冨士ダイスはモミ合い煮詰まり感、25年3月期収益回復基調

2024年4月22日 09:18

 冨士ダイス<6167>(東証プライム)は超硬合金製耐摩耗工具(工具・金型)のトップメーカーである。筋肉質な企業体質への転換と中長期の成長基盤を構築するため、生産性向上・業務効率化、次世代自動車への対応・拡販、新成長エンジンの創出、海外事業の強化などの取り組みを推進している。24年4月にはマレーシアの現地子会社がカバーエリアを拡大した。24年3月期は減益予想としている。生産性向上や価格改定等に一定の成果があるものの、自動車部品関連金型などの需要回復が遅れる見込みだ。ただし25年3月期は積極的な事業展開で収益回復基調だろう。株価は小幅レンジでモミ合う形だが煮詰まり感を強めている。高配当利回りや1倍割れの低PBRなども評価材料であり、モミ合いから上放れの展開を期待したい。

■超硬合金製耐摩耗工具(工具・金型)のトップメーカー

 超硬合金製耐摩耗工具(工具・金型)のトップメーカーである。23年3月期末時点で、グループは同社および子会社7社(国内2社、海外5社)で構成され、海外はタイ、中国・上海、インドネシア、インド、マレーシアに展開している。なおインドについては、現地の経済環境などを鑑みて16年8月から事業を休眠しているが、今後は市場調査を行い、事業再開を予定している。24年3月には、中国の現地子会社である富士摸具貿易(上海)有限公司が広東省・東莞市に新たな営業拠点を開設し、営業を開始した。また24年4月にはマレーシアの現地子会社であるフジロイ・マレーシアが、営業活動の中心を従来のペナン事務所から首都クアラルンプール事務所へ移し、カバーエリアを拡大した。

 生産拠点は、国内が郡山製造所・郡山第2工場(福島県郡山市)、秦野工場・秦野第2工場(神奈川県秦野市)、名古屋工場(愛知県名古屋市)、岡山製造所(岡山県倉敷市)、熊本製造所(熊本県玉名郡)、子会社の新和ダイス(山梨県甲州市)、冨士シャフト(福島県二本松市)で、海外がタイとインドネシアとなっている。23年9月には岡山製造所に新たなCIP装置を導入して本格稼働した。岡山製造所の生産能力を増強するとともに、次世代自動車への対応強化を図る。23年11月には熊本製造所の冶金棟のリニューアルが完了した。DX化による省人化やレイアウトの最適化による生産性向上と粉末冶金技術(粉末・成形・焼結)の向上により、背生産能力の最大化を目指す。

■超硬合金とは

 超硬合金というのは、炭化タングステンに代表される硬質の金属炭化物と、コバルトなどの鉄系金属を粉末状にして混ぜ合わせ、型に入れて圧縮・成型し、粉末冶金法(融点より低い温度で焼いて固める方法)によって製造される金属材料である。ステンレスや鋼鉄を凌ぐ硬さを持ち、耐摩耗性に優れるという特性があり、高い精度が求められる金型や工具の材料として適しているため、輸送用機械、鉄鋼、非鉄金属、金属製品、電気・電子部品など幅広い産業分野で使用されている。

 製品としては精密加工が施されて、主に塑性(切屑の出ない)加工に用いられる高精度かつ耐摩耗性に優れた超硬合金製耐摩耗工具となるほか、一部は中間製品である超硬合金チップとしても販売される。なお、超硬合金製耐摩耗工具の性能や寿命に関しては、顧客の設計思想や生産プロセスが色濃く反映されるため、超硬合金製耐摩耗工具の大部分は顧客ごとのカスタムメイドとなっている。

■幅広い産業分野に多品種少量の高付加価値製品を提供

 同社の製品分類は、超硬製工具類(線材やパイプの生産用工具として使用されるダイス・プラグ、鉄鋼向けの熱間圧延ロール、人工ダイヤモンドやcBNの生産用工具として使用される超高圧発生用工具など)、超硬製金型類(自動車部品製造用金型、飲料缶や食用缶などの製缶金型、車載電池用金型、ガラスレンズ生産用の光学素子成形用金型、半導体・電子部品用金型など)、その他の超硬製品(超硬合金チップなど)、超硬以外(鋼製品、セラミック製品など)としている。

 23年3月期の製品区分別売上高構成比は超硬製工具類が26.6%、超硬製金型類が24.6%、その他の超硬製品が24.8%、超硬以外が24.0%だった。主力製品は超硬製工具類のダイス・プラグ、熱間圧延ロール、超高圧発生用工具、超硬製金型類の自動車部品製造用金型、製缶金型、車載電池用金型、超硬製品の超硬合金チップなどとなっている。

