最も重視する会社であること、自立した「個」の集団であることを意味します。この強い「個」が1つの目的に向かって協働し、新たな価値創造を続けていくことが、当社の強みです。

当社では、強い「個」の育成、戦略的適材配置、インクルージョンの3つを人材戦略の柱としています。取組みをいくつかご紹介します。

当社は1952年より、主に若手社員を海外に派遣し、英語以外の語学習得や現地での実務経験を積ませることにより、地域エキスパートを育成しています。このような国外派遣制度の利用者は、累計で4,300名を超えており、その地域に深く根ざした事業を数多く生み出しています。

社員が自らの意思で、所属組織とは異なる新しい職務に挑戦できる人事ブリテンボード制度も積極的に活用されています。海外採用社員が、採用国とは別の地域でグローバルに活躍する例も増えています。

女性活躍推進の強化やキャリア採用にも積極的に取り組んでいます。三井物産単体の女性管理職比率は中間目標である10パーセントを超えましたが、2031年3月期には20パーセントを目標としています。

人材戦略の3つの柱に基づくこのような取組みにより、持続的な企業価値向上を実現していきます。

強みの2つ目は、「自由闊達」です。すべての社員が自由な発想で自由に発言し、役職に関係なく、度量広く受け止めるという企業文化です。「自由闊達」は「人の三井」とともに、当社の「挑戦と創造」の土台であり、部門を超えたコミュニケーションによる産業横断的な価値創造を可能にしています。

グローバルに広がる事業ポートフォリオ

強みの3つ目は、グローバルに広がる事業ポートフォリオです。当社は、長年にわたり事業を強化し続け、事業ポートフォリオを絶え間なく見直し、入れ替えを続けてきました。その結果、当社は世界中に分散した収益基盤を持っており、鉄鉱石、LNG、自動車、化学品、ヘルスケアなど、幅広い産業において競争力の高い事業を展開しています。

また、先進国・新興国など、幅広い事業を地域的に分散させることにより、地政学的リスクにも対応可能な事業ポートフォリオを構築することができています。

三井物産のビジネスモデル

グローバルかつ幅広い事業ポートフォリオは、新たな事業を創り、コア事業を育て、コア事業とその周辺事業を組み合わせたビジネスのクラスター(事業群)を形成し、展(ひろ)げることで絶え間なく変革を続けています。

時を超えて受け継がれてきた「人の三井」「自由闊達」という企業文化、そして「事業ポートフォリオ」を通して、複雑化する社会課題に対して、産業横断的な現実解を提供していきます。

Global Energy Transition アブダビにおける当社取組み

ビジネスモデルについて、現中経で設定している3つの攻め筋に沿って、それぞれの事業展開をご紹介します。

1つ目の攻め筋であるGlobal Energy Transitionでは、アブダビにおけるLNGおよびクリーンアンモニアの取組みについてご紹介します。LNGは化石燃料の中で環境負荷が相対的に低く、エネルギートランジションにおいて重要な役割を担っています。また、クリーンアンモニアは、次世代燃料として将来的な需要増が予想されています。

当社は、日本へのエネルギーの安定確保を目的に、これまでの石油輸入・精製、あるいは石炭輸入などを起点として、1970年代に中東のアブダビLNG開発に参画しました。50年にわたるアブダビ国営石油会社(以下、ADNOC)との良好な関係を通じて、今年新たにADNOCが手掛けるルワイスLNG事業に、国際エネルギーメジャー3社とともに参画しました。

これにより、当社のLNG事業ポートフォリオはさらに強化され、現在はアメリカ、オーストラリア、中東など8ヶ国11プロジェクトに参画しています。グローバルに広がる事業ポートフォリオは、地政学的なリスクが高まる状況においても、地域分散という有効な解決策につながっています。

ADNOCとは、2022年よりクリーンアンモニア製造事業にも取り組んでおり、2027年には生産開始の予定です。同社との関係はますます広がりを見せています。

Industrial Business Solutions モビリティ事業(Penske Group)

2つ目の攻め筋であるIndustrial Business Solutionsでは、近年成長の著しいモビリティ事業についてご紹介します。

当社の自動車事業においては、日系自動車メーカーの海外進出にあわせて、完成車の輸出サポート、海外販売体制の構築、海外現地生産対応のサポートといった商社機能を発揮してきました。

