【書評】『嗤う習近平の白い牙』(遠藤誉、ビジネス社)
2024年7月4日 18:51
*18:51JST 【書評】『嗤う習近平の白い牙』(遠藤誉、ビジネス社)
本書『嗤う習近平の白い牙』は、著者が中国の国家主席である習近平の戦略的思考を掘り下げ、世界情勢に与える影響を詳細に分析した一冊である。習近平の哲理「兵不血刃」(刃に血塗らずして勝つ)を軸に、中国の地政学的な動きを読み解くことができる。
まず、本書の序章では、習近平が中東での影響力を如何に拡大しているかが描かれている。フーシ派が中国とロシアの船舶を攻撃しないと宣言し、その背景には中国の和平仲介があるとする論説は、新たな視点を提供している。バイデン政権が中国に頼る姿勢が描かれ、これが中国の戦略的優位性を浮き彫りにしている。
次に、TikTokと米大統領選についての章では、トランプとバイデンの対応の違いが詳細に分析され、習近平がどのようにして中国の利益を守りつつ、アメリカの内政に影響を及ぼしているかが明示される。特に、TikTokを巡る論争を通じて、中国の情報戦略の巧妙さが浮かび上がる。
台湾に関する章では、台湾の志向とアメリカの影響力についての詳細な分析がなされています。台湾のエネルギー依存を利用した包囲作戦の可能性や、バイデン政権が台湾の独立を煽ることによるリスクが描かれ、読者に深い洞察を提供している。
さらに、ウクライナ戦争とガザ紛争に関する章では、中国が如何にして戦争の混乱を利用し、自国の利益を最大化しているかが詳述されている。特に、安価なロシア産原油を大量に輸入しつつ、経済支援を通じてロシアとの関係を強化している姿が印象的だ。
最後に、中国経済のパラダイム・チェンジについての章では、習近平がどのようにして中国の経済構造を改革し、未来を見据えているかが描かれる。新エネルギー車やリチウムイオン電池といった新産業へのシフトや、痛みを伴う構造改革が中国経済に与える影響が具体的に示されている。
総じて、本書は習近平の戦略的思考とその実践を詳細に解明し、世界情勢に与える影響を包括的に理解するための貴重な資料となっている。著者の鋭い分析と独自の視点が光る一冊であり、中国の未来を見据える上で必読の書であると言えよう。習近平が光らせる「白い牙」が、世界のどこに向けられるのか、その行方を知るための優れた指針となるだろう。
■著者
遠藤誉(えんどう・ほまれ)
中国問題グローバル研究所所長
1941年中国吉林省長春市生まれ。国共内戦を決した「長春食糧封鎖」を経験し、1953年に日本帰国。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。Yahoo!ニュース エキスパートにてオーサーとして執筆中。
著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」台湾有事を創り出すのはCIAだ!』『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』『ネット大国中国――言論をめぐる攻防』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(白井一成との共著)『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』など多数。《NH》