「贈り物の馬の口の中を見るな」? 物をもらった時の礼儀を説く英語イディオム

2024年9月4日 09:44

 今回も家畜にまつわる英語のイディオムを紹介する。ここしばらく牛、豚、鶏と続いてきたが、今回は久々に馬にまつわるフレーズだ。現代では馬とはまったく関係のない文脈で用いられるイディオムだが、その由来をたどると、なぜそのような意味を持つようになったか理解できるだろう。

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■Look a Gift Horse in the Mouth

 「look a gift horse in the mouth」を直訳すると、「贈り物の馬の口の中を見る」とでもなるだろう。

 実際は、「Don't look a gift horse in the mouth」のように否定の文脈で用いられることが多く、提供されたものの価値を疑って、それを批判的に評価しようとする行為を批判する表現として用いられる。簡単に言うと、「もらったものにケチをつけるな」ということだ。

 このイディオムの起源は、古代の慣習にさかのぼる。古代から中世の、馬が高価な財産だった時代、貴族や富裕層の間では馬が贈り物としてよく用いられていた。

 馬は移動手段としてだけでなく、農業や軍事など多岐にわたる役割を担う存在であったため、馬を贈ることは非常に寛大な行為と見なされていた。従って、もらった馬の口の中を見る行為は、その贈り主に対して非常に失礼な行為とされていたのだ。

 というのも、馬の口の中を見れば、その年齢や健康状態が判断できるからだ。若い馬の歯は鋭く整っているのに対して、老いた馬の歯は摩耗していることが多い。

 つまり、馬の歯はその価値を判断するうえで重要な指標なのだ。だから馬の売買の際には、買い手は馬の口の中を確認して、若くて丈夫な馬かどうかその価値を判断するのが一般的だった。

 このような背景から、「look a gift horse in the mouth」というフレーズが、「もらったものにケチをつける」というイディオムとして定着したのである。

■直接目的語を取る「look」の用法

 ところで、「look a gift horse in the mouth」というフレーズを見たとき、違和感を覚える人もいるのではないだろうか。通常、動詞「look」は、目的語とともに用いる際には「at」などの前置詞が必要である。

 一般的な「look」の用法に従って「馬の口の中を見る」と表現する場合、「look into the mouth of a horse」といった形の方が適切に感じられるだろう。

 ところが、イディオムや慣用句などの古い表現においては、「look」が前置詞なしで直接目的語を取るパターンも存在する。たとえば、「look me in the eye(私の目を見て)」という言い方は歌詞などによく見られるし、「見て見ぬふりをする」という意味の「look the other way」というイディオムもある。

 「look into the mouth of a horse」もそういった形の一つで、「look」が「a gift horse」を直接の目的語として取り、「in the mouth」がどこを見るかを具体的に示している。通常の文法規則から考えると不自然に感じられるかもしれないが、時間とともに定着した歴史的用法、慣用的な固定表現と捉えるとよいだろう。

 例文
 ・Even if the sweater is a bit big, I won't look a gift horse in the mouth since it's a gift.
 (セーターが少し大きくても、贈り物だから文句は言わないよ)(記事:ムロタニハヤト・記事一覧を見る

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