2024年の展望 自動車大手7社
2024年1月9日 11:39
■トヨタの最大の戦略テーマは「稼ぐ力の強化」
トヨタ自動車の2024年3月期の通期業績見通しは、営業収益15.7%増、営業利益65.1%増、税引前利益51.3%増、最終利益61.1%増。連結販売台数見通し960万台、グループ総販売台数は1138万台で変わらないが、売上も利益も業績見通しの数値を上方修正した。
為替の円安効果3050億円に対し、「営業面の努力」が営業利益を1兆6550億円も押し上げる、と同社ではみている。2024年も好調な業績を維持するとみられる。
事業戦略の最大のテーマは「稼ぐ力の強化」。それに向けた事業基盤の強化策が「もっといいクルマづくり」「新興国でのHEV、PHEV拡販」「絶え間ないTPSと原価低減による体質強化」「グローバルでお客様接点を維持・拡大」。さらに事業領域拡大のターゲットに「競争力あるバッテリーEV・水素事業」「ソフトウェア・エネルギーを軸にした事業の創出」を挙げている。
2024年3月期から2027年3月期までの3カ年計画で、「稼ぐ力」は年平均約4.2兆円、累計約16.6兆円伸ばし、未来への投資など「投資・還元」に年平均約3.5兆円、累計約14.2兆円の資金を投入するという目標を定めている。
■日産の戦略の焦点は「中国市場でのEVの立て直し」
日産自動車の2024年3月期の通期業績見通しは、売上高22.7%増、営業利益64.4%増、最終利益75.8%増という大幅増収増益。どの項目も上方修正している。小売販売台数は中国市場での落ち込みを北米市場での拡大がカバーし、12.0%増を見込んでいる。
2024年の焦点は、価格競争の激化で前期に落ち込んだ中国EV市場での立て直しに成功できるかどうか。まず同年下期から日産ブランド4車種を展開する。2026年までにJVブランド6車種を投入し、10万台規模の日産ブランド車を輸出するという戦略計画がある。ヨーロッパ市場では2030年までに、投入する新型車を全てEVに切り替えるという方針を打ち出している。
■ホンダは電動化のために「全固体電池」開発加速
本田技研工業の2024年3月期の通期業績見通しは、売上収益18.3%増、営業利益53.7%増、税引前利益58.6%増、当期利益39.4%増、最終利益42.8%増の大幅増収増益。為替の円安と収益体質の強化を反映させて営業利益、当期利益を上方修正している。
通期業績見通しでの営業利益率は6.0%だが、ホンダには、事業体質のさらなる強化により2025年度(2026年3月期)に営業利益率7.0%以上を達成する目標がある。2024年は、それに向けて収益力をどれだけ高められるかが重要な課題になる。
事業戦略としてはグローバルなEV生産体制の強化による「電動化」が大きな柱で、四輪車の2030年の目標は北米40%、中国40%、日本20%だが、日本は2030年にハイブリッド(HEV)を含めた100%電動化を目標としている。そのキーコンポーネントに位置づけるのが「電池」で、2024年は独自開発の「全固体電池」の実証ラインを栃木県さくら市で立ち上げる。
■スバルはモノづくり本部設立、開発拠点刷新
SUBARUの2024年3月期の通期業績見通しは、売上収益23.2%増、営業利益57.0%増、税引前利益65.3%増、最終利益59.7%増の大幅増収増益。グローバル生産台数、販売台数の見通しは101万台で変わらないが、円安効果、販売構成の改善、原材料価格の下落などを背景に各項目を上方修正している。
スバルは「モノづくり革新」実現を目指し、従来の製造本部の試作機能を引き継いで「モノづくり本部」を設立。「ひとつのSUBARU化」を推進するために開発拠点の刷新を行っており、2023年3月の東京都三鷹市に続いて、2024年1月に群馬県太田市にも「新・開発拠点(イノベーション・ハブ)」を稼働させる。新たな価値を創造し、変革をリードする人財を育むための「知の中心」と位置づけている。
各工場も生産体制をEV対応に再編する「新体制方針」を進めており、2025年から2027年にかけて専用ラインが稼働を開始する予定である。
■三菱は中国市場の立て直しと電動車開発が戦略の中心
三菱自動車の2024年3月期の通期業績見通しは、売上高15.9%増、営業利益5.0%増、経常利益15.4%増、最終利益17.0%減で、最終減益を見込む。販売台数見通しは86.8万台で4%増。中国での落ち込みを北米と日本でカバーする。
中期経営計画「Challenge 2025」では「絶対的安定収益基盤の確立・強化」「カーボンニュートラル対応促進」「デジタル化推進・新ビジネス領域への進出」を三本柱に掲げているが、昨年から力を入れているのが「先進技術推進地域の事業改善(日本・北米・欧州・中国)」と「電動車強化第2フェーズ(2026~2028年度)に向けた電動車開発とアライアンス強化」で、それは2024年も引き続いて重要な戦略テーマになりそうだ。
具体的には中国市場戦略の立て直しとEV開発体制の確立に、引き続き経営資源を投入することになりそうだ。
■マツダは電動化事業本部、ブランド体験推進本部が発足
マツダの2024年3月期の通期業績見通しは、売上高25.4%増、営業利益76.1%増、経常利益36.6%増、最終利益19.0%増の大幅増収増益を見込んでいる。グローバル販売台数を128.6万台へ上方修正した出荷台数の増加、為替の円安を受けて通期見通しを上方修正している。
マツダは「中期的重要取り組み」として「電動化の加速」「ブランド体験の拡大」「カーボンニュートラルへの準備」を挙げている。
すでに電動化推進担当役員を設置し、電動化へのリソースを集中させる「電動化推進本部」を発足させた。電動化への取り組みが本格的に加速している。一方で「ブランド体験推進本部」も発足させ、ユーザーのブランド体験を重視している。カーボンニュートラルについては、自社工場での2035年の目標達成に向け、ロードマップ、中間目標を定めている。
■スズキは成長投資という「種まき」を着実に実施
スズキの2024年3月期の通期業績見通しは、売上高12.0%増、営業利益22.7%増、経常利益17.6%増、最終利益8.5%増の増収増益を見込んでいる。日本でのモデルミックスの改善、価格改定の効果、インドでトップシェアを取ったSUVの販売好調などを織り込んで業績見通しを上方修正し、各項目とも過去最高と絶好調。世界販売台数は四輪車6.3%増の318.8万台、二輪車は0.7%増の188万台となっている。
スズキが強調するのが、成長投資を言い換えた「種まき」で、2024年もそれを引き続き着実に実施していくと思われる。派手な新規事業進出やM&Aよりも、堅実な設備投資、研究開発投資、PDCAの強化や業務計画進捗のきめ細かいフォローのような社内体制の地盤固めに重点を置いている。それは行動理念として「現場・現物・現実」を挙げるスズキらしいマネジメントと言えるだろう。(編集担当:寺尾淳)