その過程で、米国を含む海外における乗用車の販売体制の構築、トラックなどの陸上輸送サービスのニーズの高まりに応じて、2001年に米国Penske Automotive Group、2015年にはPenske Truck Leasingに事業参画しました。

20年以上にわたり、Penskeグループとのパートナーシップに基づき事業の良質化を続け、アメリカを中心とした新車・中古車の販売、リース・レンタル・メンテナンスといったさまざまなメニューを展開し、顧客ニーズに対応することで、大きく業績を伸ばすことができました。

2022年には、インドネシアのトラックリース市場にも進出しました。今年は、米国においてトラックオークション事業を買収して参画することにより、事業群の拡大を進めています。こちらが、先ほどもお話しした事業群としての展開となります。

Wellness Ecosystem Creation 動物タンパク質事業群

3つ目の攻め筋であるWellness Ecosystem Creationでは、食やウェルネスに関する複数の事業群を組み合わせて付加価値を生み出しています。その1つである、動物タンパク質事業群をご紹介します。

世界の人口増加や経済成長を受けて、動物タンパク質の消費量が増え続けています。当社は1960年代から、鶏の飼料生産・輸入、ブロイラーの生産・加工などを通じて、この分野の知見を蓄積してきました。

この知見を活かしながら、国内で発展させてきたビジネスモデルをグローバルに展開し、畜産・水産事業に加えて、動物種苗などの事業も展開しています。2023年以降、エクアドルでの世界最大のエビ養殖事業、エジプトおよびインドのブロイラー事業への出資を相次いで決定し、現中経では特にエビ・鶏の事業に積極的に投資しています。

エビと鶏の特長としては、育つまでの期間が短いこと、食文化や宗教的な制限が少ないこと、飼料からタンパク質に変わる効率も非常に良いことが挙げられます。環境問題に対応できることはもちろん、高まる健康志向にも合致することから、他の動物タンパク質と比較してもさらに高い成長率が見込まれています。

当社は、国内で蓄積してきた知見を活用し、グループ企業と一体となって、持続可能な安定供給体制を作り、長期的かつ継続的な価値向上を実現していきます。

中期経営計画2026および2025年3月期 定量目標

現中経の初年度となる2024年3月期は、基礎営業キャッシュ・フローは3期連続、当期利益は2期連続で1兆円規模の実績を達成しました。中経の2年目となる2025年3月期においても、基礎営業キャッシュ・フローは1兆円、当期利益は9,000億円と、同様の規模の継続を見込んでいます。

2025年3月期 第1四半期実績

2025年3月期第1四半期の実績は、基礎営業キャッシュ・フロー、当期利益ともに事業計画に対して想定どおりの進捗と評価しています。

5月に公表した2,000億円を上限とする自己株式取得については、予定どおり9月20日までの完了を見込んでいます。また、第1四半期決算後の新たな決定事項として、9月11日に自己株式取得の上限金額をさらに2,000億円追加し、4,000億円とすること、取得期間を2025年2月28日まで延長することを公表しました。

なお、5月2日から9月20日までに取得した自己株式は、10月1日に消却を予定しています。新たに取得を決定した追加の自己株式についても、全株消却することを決定しています。

株主還元方針

2024年7月1日を効力発生日として、1株を2株とする株式分割を実施しました。現中経開始時点から見ると、累進配当に基づき、1株あたり25円増配しており、現在は1株あたり100円となっています。

自己株式取得の増額を含めると、中経3年間の基礎営業キャッシュ・フローに対する株主還元の割合は45パーセントを超える見通しです。今後も、キャッシュ・インの拡大に応じて、安定性と機動性を兼ね備えた株主還元を拡充していきます。

PER(株価収益率)推移

最後に、当社の当期利益およびPERの推移をお見せしながら、個人投資家のみなさまへのメッセージをお伝えしたいと思います。

当社の株価は、最近の株価でPERを見ても約10倍のレベルです。日経平均のPER13倍から15倍よりも低い水準であり、20倍を超えるアメリカのニューヨーク・ダウやS&P500と比較するとさらに差があります。この数年で上昇傾向にはありますが、まだまだ上を目指す余地があると考えています。

