日本製鉄が”アメリカの誇り”USスチール買収と発表して、湧き上がる「反対」の声! (1)
2024年2月20日 16:12
国内鉄鋼最大手の日本製鉄が、「米USスチールを買収する」と発表してから約2カ月が経過した。
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USスチールは1901年、まさに20世紀が幕を開けると同時に設立された、アメリカの著名な鉄鋼製造会社である。銀行家のジョン・モルガン、製鉄業界の大立者エルバート・ゲーリーの関わる連邦鉄鋼会社と、アンドリュー・カーネギーが保有していた製鉄会社が合併して、当時アメリカの鉄鋼生産の3分の2を占めるというスケールを誇った名門企業だ。会社名がUnited States Steelとある通り、まさにアメリカそのものという存在だった。
もっとも現在は、アメリカの鉄鋼メーカーとしてニューコア、クリーブランド・クリフスに次ぐ第3位に甘んじ、世界の粗鋼生産量では2022年で27位と言うから、昔日の面影を既に失って名前だけが存在感を示すと言っていいだろう。
奇しくも、日本製鉄の前身(官営八幡製鐵所)が創業を開始したのが、USスチールの発足と同じ1901年だというところに、因縁を感じる向きもあるかもしれない。
その八幡製鐵所の火入れ式に臨んだ初代の伊藤博文首相が、「鉄は国家なり」と語ったと伝えられている通り、当時の国力を象徴する「重厚長大」の工業製品を製造する上で、鉄は欠かせない存在だった。
現在、国家の帰趨を決める存在として注目を集めている「半導体」が、ナノ(10億分の1m)レベルで激しい開発競争を進めていることを考えると、100年そこそこの間での世界の変わり様が感じられる。
今回報じられている買収劇には、幾つかの課題がある。
1つ目は、USスチールが2023年8月に「戦略的選択肢」を検討中だとして、身売りを含めた方針を公表する前に20~30ドルで推移していたUSスチールの株価は、全米粗鋼生産第2位のクリーブランド・クリフスが買収に名乗りを上げたことで40ドルに迫る勢いを見せた。40ドルというのは買収を囃して上りきったご祝儀相場と捉えるのが妥当で、上がった株価に40%のプレミアムを上乗せして、1株当たり55ドルと算出した買収案に「割高だ」という疑問が残るのは止むを得まい。
買収を円滑に進めるためにプレミアムを載せるのが当たり前だとしても、例えば「戦略的選択肢」を公表する前の30ドルに40%のプレミアムを上乗せしても42ドルで済む計算だから、1株当たり10ドル以上の高値掴みになるという見方だ。公表前の株価と比較するとプレミアムが100%、2倍の価格で気前良く買い取るように見えるからだ。(続く)(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)