ファンペップ Research Memo(6):乾癬治療薬「FPP003」は、ほかの臨床試験結果を基に開発方針を決定

2024年9月19日 14:06

*14:06JST ファンペップ Research Memo(6):乾癬治療薬「FPP003」は、ほかの臨床試験結果を基に開発方針を決定
■ファンペップ<a href="https://web.fisco.jp/platform/companies/0488100?fm=mj" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><4881></a>の主要開発パイプラインの動向

3. FPP003(乾癬、強直性脊椎炎)
「FPP003」は、大阪大学大学院医学系研究科及び住友ファーマとの共同研究により同社が創製した開発化合物で、IL-17Aを標的タンパク質とする抗体誘導ペプチドとなる。IL-17Aは免疫反応に関するサイトカインの1つであり、幅広い免疫性疾患に関与しており、主なところでは乾癬や強直性脊椎炎、乾癬性関節炎などの疾患原因となっている。

乾癬を適応症とした第1/2a相臨床試験の結果を2023年12月に発表しており、安全性及び忍容性に問題がなく、抗体の産生も確認されるなど主要評価項目は達成したが、探索的評価項目(有効性)については一定の改善傾向が確認されたものの、症例数が少なかったこともあって有効性を明確に判断するまでには至らず、そのほかの臨床試験結果も踏まえて引き続き評価する方針を決定した。

(1) 乾癬
乾癬とは慢性の炎症性皮膚疾患のことで、その多くは尋常性乾癬と呼ばれる疾患となる。表皮細胞が異常増殖し、紅斑が現れて表面に鱗屑が付着して剥がれ落ちるなどの症状が出る。患者数は国内で約43万人、米国で約800万人と言われている。治療法としては、軽症から中等症患者に対しては塗り薬などの局所療法が行われ、中等症から重症患者に対しては光線療法(紫外線照射)や内服療法(メトトレキサート、経口低分子医薬品など)が、これらの治療法が効かない患者には、抗体医薬品が使用されている。

「FPP003」は、抗体誘導ペプチドの特性から長期間にわたり治療効果が持続するものと考えられており、内服療法や抗体医薬品の患者層をターゲットとして「有効性」「安全性」「投与回数」により優位性を示すことで上市を目指している。作用メカニズムは抗体医薬品と同様のため、体内で十分な活性を持つ抗体を産生できれば上市する可能性が高まる。特に、第1/2a相臨床試験では抗体価の持続性が確認されており、「投与回数」を減らすという点においてもポジティブに評価される※。価格面では抗体医薬品に対して優位性があるだけに、「有効性」において抗体医薬品と同等レベルであることが確認されれば代替医薬品として市場に浸透する可能性が高いと弊社では考えている。抗IL-17A抗体医薬品としては「コセンティクス(R)」「トルツ(R)」などが販売されているほか、乾癬治療用抗体医薬品としては、抗TNFα抗体医薬品の「ヒュミラ(R)」や「レミケード(R)」なども使用されている。

※ 抗体医薬品は薬剤にもよるがおおむね2〜4週間の間隔で投与する必要がある。

(2) 強直性脊椎炎
強直性脊椎炎とは、青年期に発症する脊椎と仙腸関節を主な病変部位とする全身性の慢性炎症性疾患を指す。病変部位では靭帯と骨との付着部位に炎症・骨化が起こり、疼痛・膨張・運動制限などが見られる。症状が進むにつれて、次第に脊椎や関節の動きが悪くなり、脊椎が強直(骨性に固まり動かなくなる)して日常生活能力が著しく低下するケースもある。原因は不明で根治療薬はなく、国の指定難病となっている。治療法としては、非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)が使用されているが、効果が不十分な場合や副作用の問題がある場合には「コセンティクス(R)」や「ヒュミラ(R)」などの抗体医薬品が使用されている。

