日本語に最も近い言葉とは? 日本人にとって韓国語が学びやすい理由!

2024年10月4日 14:48

 前回は、外国語学習の累積増進モデルについて説明した。

【こちらも】
https://www.zaikei.co.jp/article/20240806/777765.html

 累積増進モデルとは、外国語は多くの言語を学ぶほど、より深く速く効率良く学べるという学説だ。

 今回は、日本人にとって学びやすい外国語について考えてみたい。多くの専門家が親近性と言った観点から、日本人にとって最も学びやすい言語として韓国語を挙げている。

 これまでの研究結果をもとに、両言語の共通点を整理すると下記のようになる。

■日本語と韓国語の共通点

・語順がほぼ同じ

 日本語と韓国語は共にSOV(主語―目的語―述語)言語だ。

 英語、中国語などSVO(主語―述語―目的語)言語を訳すときは、順番を入れ替えて文を再構築する必要がある。

 日韓両言語はSOV語順であると同時に、修飾語の後に被修飾語、名詞句の後ろに後置詞といった点も一致している。従って、頭の中で日本語の文を組み立てて、その順番どおりに韓国語を当てはめていけば、そのまま韓国語の文が完成する。

【参考】東京外国語大学大学院総合国際学研究院趙義成研究室

・助詞が発達

 日本語、韓国語、モンゴル語、トルコ語、ハンガリー語などは共にトランスユーラシア語族(後述)に属す。これらは助詞が発達した膠着語だ。

 膠着語の膠(にかわ)は動物の皮などから作る接着剤のことだ。膠着語は「私+は+寒さ+が+苦手+だが+雪+は+好きだ」のように、名詞、動詞など自立語を助詞が接着剤のように繋げて文章を構築する。

・二重主語

 語順や助詞の使用法が酷似した日本語と韓国語では、ほとんどの文がそのままの構造で表現できる。

 例えば、日本語に特徴的な二重主語「象は鼻が長い(~は~が~だ)」は、韓国語でもそのままの形で表現される。

・「ここ、そこ、あそこ」の区別

 「ここ、そこ、あそこ」、「これ、それ、あれ」と、距離・位置を示す代名詞に近、中、遠称の区別がある。

 英語は「this」と「that」、中国語は「这」、「那」しかない。このため近くでも遠くでもない、中間的位置「そこ、それ」を表すことが難しい。

 日本語と韓国語は共に「これ、それ、あれ -> 이거、그거、저거」、「ここ、そこ、あそこ -> 여기、거기、저기」と三段階で表すため、距離的感覚をより正確に伝えられる。

・主題優勢言語

 日本語、韓国語、中国語、インドネシア語などは「主語(誰が)」よりも、主題を優先する言語のため、主語が省略される場合がある。英語やフランス語は主語優勢言語で、通常の文には主語が存在する。

 このため、両類型の言語間で翻訳を行う場合、本来限定されていない主語を見つけ当てはめる作業が必要になる。

・「r」と「 l 」の区別が無い

 中国語の「日本人(rì běn rén)」、英語の「Literally(líṭərəli)」を正しく発音するのは、日本人にとって難しい。韓国語では「r」も「 l」も「ㄹ」という音になる。舌を巻かずにシンプルに「らりるれろ」と発音すれば通じる。

・敬語を使う

 世界の言語の中で体系的な敬語の発達は、日本語、韓国語、チベット語、ジャワ語などに見られる。中でも日本語と韓国語は最も細かい敬語を有する言語であり、敬語の発達の度合いが世界の言語の中で突出している。

 日本語の敬語は丁寧語、謙譲語、尊敬語に分かれるが、韓国語の敬語の対者敬語、主体敬語、客体敬語にほぼ相当する。

・共通単語が多い

 日本語と韓国語の同音同意語、或いは同意語で発音が似ている単語の起源は、2種類ある。

 一つは中国から文化・制度・文物と共に伝わった漢字語。もう一つは日本で作られた和製漢語。

 前者は日韓両言語で使われている単語の中でもかなり高い割合を占め、比較的古くから使用されている単語が多い。例えば「山」は中国語では「シャン」、日本語の音読みでは「さん」、韓国語の発音は日本語に等しく「サン(산)」と発音する。