中長期的な視野で見れば、これまでの当社の成長の実績、今後の成長戦略、継続的に拡充している株主還元と、さらなる企業価値向上の可能性があると考えています。

最近の株式市場の大きな変動に不安を感じている株主や投資家の方もいらっしゃるかもしれませんが、当社は強固な財務基盤と実績を持ち、中長期的な成長を見据えた戦略を着実に実行していきます。また、成長投資と株主還元のバランスを意識した経営資源の配分を行っていきます。

今後も当社事業に対する理解を深めていただけるよう、株主・投資家のみなさまとの対話を継続していきたいと思っています。当社のさらなる成長にぜひご期待、ご支援いただけますと幸いです。

以上で、私からの説明を終わります。ありがとうございました。

質疑応答:今後の株主還元方針について

司会者:「株主としては、やはり株主還元が気になります。先ほど還元が増えてきた歴史についてご説明いただきましたが、今後の株主還元方針について詳しく教えてください」というご質問です。

:当社の株主還元については、株主還元と成長への投資の二兎をバランスよく追っていくというのが基本的な考え方です。

新規投資は重要であることから、収益性や戦略性をよく考えながら行っていくとともに、株主還元を非常に重要視しています。収益力の増加に伴った累進配当という発想で、配当を充実させていきたいと思っています。

資産のポートフォリオを組み替える中で、キャッシュ・インが充実した時、商品市況によって想定以上の営業上のキャッシュが入ってくる時などに、株式市場における当社の株価水準やバランスシートの状況を見ながら、総合的な判断に基づき機動的な自己株式取得も進めていきます。

配当と自己株式取得の組み合わせ、成長投資、これら全体のバランスの中で、株主のみなさまのご期待にしっかりと応えていきたいと考えています。

質疑応答:現時点における中期経営計画の成果や評価について

司会者:「今の中期経営計画を発表してから1年が経ちましたが、ここまでの振り返りや成果をどのように評価していますか?」というご質問です。

:昨年度が中期経営計画の1年目ですが、それ以前から、我々が重要視している指標である基礎営業キャッシュ・フローが1兆円水準を3期連続で達成できていることは、ある程度評価してもよい成果だと思っています。

さまざまなリスク管理を統合的に行ったため、この成果を出せたと思っています。市場リスク、さまざまな地政学上のリスク、サプライチェーンの分断なども踏まえつつ、我々の事業の中からしっかりと成果を出していくことが求められますが、それらのリスク管理も同時に進めることができたと評価しています。

この数年を思い起こせば、新型コロナウイルスが終息する前から、世界中の潜在的な新規案件の探索を行っていました。本社からいち早く海外出張に出ていたということもありますが、海外にいる我々の仲間たちが歯を食いしばり、さまざまな案件を作っていきました。そのようなことからも、案件のパイプラインを相対的に早く復元できたのだと考えています。

現在は、当社の資本コストを大きく上回る利益を生むような案件を構築すべく、さまざまな案件に取り組んでいます。そのような意味では、潜在的な案件パイプラインの充実が1年目の成果かと思います。

当社は、総合商社としてさまざまなことに取り組んでいます。例えば、化学品のお客さまであれば、エネルギーとインフラの知見を合わせた総合的な対応の解決策を希望されます。こちらに対応するために社内の垣根を事実上一切取り外し、社内のコラボレーションで現実的なソリューションをお客さまに提供するということが、日常生活のようになりました。

これは、今の時代において非常に大事なことです。中期経営計画の1年目では、このようなことが社員の意識、我々の提案力につながっていると手応えを感じました。

これから中経の後半になるわけですが、先ほどお話しした点についてさらに磨きをかけ、企業価値向上に努めていきます。

質疑応答:他の商社と比べた際の強みについて

司会者:「他の商社と比べた際の御社の強みを教えてください」というご質問です。

:総合商社は、各社に個性や特徴があると思っています。ただし、私どもは業界内での比較にはあまりこだわっていません。むしろ、各産業分野における強い会社と比較して、我々の事業はどうかということのほうを日頃意識しています。

