筑波精工 Research Memo(3):「ステージ」「Supporter」「自動機」の3製品を製造

2024年7月4日 14:33

*14:33JST 筑波精工 Research Memo(3):「ステージ」「Supporter」「自動機」の3製品を製造
■筑波精工<a href="https://web.fisco.jp/platform/companies/0659600?fm=mj" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><6596></a>の事業概要

1. 主要事業
(1) 静電チャックとは
静電チャックとは、特定の素材基板(保持材)表面に電界を発生させることで、対象物(ガラスやシリコンウエハなど)を吸着保持する“治具(保持具)”のことである。対象物が非常に軽い・薄い素材の場合には割れやすく、あるいは反ってしまうことが多いため、長時間にわたって移動を繰り返すことは容易ではない。対象物が各種の製造プロセスを移動するような場合(例えばシリコンウエハなど)には、対象物を頑丈な治具に吸着保持させることで反りや割れといった損傷を防ぐことができる。

(2) 特色と強み
静電チャックの技術そのものは古くから存在し、様々な分野で使われているが、同社の静電チャックは以下のような特色がある。

1) 対象物が多様
同社の静電チャックの第一の特色は、対象物表面に電界を集中させることで、低電圧で高吸着力を発生させることにある。そのため、既存の静電チャックでは取り扱えなかったガラス・紙などの絶縁体の素材や極薄ウエハ等の半導体分野でも利用することができる。

2) 吸着力が強い
電界の表面集中とイオン分極の最適化により、吸着が均一で吸着力が相対的に強い。

3) 給電ユニットなしで吸着力を維持
一般的な静電チャックが給電ユニットを常時接続して吸着力を維持するのに対して、同社の静電チャックは給電ユニットを外しても吸着力を維持できる点が特色である。また、回路形成後のシリコンウエハだけでなく、将来的にはパワー半導体等向けとして有望視されるガリウムひ素、チッ化ガリウム、セラミック等にも応用可能になると見られる。なお、同社製品の中で、給電ユニットなしでも吸着維持ができる製品は「Supporter」である。

2. 製品別概要
従来は、主たる製品である「Supporter」及び「ステージ(ディスプレー向け)」とそれ以外の「その他(ディスプレー向け以外のステージ類似製品)」を製品別の区分としていたが、2024年3月期より給電ユニットから分離しても単体で稼働する静電チャックシステムの売り上げを「Supporter」、給電ユニットに常時接続して稼働する静電チャックシステムの売り上げを「ステージ」としている。また、今後、自動機ユニットの販売の重要性が増すことが予想されることから、「自動機」の分類を新たに設けた。

(1) 「ステージ」
給電ユニットが付属している静電チャックを、“システム”として販売している。対象物の吸着/分離をコントロールでき、薄いガラス板、スマートフォンのディスプレー用フイルム、大型ディスプレーのODF(液晶滴下方式工法)向けとなっている。顧客は、スマートフォンを生産するメーカーに部品を納入しているメーカーや、大画面(2m×2mなど)の液晶ディスプレーを扱うメーカーなどである。

(2) 「Supporter」
主力製品である“静電チャック”の一種で、ガラスの両面に特殊な素材を挟みこみ一体形成したものである。同社既存の静電チャックが持つ特色に加え、給電ユニットから分離しても吸着力を維持する特色を備えている。給電ユニットを用いて一度電界をかけると保持力は半永久的に維持され、もう一度給電ユニットを用いて電界を解除すれば、いつでも「Supporter」と対象物を分離することができる。このように「Supporter」は、従来の静電チャックにはなかった特色を有しており、“常識を打ち破った製品”と言える。「Supporter」は、半導体の製造プロセスでウエハの把持、運搬などに利用される。既存の製造ラインの大幅な修正をすることなく、50μ厚(μ=1,000分の1mm)などの薄型ウエハの製造プロセスで発生するウエハの反りや微細なクラックによる不良品の発生を防止し、製造ラインの自動化率と製品の歩留率を向上させる。同製品の売上高は、主に「Supporter」の販売枚数×価格(非開示)である。

「Supporter」の特長を要約すると次のようになる。
・0.5mm厚と薄いため、半導体ラインにそのまま投入することが可能
・ウエハ吸着後も外部給電を必要としない
・給電ユニットから分離しても吸着力は半永久的に持続
・薄型ウエハの加工を可能とするほか、クラック等の発生を防止して歩留まりの向上を実現

(3) 「自動機」
上述のように、「Supporter」に電界をかけて半導体製造ラインに自動投入するための機器。2023年3月期までは、試験用の半自動機であったが、2024年3月期に初めて量産ライン用の自動機を販売したため、新たな分類を設けた。

