ラクトJPN Research Memo(9):乳製品専門商社から複合型食品企業への進化を目指す(2)

2024年8月20日 15:57

*15:57JST ラクトJPN Research Memo(9):乳製品専門商社から複合型食品企業への進化を目指す(2)
■ラクト・ジャパン<a href="https://web.fisco.jp/platform/companies/0313900?fm=mj" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><3139></a>の中長期の成長戦略

2. 中期経営計画「NEXT-LJ 2025」の進捗状況
(1) 基本方針と主要施策
2023年11月期~2025年11月期の3ヶ年は、長期ビジョン達成のためのファーストステップとして成長に向けた基盤固めに注力する計画である。事業成長に向けて「Base 既存ビジネスの『進化』」「Growth アジア事業の拡大」「Challenge 次世代ビジネスの構築」の3つの基本方針と、各基本方針において事業成長を実現する施策とそれを支える経営基盤の強化策を掲げた。

既存ビジネスの「進化」においては、「サプライソースの多様化による安定供給」「ベストマッチングを生み出すコンサルティング営業」「日本産食材の輸出」によって事業成長を実現する方針だ。ポイントとなる重点施策は「サプライソースの多様化」だ。気候変動による世界各地域での酪農・畜産品の生産量の変動やウイルス、地政学的な供給リスクを避けるために、乳原料・チーズ部門はもちろんのこと、食肉食材部門においてもグローバルな調達ネットワークをさらに拡充し安定供給を図る。日本産食材の輸出については、国産脱脂粉乳の輸出の実績をベースに乳製品や健康食品などの輸出を検討中だ。

アジア事業の拡大については、「チーズ製造販売事業の拡大」「現地営業体制の強化、販売エリアの拡充」「宗教や多様な食文化に対応した高付加価値製品の開発」によって事業成長を実現する方針だ。ポイントとなる重点施策はアジアでの「チーズ製造販売事業の拡大」だ。2026年度に稼働予定のシンガポール新工場は、工場・設備の増設余地を残す予定であり、シンガポール新工場を起点として、将来はアジアの3工場の合計で現在の3倍近い15千トンの製造販売を目指す。現時点では、現地での許認可の遅れから工場稼働時期は少し遅れる見通しだ。新工場完成までは、現工場だけに負荷がかからないように、タイ工場の機能強化・生産性向上を図り、両工場のバランスをとりながら需要が拡大するアジアでの供給体制を維持することが課題だ。需要が高まっているシュレッドチーズなどのナチュラルチーズ加工品の販売も拡大する。プロセスチーズは原料となるナチュラルチーズに熱を加えて加工製造するため、プロセスチーズ製造ラインとナチュラルチーズ加工ラインが併設されている強みを生かせる。また、宗教上の問題をクリアし、多様なユーザーニーズに対応するためにビーガンチーズなどの高付加価値商品や小売向け商品など新商品を開発・製造していく計画だ。

次世代ビジネスの構築については、「機能性食品をはじめとした新たな商材の開発」「製造・加工の川下分野の拡充」「酪農などの川上分野への関与」によって事業成長を実現する方針である。ポイントとなる重点施策は「機能性食品をはじめとした新たな商材の開発」だ。機能性食品原料事業は、スポーツニュートリションや健康志向の機能性食品として消費が拡大するプロテイン食品市場において、原料となるホエイプロテインの販売をさらに拡大していく計画である。商材の開発に当たっては、ホエイプロテインと様々な機能を持つ食品原料との組み合わせを提案して差別化を図る戦略だ。事業展開に当たっては、主にECサイトで販売するブランドオーナーやスポーツジムに対して、OEM生産を行う協力企業と提携・協業して製品を企画・開発・提案していくビジネスモデルを既に構築している。今後は、市場に参入してくる一般の食品メーカーとも提携・協業して事業領域を拡大していく方針だ。アジアにおいても、日本の機能性食品は注目されており、今後はアジア向けの輸出など、三国間貿易も視野に入れている。酪農などの川上分野への関与については、海外のサプライヤーと連携した飼料原料の開発・製造や、日本とアジアの酪農家の人的交流などにより持続可能な酪農・畜産業への貢献を果たしていく方針である。

これら3つの基本方針の下、事業成長を実現するために、事業提携などM&Aを活用することも視野に入れ、幅広く施策を検討している。また、経営基盤強化に向けては、サステナビリティへの取り組みも強化している。サステナビリティ活動を担うサステナビリティ推進タスクチームを全社横断的なメンバーに再編成し、6つのマテリアリティの推進進捗管理を進めている。また、気候変動への適応及び環境負荷の軽減への取り組みとしてTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に基づく気候変動関連の情報、Scope1,2,3排出量の算定、削減目標の設定を進め、継続的に公表していく。そのほか、人材開発の強化、ガバナンスの高度化、情報システムの整備を進める方針で、既に新人事制度の本格運用と本社の基幹システムの刷新準備が進捗している。

(2) 数値目標
中期経営計画は、2025年11月期で連結売上高200,000百万円、連結経常利益4,000百万円、親会社株主に帰属する当期純利益2,900百万円を目指し、同時にROEは10%以上、配当性向は20~25%、連結自己資本比率は30~35%を目指す。売上高は2023年11月期で160,000百万円、2024年11月期で180,000百万円を計画していたが、2023年11月期の実績は158,328百万円と計画をわずかに下回り、2024年11月期も予想は164,000百万円と計画を下回る。経常利益は、2023年11月期で3,200百万円、2024年11月期で3,600百万円を計画し、2023年11月期の実績は2,847百万円と計画を下回ったが、2024年11月期の予想は4,100百万円と計画を上回り、中期経営計画の目標とする4,000百万円を1期前倒しで達成する見通しだ。

中期経営計画の前提としている事業環境として、国内の輸入乳原料・チーズ、食肉への堅調な需要、高齢化の進行や健康意識の高まり、アジアの経済成長と食の欧米化といったメガトレンドは変わらないとの想定だ。しかし、飼料価格高騰などによる乳価の引き上げ、乳製品全般の値上げによる消費減退、国産脱脂粉乳の過剰在庫対策事業の延長による輸入粉乳調製品の販売減少、アジアにおける日本向け粉乳調製品原料の販売減少、中国経済の低迷の影響を受けたアジアでの乳原料の需要減少など、事業環境のマイナス要素は避けられないと考えている。同社は、現時点で事業環境認識を変えていないが、2024年11月期下期に見込んでいた国内事業の回復は上期から前倒しで進行している。ただし、為替や国内の生乳生産の動向、中国・アジアの経済動向など見通せないところも多く、現時点で中期経営計画の見直しを行う予定はなく、次期中期経営計画という新たなステージを見据えながら2025年11月期の事業戦略を策定していく。

また、経営面では、トップラインの拡大のみならず、企業価値向上に向けて収益性の改善とともに資本効率を意識した企業体質の強化を図っている。そのため、財務目標として収益性(ROE)、株主還元(配当性向)、財務安全性(連結自己資本比率)の3つの目標を掲げ、2025年11月期においてROE10%以上、配当性向20〜25%、連結自己資本比率30〜35%を目指している。現在、社内では事業部門ごとにROIC※の導入を試行しており、2025年11月期より本格導入する予定だ。併せて人事制度も刷新する予定であり、従業員の評価基準にROICを加え、資本効率に対する従業員の意識改革に取り組む。

※Return On Capitalの略。ロイックと呼ばれ、投下資本に対する利益率を表す。「税引き後の営業利益÷(自己資本+有利子負債)=売上高営業利益率×投下資本回転率」で計算する。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 松本章弘)《HN》

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