あえて総合商社としての当社の特徴を少しお伝えすると、1つはバランスの取れたポートフォリオかと思います。日本を含めた先進国と新興国の事業ポートフォリオおよび収益源のバランスは、非常によく取れていると思っています。当社の特徴の1つであり、世界のさまざまな地政学リスクに対する下方耐性を作っていると思います。

また、短期で即効性のある利益を出し得る案件と、じっくりと時間をかけてサステナブル・長期的な収益基盤を作る案件が、現在のポートフォリオにも、今後進めていく案件パイプラインにもバランスよく存在しています。

当社は、お客さまへの安定供給などのソリューション提供の一環として、資源や素材、サービスなどの希少性を上手にマネージすることを期待されていますが、当社が扱っている現在の事業やサービスで、ある程度実現できているところにも特徴があると思います。こちらは、産業連関的な対応や地域的な分散が功を奏していると思っています。

例えば、エネルギー事業、金属資源事業、自動車・モビリティ事業、食料事業などを見ると、このような希少性のマネジメントがいたるところで見られます。

ヘルスケア事業においては、質の高いもの、競争力のあるもの、そしてなんと言ってもみなさまの生活に貢献するかたちで進めるものを、しっかりとデータを取りながら、進めていきます。

新たに進めていく事業も豊富に存在しており、このようなところに、当社の特徴があるのではないかと思います。

質疑応答:事業ポートフォリオの特徴について

司会者:「事業ポートフォリオが強みであるとお話しいただきましたが、御社の事業ポートフォリオにはどんな特徴があるのでしょうか? もう少し詳しく教えてください」というご質問です。

:先ほどご説明した地域的な分散などについては繰り返しませんが、さまざまな事業を行う上で、コンソーシアムを作るという発想があります。世界一流のパートナーとともに、当社も加わったことで可能となるユニークなコンソーシアムによって、事業運営をしていくという点に1つの特徴があるかと思います。

先ほどLNG事業の案件で例を挙げましたが、中東のアラブ首長国連邦にあるADNOC、BP、Shell、TotalEnergiesといった、多くの歴史的な業績を残しているグローバルエネルギー会社と一緒に、世界のLNG供給事業を作っているコンソーシアムの中に参加していくような点にも、当社のポートフォリオの特徴があるかと思っています。

このような仕事は我々の視野を広げていき、その広がった視野の中から次の景色が見え、仕事を作っていくといった特徴もあると思います。

私が社長になってから、なるべく自分たちの強みを活かすため、社内用語で「Own field」と言っていますが、自分たちの得意な分野から派生する仕事、そしてそこから見える景色で、またさらに強力なパートナーシップを構築し、事業を展開しています。こういった事業を構築する1つの型を奨励しており、そのような案件が充実してきていると思います。

最終的に企業として業績を上げるために、1つずつの案件がしっかりとしたKPIで管理されています。また、投資したキャピタルに対してのリターンに対する要求水準もマクロ経済に合わせながら上げていき、規律を持ってしっかりと実現していきます。

例えば、投資した案件を育てていく上での問題点を予見し、早めに手を打っていきます。これを社内用語で「ミドルゲーム」と言っていますが、このような活動を通じて、絶えずポートフォリオを強くしていくところを、1つの特徴としています。

事業ポートフォリオの強みに磨きをかけていけるよう、社員一同がんばっていきたいと思います。

質疑応答:エネルギー資源確保に向けた取組みについて

司会者:「希少性というご説明をいただきましたが、日本のような資源のない国では、資源の確保がとても重要だと思います。御社の今後の金属資源、エネルギー資源の確保に関する取組み方針について教えてください」というご質問です。 

:「希少性」というテーマを拾っていただき、ありがとうございます。おっしゃるとおり、当社の金属資源・エネルギーの仕事は、日本の資源確保というところがもともとのミッションとして始まっています。そのいくつかの資源の確保に関して、我々は大事な基準を持っています。

コスト競争力を持って、安定的に質の高いものを確保できる場を探求していくこと、それをプロジェクトとして構築していくことです。そのためには、資源所在国や国営エネルギー会社などとしっかりとした関係を作っていくことが第一にあると思います。