3. 半導体業界の動向
(1) 半導体製造プロセス
一般的にメーカーが半導体(ICチップ)を製造するプロセスは、まずシリコンインゴットを薄く切りウエハを作成する。この時点でウエハの厚さは約700μあるが、この表面に真空蒸着、エッチング、アニーリング、スパッタリング、イオン注入などの方法で回路を形成する。パワー半導体に特徴的なプロセスとして、この後回路側の面に保護用のテープを貼付した後、裏面を研磨して100~150μまで薄くする。この薄化後にさらに裏面へのイオン注入やアニールなどの工程が必要となる。これらの工程を何度も繰り返してようやく1枚のウエハの回路作成が完了する。したがって回路作成には、通常は6~10日ほどかかるが、複雑な回路では1ヶ月近くかかる場合もある。

この間、ウエハは真空状態や高温のプロセスなどを何度も繰り返し移動するが、裏面研磨後のウエハは非常に薄く、回路形成によるストレス蓄積等のため反りや割れといった損壊が発生しやすい。そのため回路生成プロセスにおいては、ウエハの表面(表面の回路が形成された面)に保持材を貼り補強してから裏面の回路形成プロセス間を移動させる。そして最後に回路裏面の回路形成が終了した後に、この保持材を分離する。従来は、この裏面保持の方法として保持材を接着剤で貼り付けて補強することが一般的であった。しかし、今後自動車分野でのパワー半導体(IGBT等)の需要が高まるとウエハはさらなる薄型化と大口径化が進むことが予想され、接着剤方式では薄型化(100μ以下)と大口径化(12インチ)への対応が難しいと業界では見られている。

(2) 自動車向け半導体
近年自動車のEV化が急速に進んでいる。この自動車のEV化にとって重要な要素の1つが半導体の供給である。特に動力(パワー)部分では、バッテリーから出た電気(DC=直流)をモーターで使用する交流(AC)に高速で変えるインバータが必須の部品となる。インバータ用の半導体(IGBT)では、径を大きくすることで1枚のウエハからより多くの半導体を作成できるため生産効率が上がり、1個当たりのコストを下げることが可能となる。しかし大容量(高アンペア)かつ高電圧(高ボルト)で表面と裏面の間でスイッチングを高速で繰り返すため、ウエハが厚い状態では発熱量※が増える。したがって、発熱の原因となるオン抵抗値をできる限り小さくするためウエハを薄型化する必要がある。半導体メーカーは、発熱量の点から半導体をできるだけ薄いウエハで生産し、かつ生産効率の点から大口径のウエハでの生産を目指している。

※インバータに使われるIGBTやMOSFETが発熱すると、EVのエネルギー効率が低下する。


(3) 半導体の薄型化と静電チャック
IGBTの生産プロセスでは、ウエハの薄型化がさらに進むという見方もある。さらに、多くのメーカーが生産効率の点から12インチ(300mm)ウエハへ移行する可能性が高い。その結果、ウエハはより薄く大きくなるため、反りや割れといった損壊のリスクが一段と高まる。それを避けるために保持材の貼付は必須だが、従来の接着剤方式ではプロセスの中で溶剤がガス化して半導体を汚染するリスクがある。また、保持剤を取り外す際にウエハが破損するリスクが高まるなど難点が多いと言われている。

そこで注目されているのが、同社が提供する静電チャック(方式)である。前述のとおり、同社の製品は一度電界をかけると半永久的に吸着保持を維持し、真空・高温などの環境下でも保持力は落ちない。薄型化・大口径化されたウエハに対して最適な製品と言える。

4. 主な顧客と需要
同社の主力製品である「Supporter」の主要顧客は半導体のデバイスメーカーである。需要は、生産される半導体の数(ウエハの枚数)に比例する。「Supporter」は1枚のウエハが一通りのプロセスを終了した後、ウエハから外し洗浄してから繰り返し利用することができる。したがって、仮に一通りのプロセスを終了するのに6日かかるとすると、1枚のSupporterは月に5回利用できるため、ウエハの生産能力の5分の1の枚数が必要になる(例:ウエハ生産能力が5万枚/月であれば、1万枚のSupporterが必要)。なお、「Supporter」の絶対寿命は約2年間である。

同社の主要顧客については開示されていないが、同社によるとIGBTの表面パターン(回路生成)に関連した特許は米国と日本に多く、この分野では中国が遅れている。そのため中国は表面プロセスではなく、薄型化の分野(裏面プロセス)へ積極的に投資を行っており、同社の主要顧客も中国や台湾メーカーが多いようだ。参考として、同社公開資料「中間発行者情報」に記載された2024年3月期第2四半期の販売先別実績の上位は、WISE WELL TECHNOLOGY CO., LTD.(台湾)、売上高92百万円(売上高比率63.0%)となっている。

5. 同社生産能力と特許政策及び競合
同社製品の生産については、一部を内製し、その他の部分を数ヶ所に分けて外注する「ファブライト」方式を採用している。このため外注先は最終的にどのような製品になるかはわからない。また需要が急増した場合でも、大型の生産設備を必要とする製品ではないため、同社は「生産が間に合わない事態にはならない」と説明している。

特許についても、外注の分散と同様に秘匿性を高める策を講じている。同社は数多くの特許を保有しているが、すべての技術・ノウハウを特許申請しているわけではない。申請をしていない技術の詳細は不明であり、競合会社が同社の技術を盗用して類似製品を製造することは難しい。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)《SO》

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