【映画で学ぶ英語】『オッペンハイマー』、トルーマン大統領のセリフを解説

2024年3月3日 17:29

 3月29日に公開予定の『オッペンハイマー』は、米国の原爆開発を科学者として主導した理論物理学者、ロバート・オッペンハイマーの半生を描いた伝記映画だ。『ダークナイト・トリロジー』や『ダンケルク』で知られるクリストファー・ノーランが脚本・監督・共同製作を務め、上映時間3時間に及ぶ大作である。

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 ノーラン監督の凝った演出や、オッペンハイマー役のキリアン・マーフィーをはじめとする俳優陣の迫真の演技が高く評価され、今年のアカデミー賞で最多の13部門においてノミネートを獲得している。

 今回はこの映画におけるトルーマン大統領の”Hiroshima is not about you.”という英語のセリフの意味を解説したい。

■映画『オッペンハイマー』のあらすじ

 1959年、米国上院では商務長官に指名されたルイス・ストローズ(ロバート・ダウニー・Jr)の証人公聴会が開かれていた。

 ストローズがその5年前、1954年に米国原子力委員会(AEC)の委員長を務めていたとき、オッペンハイマーは査問委員会で国家機密情報のアクセス権限の審査を受けた。なぜかストローズは、今回の証人公聴会でこのことが取り上げられるのではないかと、気が気でない。

 映画ではストローズの回想や、AECの査問委員会の審理の様子などを交えつつ、第2次世界大戦中の原爆開発を経て戦後の水爆開発反対に至るオッペンハイマーの軌跡が描き出されていく。

■トルーマン大統領のセリフ

 終戦直後、オッペンハイマーはホワイトハウスでトルーマン大統領と会見した。トルーマン大統領は戦後も原子力開発を推進するつもりだが、広島と長崎の惨状を知ったオッペンハイマーは消極的だ。

 「手が血で汚れているように感じる」と語るオッペンハイマーに、これで手を拭けと言わんばかりにハンカチを差し出したトルーマン大統領は、次のセリフを放つ。

 You think anyone in Hiroshima or Nagasaki gives a shit who built the bomb? They care who dropped it. I did. Hiroshima isn't about you.
  - 広島や長崎で、原爆を作った人物のことを気にかける人間なんていると思うかね。彼らが気にかけるのは、原爆を投下した人物は誰か、ということで、それは私だ。君は広島とは無関係だ。

■表現解説

 ”Give a shit (about)”という表現は上品ではないが、「気にかける、関心を持つ」という意味だ。その後に出てくる”care”も同じような意味で使われているが、”care”のほうが単に”be interested in”と言うよりも思い入れが強いニュアンスになる。

 今回の映画におけるトルーマン大統領のキメゼリフとも言える、”Hiroshima isn't about you.”で使われている”is not about you”というフレーズは、くだけた場面で日常的に使われる。「あなたに関することではない」ということから、ある出来事や状況が会話の相手に関係しているわけではないことを示す表現である。

 例えば、部下や同僚がイライラしているのは自分に原因があるのではないかと心配している人に、”It’s not about you.”と言って原因を説明する場面が考えられる。

 さらに、”Not everything is about you.”という表現が、相手に遠回しに自己中心的であることを指摘したり、逆に何でも自分が原因だと悩まないようにアドバイスしたりする場面で使われる。

 ちなみに”Hiroshima isn’t about you.”というセリフ自体は、本作の下敷きとなった伝記『オッペンハイマー』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫刊)の該当箇所を読んだ限りでは、ノーラン監督の創作のようだ。

 原爆投下は、軍事的、政治的、国際的なさまざまな観点から、より広い視野を持って考えるべきであり、オッペンハイマーの個人的な感情は関係ない、と言いたいのだろうか。民主主義世界のリーダーであるトルーマン大統領の現実的な物の見方を表現したセリフと言えるだろう。(記事:ベルリン・リポート・記事一覧を見る

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