 また23年3月期の顧客産業分類別売上高構成比は輸送用機械が18.0%、鉄鋼が17.3%、非鉄金属・金属製品が15.2%、生産・業務用機械が13.8%、電機・電子部品が12.3%、その他が7.9%、金型・工具向け素材が15.5%だった。取引社数は約3000社に達し、国内の超硬耐摩耗工具市場で長期に亘ってトップシェア(同社推定30%以上)を維持している。なお地域別売上高構成比は日本が80.9%、アジアが17.1%、その他が2.1%だった。

 同社は顧客ニーズを的確に捉えて、個別カスタマイズの多品種少量生産に対応する研究開発~生産~営業体制を構築し、高品質の製品を顧客に提供している。そして、超々微粒から中粒や超粗粒まで顧客ニーズに最適な粒子径や硬さの材種を提供できる新材料開発・粉末冶金技術・加工技術・品質対応力、設計~原料粉末調粉~焼結~機械加工~製品検査の一貫生産体制、豊富な製品ラインナップ、特定の業界・顧客に依存しない収益安定性などを特長・強みとしている。

 さらに同社は、競合が少ない超硬合金製耐摩耗工具で多品種少量の高付加価値製品を提供しているため、切削工具・素材メーカーが多い業界平均に比べて販売単価が高く、販売価格が安定的に推移していることなども特長としている。また財務面では、23年3月期末の自己資本比率77.7%と盤石の財務基盤を構築していることも特長だ。

 23年11月には、日本機械工具工業会主催の「2023年度日本機械工具工業会大賞」において高熱膨張ガラス成形用新硬質材料「フジロイTR05」が「技術功績大賞」を受賞、廃棄物削減・再資源化率向上の取り組みが「環境特別賞」を受賞、モノづくり日本会議/日刊工業新聞主催の「2023年度超モノづくり部品大賞」において「フジロイTR05」が「奨励賞」を受賞、24年1月には日刊工業新聞社主催の「2023年第66回十大新製品賞」において「フジロイTR05」が「モノづくり賞」を受賞した。

■中期経営計画(22年3月期~24年3月期)

 同社は長期ビジョンに「世界のものづくり界のリーディングカンパニー」「品位ある企業グループ並びに企業人」を掲げ、中長期目標(成長戦略の第2フェーズ)としては27年3月期売上高200億円、営業利益25.0億円の達成をターゲットとしている。そして第1フェーズとなる中期経営計画(22年3月期~24年3月期)の目標値には最終年度24年3月期の売上高170億円、営業利益14.9億円、経常利益15.5億円、当期純利益10.9億円、ROE5.7%を掲げている。3カ年合計の設備投資は約40億円(環境インフラ投資、技術開発投資、IT関連投資など)の計画としている。

 第1フェーズの基本戦略としては、筋肉質な企業体質への転換と中長期の成長基盤を構築するため、生産性向上・業務効率化、次世代自動車への対応・拡販、新成長エンジンの創出、海外事業の強化などの取り組みを推進している。そして第2フェーズにおいて、売上高と利益のさらなる拡大を図る方針だ。

 生産性向上・業務効率化では、外部コンサルタントを活用した生産効率の改善、ITを活用した営業手法の導入、基幹システムやグループウェアなどのITインフラ整備、生産拠点見直しによる拠点再編、自立型人財の育成などを推進している。

 次世代自動車への対応・拡販では、選択と集中によりモーター関連製品・電池関連製品分野への注力、販売・生産・研究開発部門の三位一体となった取り組み、新材料開発による積極的な試作品投入などを推進している。EV用の二次電池、モーターコア、マグネットなど高精度・長寿命が求められ、同社が優位な分野でさらなる拡販を図る戦略だ。

 新成長エンジンの創出では、粉末冶金技術を軸に、顧客ニーズに合わせた多種多様な高機能材料の開発に向けて、マーケティング部門と製品開発部門の融合、オープンイノベーション(大学・外部研究機関・取引先開発部門との共同開発など)の推進、M&A・アライアンスの検討などを推進している。

 具体的な新製品・新技術開発状況としては、医療・化学分野の分析用デバイス成形金型(バインダレス合金、高熱膨張材のTR合金)、環境・エネルギー分野のCO2還元用触媒、水素発生触媒、省タングステン・コバルト合金のサステロイST60、光学ガラス分野の高熱膨張レンズ用金型(TR合金)の大径品、AM(Addtive Manufacturing)分野の造形技術確立(3D造形技術による超硬合金への適用)などの開発・試作品投入・製品化を進めている。

 海外事業の強化では、24年3月期の海外売上比率20%以上を目標に掲げて、ローカル人財の育成、海外製造拠点(タイ、インドネシア)の生産性向上および技術・技能向上によるアセアン地域における競争力向上、中国における販売拠点の拡大などを推進している。

 サステナビリティ経営の強化については、企業理念に「事業を通じて広く社会に貢献し、幸せな人を育てる」ことを掲げ、23年5月にサステナビリティ基本方針を策定、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同を表明、23年8月にサステナビリティ委員会を設置し、取り組みを強化している。