大阪大学大学院医学系研究科らの研究グループによる医師主導の第1相臨床試験において、安全性に加えて抗体価の上昇や持続性(最終投与後12週目まで持続)が確認されたことから、2023年8月より医師主導の第2a相臨床試験を(公財)日本生命済生会日本生命病院にて実施している。非盲検非対照試験となり被験者対象は、治験前に抗IL-17A抗体薬を継続して使用しており、かつ寛解※1状態にある体軸性脊椎関節炎※2の患者となる。寛解状態の患者を対象としているのは、「FPP003」を投与することで寛解状態を維持できれば、高価な抗体医薬品の使用を避けられ患者や医療財政の負担が軽減されるメリットが生じるためだ。今回の臨床試験では症例数6例を予定し、安全性及び免疫原性を評価するほか、探索的に有効性評価についても行う。非盲検非対照試験で治験薬15mgを治療開始時、4週時、8週時及び治療期終了時(20週時)の合計4回投与する。試験期間については2025年3月頃の終了を目途としている。なお、費用は(国研)日本医療研究開発機構(以下、AMED)の助成金で賄われており、同社の会計上では研究開発費と営業外の補助金収入として計上している。

※1 寛解とは、病気の症状が一時的に軽くなったり、消えたりしている状態を言う。
※2 体軸性脊椎関節炎とは、何らかの原因で免疫の働きに異常が生じて、背骨や骨盤などの体軸関節やその付着部(筋肉と骨が付着する部位)などに炎症が生じる疾患群の総称。強直性脊椎炎とX線基準を充たさない体軸性脊椎関節炎(X線検査で仙腸関節に大きな変化が認められないもの)がある。国内患者数は2018年の調査で強直性脊椎炎が3,800人、X線基準を充たさない体軸性脊椎関節炎で880人と推計される。

(3) 市場規模
乾癬や強直性脊椎炎などの治療薬となる抗IL-17A抗体医薬品の市場規模は、2020年の5,810百万米ドルから2025年には9,942百万米ドルに成長することが見込まれる。主な抗IL-17A抗体医薬品である「コセンティクス(R)」「トルツ(R)」の2023年販売実績は合計で7,739百万米ドル、日本円で1兆円を超えており、「FPP003」の開発に成功すればこれらの膨大な市場を獲得できる可能性があり、今後の動向が注目される。なお、「FPP003」については2016年の開発当初から住友ファーマと共同研究を進めてきた経緯から、マイルストーンの総額は低く設定されているもようだが、販売ロイヤリティの料率は一般的な水準と見られる。


抗体誘導ペプチドの新規パイプライン有力候補は片頭痛、脂質異常症

4. そのほかの研究テーマ
そのほかにも同社では抗体誘導ペプチドに関してアカデミアとの共同研究も幅広く進めている。直近では2023年11月に大阪大学大学院医学系研究科とアルツハイマー病(標的:リン酸化タウ蛋白質)を対象とする共同研究を開始した。また2024年2月には心不全(標的:IGFBP7)を対象とする研究を開始した。これは、AMEDの支援により行われた東京大学大学院医学系研究科先端循環器医科学講座小室一成特任教授による令和5年度ゲノム研究を、研究開発プログラムの研究開発課題「心不全シングルセルゲノミクス創薬」につなげるもので、同社は独自の抗体誘導ペプチド技術を用いた医薬品開発の知見に基づき、心不全ワクチンの研究開発分担者として参加する。研究期間は2026年3月までとしている。

同社はこれら研究テーマのなかから1品目について新規開発化合物を決定し、前臨床試験の開始を目指している。有力候補としては、片頭痛または脂質異常症が挙げられる。脂質異常症については、2022年4月より熊本大学と共同研究を開始したもので、抗ANGPTL3抗体誘導ペプチドの開発において有望な開発化合物の絞り込みが進んでいるようだ。血中LDLコレステロールに加えて中性脂肪も低下させる作用を持つANGPTL3阻害薬※が、2021年に欧米で家族性高コレステロール血症を適応症とした製造販売承認を取得しており、同社は抗体誘導ペプチドで抗体医薬品を超える適応症の取得を目指す。

※ Regeneron Pharmaceuticals,Incの抗体医薬品「Evkeeza(R)」が承認された。2023年の米国での売上高は77百万米ドル。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)《HN》

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