日本銀行が「デフレからの脱却」を目指して堕ちた罠
2024年3月30日 16:29
デフレからの脱却を目指して日本銀行が行った上場投資信託(ETF) の買い入れが、出口のない袋小路に日銀を追い込んでいる。
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上場投資信託には、規模別・業種別・テーマ別等のカテゴリー別に様々な企業の株式が組み合わされている。日銀が個別銘柄の買い入れを行わずにETFと言うパック商品を選択したのは、政府を構成する一員として個別の企業に肩入れしているように受け止められたくないと言う思いと、リスク分散したいと言う思いがあったからだ。
幸か不幸か、こうした配慮がなされたため東証のプライム市場銘柄の多くが日銀の買い入れの恩恵に与った。
日経平均が前場で2%程度低下すると、後場に「クジラ」が出てくると言う期待感は、日頃疑心暗鬼な投資家をどれほど力付けたか分からない。
気が付くと買い入れ総額は37兆円に上り、時価総額で70兆円の価値を有するようになった。投資額に匹敵するほどの含み益だから、並の投資家なら笑いが止まらないところだろう。
日銀がETFの買い入れを始めた際の目的は、1万円前後に低迷する日経平均を活性化するための時限的な試みで、買い入れ金額には4500億円という限度額が設定されていた。中央銀行が株式投資に手を染めるのは極めて異例、世界的にも特殊な事例だ。
ETFの買い入れというお化粧はしていても、実態が株式投資に変わらない後ろめたさがあっただろうから、「今回のみ、4500億円限り」という縛りをかける必要もあった。
市場活性化のために買い入れたETFが値下がりしたら、日本銀行が含み損を抱えることになる。含み損の規模によっては中央銀行が債務超過という悪夢だって、想定できない訳でない。おっかなびっくりのまま1回限りで終わっていれば、現在のような出口のない悩みは生じなかった。
2013年に当時の黒田東彦総裁が、「戦力の逐次投入はしない」と大見えを切って始めた異次元緩和は、一気に弾を撃ち尽くしたから、次の手がないという苦境に日銀を追い込んだ。そこで日銀はETFの買い入れを五月雨式に拡大して、コロナ禍の株価低迷期には年間12兆円まで拡大した。
時価総額で70兆円というETFの重みは、10数年前の日本の国家予算レベルだと考えれば容易に理解できる。日経平均は史上最高値を記録したばかりだから、市場参加者の最大の関心時は「相場の反転はいつか」ということに絞られる。
そんな時期に「クジラが売却に動いたら」と想像することすら恐怖だ。一気に売却すると東京証券取引所は壊滅するだろうし、マイナスの影響を抑えるために毎年1兆円程度に分割して売却するとしても、完売するまでの数十年間東証は活力を失い日本経済が追い詰められる。
日銀がETF勘定を精算することで金融は正常化したと言えるが、問題はETF勘定が精算することがイメージできないほど肥大化したことだ。そしてさらに問題なのは、肥大化させたのは日銀自身だということだろう。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)