 中国語で東南西北の発音は「ドン、ナン、シー、ベイ」、日本語と韓国語では順番が変わって東西南北、日本語の発音は「とう、ざい、なん、ぼく」、韓国語では「トン、ソ、ナム、ブク(동서남북)」だ。

 約束、正直、気分などは韓国でもよく使われる言葉だが、中国では同じ意味では使われていない。韓国語の発音は日本語に近く、それぞれ約束->「약속(ヤクソク)」、正直->「정직(ショジク))、気分->「기분(キブン)」となる。これらは近代期以降に日本から韓国に入った言葉と思われる。

 トランスユーラシア語族は、語順がSOV型で文法的に類似点が多くみられる。しかし日本語と韓国語には他のトランスユーラシア語族との間には見つからない共通点も多く、韓国語と日本語はいかなる言語よりも密接な関係と言える。

 では両言語の親近性が高い理由について、言語学・人類学・歴史学・考古学的な観点から説明したい。

■共通点が多い理由

・起源が同じ

 トランスユーラシア語族には日本語、韓国語以外にモンゴル語やトルコ語などが含まれる。

 トランスユーラシア語族とは、9000年ほど前に中国の東北部でキビを栽培していた農耕民族が起源だという。その後、徐々にユーラシア大陸の西へ、東へと拡散したようだ。

【参考】九州大学「トランスユーラシア言語は農耕と共に新石器時代に拡散した」

・重要なものは全て朝鮮半島から渡来人によってもたらされた

 近年、日本人起源論として三重構造説が定説になりつつある。これは、縄文人・弥生人・古墳人のゲノムの解析によって生まれた新たな説だ。

【参考】法政大学国際文化学部鈴木靖研究室「日本人の起源に関する三重構造説」

 トランスユーラシア語族の存在が確認されたこと、そこに三重構造説を照合すれば、日本人の起源について次のような解釈が可能になる。

 数万年前、まだ日本が大陸と陸続きだったころ(一説では3~4万年前)、縄文人がやってきて住み始める。2万~1万5,000年前、日本列島は海によって大陸と隔てられ、縄文人はその後1万年以上にわたって独自の発展を遂げる。

 約3000年前に朝鮮半島から渡来したトランスユーラシア語族の一派が、縄文人と混血して弥生人を形成。更に弥生~古墳~飛鳥時代に東アジアからやってきた渡来人が混血して、現代日本人が形成された。

 これによると農耕文化、金属器は約3000年前にトランスユーラシア語族の一派によって玄界灘を超えて日本列島に持ち込まれたことになる。そして漢字、儒教、仏教、律令法など国家形成に必要な事物のほとんどが、5世紀以降朝鮮半島を経て渡来人によって持ち込まれた。

 6-7世紀は、日本という国が形作られる重要な時期だ。ちょうどこのころ中国との外交関係が途絶えていたという(田中史生、早稲田大学)。

 日本は百済、高句麗、新羅との積極交流によって国の体裁を整えていったということになる。また7世紀、百済、高句麗両国滅亡後、多数の亡命者が日本政府に官僚・文化人・技術者として採用された。

 このように日本人、日本語、日本国家の形成において、朝鮮半島からの渡来人が非常に重要な役割を担っている。

・漢字・儒教文化圏

 近代にいたるまで、漢字と漢文は東アジアにおける公用語の役割を果たしていた。韓国では15世紀にハングルが発明されたのちも正式文書は全て漢文、20世紀後期まで新聞、雑誌、書籍に多くの漢字が使われた。

 文書から漢字が消えてハングルに統一されたのは、2000年以降のことだという。

 日本、韓国、ベトナムなど中国文明の周辺諸国では、中国から多くの先進文化が伝わり、漢字語と共に定着した。

 韓国と日本で共通に使われる漢字語は、政治、宗教、経済、芸術、文化の核として長期にわたって使われた言葉だ。

 漢字音(日本語の音読み)は、もともとは中国語で発音した漢字が、朝鮮・日本・ベトナムなどに伝わった後、それぞれの言語風に変化して定着したものである。だから、中国語・朝鮮語・日本語・ベトナム語での漢字の音は、同じであったり、似ていたりする。共通語が多い点を活かせば、韓国語の語彙力は効率良く伸ばすことができる。

