メラトニン代謝物が記憶力を改善する可能性 立教大学ら

2024年1月26日 09:06

 加齢と共に記憶力が低下していくことは、ある程度仕方がないこととこれまで思われてきた。しかし、もしもその原因を明らかにし、防ぐことができたなら、超高齢化社会を迎えていく我々にとって朗報といえよう。立教大学らの研究グループは、メラトニンの代謝物であるAMKが、加齢による記憶低下を防ぐ可能性を明らかにし、その合成経路を解明した。今後、記憶障害の治療や予防に応用されていくことが期待できるだろう。

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 今回の研究は、立教大学の服部淳彦特任教授、丸山雄介助教、加藤晴康教授、公立小松大学の渡辺数基日本学術振興会特別研究員(PD)、平山順教授、関西医科大学の岩下洸助教の研究グループにより行われた。研究結果は、12日のJournal of Pineal Researchオンライン版で発表された。

 脳の松果体で分泌されるメラトニンは、体内時計に働きかけて睡眠と覚醒を切り替えるホルモンである。メラトニンが記憶にも関わっていることは、以前から知られていた。研究グループは、メラトニンが脳内で代謝されてできるAMKという物質が、メラトニンよりもさらに強く短期記憶から長期記憶への固定を誘導することを、これまでに明らかにしていた。そこで今回はAMKが記憶力低下にどのような影響を与えているかを検討した。

 研究グループはまずマウスの松果体、血漿、海馬のメラトニンとその代謝物であるAFMK、さらにその代謝物のAMKの量を比較し検討した。その結果、松果体で分泌されたメラトニンが血液で運ばれた海馬において、AMKになることがわかった。またメラトニンからAMKへの代謝に関わる酵素も明らかにした。

 マウスも老化によって記憶力が低下することがわかっている。そこで海馬におけるAMKの量を若いマウスと老マウスで比較した。するとAMKは老化により20分の1になることがわかった。そして同時に、AMKを作るための酵素の量も低下していることが判明。またマウスにAMKを与えると、長期記憶の誘導に重要なタンパク質のリン酸化を引き起こすことがわかった。つまりAMKによって記憶が増強する可能性が示された。

 これらの研究結果により、人間においてもマウスと同様に、老化の進行と共にAMKが低下していくことで、記憶力が低下していっている可能性があると考えられるだろう。今後、AMKに関してさらに研究を行っていき、人における作用を明らかにしていくことが必要だろう。そして老化で起こる記憶障害や、軽度認知障害(MCI)の予防法や治療法が開発されていくことに期待したい。(記事:室園美映子・記事一覧を見る

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