それらのプロジェクトは、リスクの規模が大きくなることも多いです。そのため、一流のプレイヤーが集まったコンソーシアムを組成して、当社もその中の一員に加わり、独自の機能を付加して事業を開発していくことが重要だと思っています。

その結果、商品市況が多少動いても、コスト競争力があるので下方耐性があります。長期にわたるサステナブルなかたちでの事業展開を担保していくことが大事だと思っています。

近年、特に気を遣わなければいけないのは、資源開発やエネルギー開発に必要な環境対応です。それは当然、許認可と一枚岩な話ですので、現地コミュニティとの良質な関係をしっかり作っていきます。

温室効果ガス対策や、日本まで持ってくるためのロジスティクスなど、いろいろな地球環境への対応等も含めて、すべてに気配りをするトータルソリューションで対応していく必要があると思います。

日本の大事なお客さま、各事業分野でのパートナーや日本政府との連携など、総合的な対応が重要だと思っています。当然、経験はある程度積み上げてきていますが、絶えず脇を締めて、感度高く、将来に予見されるいろいろな問題やリスクをよく検討していきます。さまざまな対策を事前に打ち、エネルギーや資源の安定供給に貢献していきます。

質疑応答:今後注力する事業について

司会者:「今後、力を入れていく具体的な事業を教えてください」というご質問です。

:今後、力を入れていくのは、3つの攻め筋である、Global Energy Transition、Industrial Business Solutions、Wellness Ecosystem Creationです。

これら3つに経営資源を十分に割り当てて、伸ばしていきたいと思っています。エネルギーと資源の話については、先ほどのご質問でお答えしていますので、他の分野のお話を申し上げるとエネルギーのトランジションがあります。

LNGは相対的に二酸化炭素の排出量が少ないため、トランジションの燃料として非常に重要だと思っています。これを軸に、当社は再生可能エネルギーや、グリッドとバッテリーを組み合わせたかたちでのインフラをしっかりと整備していきます。植林事業では、将来を見据えて、カーボンクレジットを管理していきます。

また、アンモニアやメタノールなどの基本的な化学品を使って、低炭素型の燃料を作っていきます。大きな需要があり、一定の価値提供の可能性を見出していますので、産業横断的なアプローチにより、事業を展開していきたいと思っています。

Wellness Ecosystem Creationについては、例えば、我々はIHHという会社に出資し、アジアの病院事業を展開しています。アジア全体で、約1万5,000床のベッド数があり、アジア最大の規模です。

ここから得られるヘルスケアデータをどのように事業に活かしていけるのか、さまざまな試みを行っています。病院事業でヘルスケアに直接従事し、病院の現場で起きる薬の開発や臨床試験といった事業を増やしていきます。

病気とは診断されない未病の分野も取り組むべき領域です。この分野についても、栄養学の観点も含めて、いくつかの新しい事業を展開しようとしています。

良質な食べ物であり、健康増進につながると思われる高品質のタンパク質も1つの大きなテーマの中で捉えています。そのようなかたちで、我々はウェルネス事業というものを広義の視点から見ています。

Industrial Business Solutionsにおいて、モビリティ分野は、大変重要だと思っています。特に当社の場合は、北米、南米、アジアにおけるモビリティのさまざまなサービス提供が重要です。アメリカでは、先ほど申し上げたPenskeという現地の一流グループと一緒に行っている事業があります。

そこから派生するさまざまな事業に、金融事業、メンテナンスサービス事業、自動車を総合的に管理するフリートマネジメントのような事業形態もあり、将来有望な展開が進んでいます。

以上が、目の前で進んでいる、3つの攻め筋における有望な案件の例です。

質疑応答:AIに関連する事業への取組みについて

司会者:「ChatGPTなど、世界中でAIが大きな話題になっています。AIに関連する事業は今後伸びていくと思うのですが、御社はこの分野で何か取り組んでいますか?」というご質問です。

:ChatGPTに代表される生成AIは、世の中を大きく変えていく、影響力の大きな道具であると思っています。Large Language Models(大規模言語モデル)に始まり、そこからさらに進化したものまで話題になっています。