・新しい言葉にも共通の単語が多い理由

 近代以降に生まれた新しい事物の中にも共通語が多い。それは、近代~現代まで、日本で作った和製漢語が韓国や中国に取り入れられたからだ。取り入れられた時期を3つに分けて順に説明したい。

1、近代期(1868年~1909年)
 明治維新の後、日本は西洋から入ってきた新しい概念のほぼ全てを、中国語の漢字を借りて翻訳した。そしてこれを標準日本語に取り込み、言語の近代化を果たした。

例:
市民->「시민(シミン)」、権利->「권리(グォンリ)」、人民->「인민(インミン)」、共和国->「공화국(コンワグック)」

 これらは明治期に日本で作られた和製漢語で、韓国や中国にも取り入れられ両国の近代化を助けた。

 韓国や中国に伝わった和製漢語は数百にも及び、自然・人文科学に関する重要な単語の多くを占める。中国の言語学者・劉正埮は、中国が日本から借用した単語892語をリストアップしている(近代日中語彙交流史)。

 現在でも日本人にとって中国語の学術論文は小説よりもむしろ読みやすい。学術用語の多くが和製漢語であることと無縁ではないと思われる。

【参考】19世紀末の韓国語における日本製漢語 : 日韓同形漢語の視点から

2.植民地時代の日本語使用強制(1910年~1945年)

 1910年から終戦までの35年間、日本は韓国を植民地として支配した。日本から移住者が大量に韓国へ渡り、食・体育・衛生・娯楽など生活全般にわたる日本語が韓国で使われ始めた。

 この間、徹底的な日本語教育がなされ、1938年の「第3次朝鮮教育令」以降は学校での韓国語の教育や使用が禁じられ、一般民衆も日本語の使用を強制された。こうした状況下で日本語は韓国社会のすみずみに浸透していった。

【参考】近現代の中国語、韓国・朝鮮語における日本語の影響―日本の漢字語の移入を中心に金光林

3.戦後(1945年~現在)

 植民地支配が終了すると、韓国は国語醇化運動を展開し、日本語の排除を試みた。しかし鄭大均(1993)によると、日本語で書かれた文学全集、法律、教科書などが、そのまま韓国語に翻訳される方法で大量の日本語が入り続けたという。

 また1980年代から日本の漫画・アニメ・小説・映画・ドラマが韓国の若者に影響を与え、多くの日本語が韓国に移入している。例として、過労死->「과로사(カロサ)」、半導体->「반도체(パンドジェ)」、団地->「단지(タンジ)」、援助交際->「원조교제(ワンジョキョジェ)」、三角関係->「삼각관계(サムガクガンゲ)」などが挙げられる。

【参考】韓国の『国語醇化資料集』における日本語語彙 ―生活用語を中心に―

 日本書紀には、朝鮮半島からの渡来人が文化の伝道者として数多く登場している。例えば、大化の改新から2年後の647年の条には、朝鮮半島の新羅から訪れた金春秋(後の新羅の武烈王、在位:654 - 661年)に関するこんな記載がある。

「春秋美姿顏善談笑(春秋はスタイル抜群でイケメン、素敵な笑顔でトークも面白い!)」

 古代の韓流イケメンスター金春秋がヤマト朝廷の貴族たちを魅了した様子が伝わってくる。

 日本書紀のこの時期の記載からはまた、当時の日本と韓国の言語・文化・交流の近さが感じられる。古墳時代の宮廷は渡来人がもたらす文化や芸術が話題の中心だったのかもしれないし、日本語と韓国語が今よりもっと似ていた可能性もある。

 日本語と韓国語は起源を一にする。そして、長期にわたって中国の漢字を媒体に相互に語句を借用してきた関係だ。次回はこういった点を活かして、韓国語を効率良く学ぶ方法を解説したい。(記事:薄井由・記事一覧を見る

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