■プライム市場上場維持基準適合

 なお同社は、22年4月の東証の市場区分見直しに伴ってプライム市場を選択したが、移行基準日(21年6月30日)時点で流通株式時価総額と1日平均売買代金が上場維持基準を充たしていなかったため、21年12月16日付で新市場区分の上場維持基準適合に向けた計画書を策定・公表し、中期経営計画で掲げた成長戦略の着実な遂行による業績の向上、IR活動の強化、株主還元の充実、流通株式数の増加などによって企業価値の向上を図り、プライム市場の上場維持基準への安定的な適合を目指すとしている。

 そして24年2月27日に計画の進捗状況を公表した。流通株式時価総額については23年3月末時点で上場維持基準を達成、1日平均売買代金については23年12月末時点で上場維持基準を達成したため、23年12月末時点でプライム市場上場維持基準に適合していることを確認した。そして今後も安定的にプライム市場上場維持基準に適合していけるよう、持続的な成長と中長期的な企業価値向上に努めていくとしている。

■24年3月期は減益予想だが、25年3月期は収益回復基調

 24年3月期の連結業績予想(2月14日付で下方修正)は。売上高が23年3月期比4.0%減の165億円、営業利益が27.9%減の8億30百万円、経常利益が27.4%減の8億90百万円、親会社株主帰属当期純利益が48.2%減の6億70百万円としている。

 前回予想に対して売上高を13億円、営業利益を3億40百万円、経常利益を3億40百万円、親会社株主帰属当期純利益を2億20百万円それぞれ下方修正し、従来の営業・経常増益予想から一転して減益予想とした。生産性向上や価格改定等に一定の成果があるものの、自動車部品関連金型などの需要回復が遅れる見込みだ。親会社株主帰属当期純利益については前期計上の固定資産売却6億32百万円の剥落も影響する。

 第3四半期累計は売上高が前年同期比2.9%減の123億23百万円、営業利益が34.0%減の5億90百万円、経常利益が32.1%減の6億49百万円、親会社株主帰属四半期純利益が27.4%減の4億77百万円だった。自動車部品関連金型などの需要が低調に推移し、利益面では熊本工場冶金棟建設に伴う一時的費用なども影響した。

 製品別売上高は、超硬製工具類が5.2%増の35億09百万円、超硬製金型類が6.1%減の28億83百万円、その他超硬製品が6.8%減の29億89百万円、超硬以外の製品が4.4%減の29億40百万円だった。超硬製工具類は海外向け溝付きロールや一部の鋼管用引抜工具が好調だった。超硬製金型類は光学素子成型用金型やモーターコア用金型が好調だったが、二次電池向け金型が顧客の生産地変更の影響で減少したほか、自動車部品関連金型が部品メーカーの在庫調整の影響で低調だった。その他超硬製品は半導体製造装置向けが堅調だったが、中国市場の景気低迷の影響で中国向け素材販売が低調だった。超硬以外の製品は、一部の鋼製自動車部品用工具・金型が堅調だったが、引抜鋼管が低調だった。

 営業利益(前年同期比▲3億04百万円)の増減分析は、売上減少で▲3億71百万円、材料費(超硬)で▲28百万円、材料費(その他)で+95百万円(グループ会社の生産量低下に伴う材料消費減少)、外注加工費で+1億38百万円(生産効率改善効果)、電力燃料費で+31百万円、人件費で▲22百万円、設備関連費用で▲1億32百万円(熊本新冶金棟建設)、その他で▲15百万円だった。

 なお全社ベースの業績を四半期別に見ると、第1四半期は売上高が41億07百万円で営業利益が2億90百万円、第2四半期は売上高が41億03百万円で営業利益が1億51百万円、第3四半期は売上高が41億13百万円で営業利益が1億49百万円だった。

 24年3月期の配当予想は据え置いて23年3月期比10円減配の22円(期末一括)としている。23年3月期は特別利益計上に伴ってEPS(1株当たり純利益)が65円19銭となったため、株主還元の基本方針としている配当性向50%目途に基づいて32円としたが、24年3月期は特別利益計上を見込まず、例年並みの22円の予想としている。なお修正後の業績予想(EPS33円73銭)による予想配当性向は65.2%となる。

 24年3月期は需要回復遅れにより減益予想となったが、25年3月期は積極的な事業展開で収益回復基調だろう。

■株価はモミ合い煮詰まり感

 株価は小幅レンジでモミ合う形だが煮詰まり感を強めている。高配当利回りや1倍割れの低PBRなども評価材料であり、上放れの展開を期待したい。4月18日の終値は680円、前期推定連結PER(会社予想の連結EPS33円73銭で算出)は約20倍、前期推定配当利回り(会社予想の22円で算出)は約3.2%、前々期実績連結PBR(前々期実績の連結BPS1028円11銭で算出)は約0.7倍、そして時価総額は約136億円である。(情報提供:日本インタビュ新聞社・Media-IR 株式投資情報編集部)

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