我々は、やはりグローバル企業として、最先端の動きをよく把握しながら、どのようにビジネスに適用するかをしっかり考えていきます。もちろん、会社の経営効率を上げるための使い方もあると思います。すでに各社で取り組まれているように、当社も相当な力を入れて、日頃の意思決定や仕事の進め方に生成AIを活かす取組みを展開しています。

生成AIの活用はおもしろいと思います。その良さと限界を十分に理解しながら扱い、絶えず新しいデータを供給していくことも含めて、対応していく必要があると思います。社内の経営効率向上への効果も期待しています。

事業展開について例を挙げると、当社はアメリカのNVIDIAと連携して、創薬における薬の探求や薬の構造物の探求を行うため、日本の製薬企業を相手とするプラットフォームを作りました。今まででは考えられないような、非常に先進的な効率と計算力の高さで、仕事を進めていけるプラットフォームを作っています。

日本の製薬企業にも、プラットフォームに参加することの優位性を認めていただいています。

我々の病院事業の現場での臨床は、薬の開発の後工程の話ですが、初期工程の構造物の探求のところも、会社全体のポートフォリオの中で取り組む意味が非常に大きいと思います。NVIDIAとの取組みはさらにいろいろな展開ができると考えています。

このような取組みの事例がいくつかあり、当社の総合的な事業戦略の方向性と合っているか、ある程度把握している分野に近いか、将来の発展性はあるか、といったことも考えながら、生成AIに関するプロジェクトを一つひとつ追求していきたいと思っています。

質疑応答:株価の下落に対する対策について

司会者:「8月以降、株価が大きく下落していますが、どのように見ていますか? 何らかの株価対策を考えているのでしょうか?」というご質問です。

:8月以降の株価の下落については、いろいろな要因があると思っています。株式市場のボラティリティが少し大きくなっている印象を我々も強く受けています。

当社としては引き続き、株式市場および投資家のみなさまとしっかりと対話を続けて、当社の仕事の中身をよく理解していただき、当社の株式に対する評価を上げていただく対応をしていきます。結果として、値動きの安定にもつなげたいと思っています。

9月に入ってからの当社の追加の自己株式取得の発表についても、当社の株価水準や株式市場の動き、資本配分、キャピタルアロケーション全体の状況、バランスシートの状況、新規案件の動きなどを見ながら、経営判断をしています。

機動的な株主還元策を実施すること、足元の利益を着実に出すこと、将来を見据えた優良プロジェクトを、収益貢献に即効性のあるものと長期的な基盤につながるものをバランスよく進めていくことによって、当社の株式評価を上げる、あるいは株式市場の動きに対して耐性を持つようにしていきます。

質疑応答:円高進行や金利変化がもたらす影響について

司会者:「ここのところ、急激に円高になっています。金利も変化しそうですが、御社の利益にはどのような影響がありますか? また、どのような対策をとられていますか?」というご質問です。

:このようなマクロ環境の変化には、もちろん絶えず感度高く対応していきたいと思います。金利の変化については、歴史的に当社の商社活動の中でコスト上昇分を取引条件の調整で転嫁するなど、うまく対応できています。長期資金の借入においては、金利が上がると当然コストがかかります。しかし、金利が上昇している時は、規律を持って、いろいろなプロジェクトへの要求リターンを上げていきます。社員はそれを理解しているため、そのように対応していきます。

当社の為替への感応度は公表しているとおりです。円高になると、円ベースでの利益を若干減らす方向に働きます。一方で、我々が触れる他のレバーは全部触って、その影響をなるべく少なくする営業努力を当然行っていきます。

特に、海外の投資をドルで行う時に円高になると、見かけ上の円の投資金額が下がることもあります。しかし、当社の場合は為替の変動にあまり関係なく、円以外の現地通貨での投資を行っています。

例えば、ドルでの資産であれば、投資額の調達はなるべくドルで行います。ドル圏での仕事であるため、円とドルの為替の動きに対してニュートラルとなるケースが多いです。バランスシートの管理という意味では、為替の動きの影響はなるべく少なくなるように運営しています。

ただし、経営側にとっては、急激なマクロ環境の変化はやはり好ましくありません。予見可能性は非常に重要ですので、大きく変化する時には事前の対応も含めて、感度高く、脇を締めて対応していく所存です。

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