【QAあり】三井物産、モビリティ領域における3つの基本戦略を実行し、持続的な収益基盤の創出・強化を目指す

2023年12月13日 17:02

モビリティ事業戦略

大黒哲也氏(以下、大黒):今年度より、エネルギーソリューション、プロジェクト、モビリティ第一、モビリティ第二本部を管掌しております、大黒です。本日最後のプレゼンテーションとなりますが、よろしくお願いします。

本日はモビリティ領域の戦略についてご説明します。本領域の事業は、産業構造の変化やお客さまの多様なニーズに応えることで、年輪の如く、数十年をかけて脈々と成長を続けてきました。昨今、地政学的リスクの高まりとそれに伴う世界経済の減速が懸念されていますが、そのような事業環境下においても、各事業をグローバルかつ有機的に結合させ、継続的に収益基盤を強化しています。

モビリティ領域 取扱商品・機能

モビリティ領域では、ご覧のような陸・海・空・宇宙のさまざまなモビリティを取り扱っています。いずれも「時代の変化に対応したサービス提供」「幅広い顧客基盤とネットワーク」「有力パートナーとの協創」という共通の強みを持ち、グローバルで産業を支える規模感あるモビリティインフラを構築しています。

本領域における2023年3月期の基礎営業キャッシュ・フロー、当期利益は1,300億円以上となっております。

モビリティ領域 基本戦略・方針

まず、モビリティ領域の基本戦略と取り組み方針をご説明します。

「事業群戦略の実行」「バリューチェーンの強靭化」「ポートフォリオマネジメント」を3つの基本戦略として掲げ、持続的な収益基盤の創出と強化に繋げております。本日は、自動車と船舶事業を中心に、具体例を示しながら説明させていただきます。

また、この収益基盤を礎にして、後ほどご説明する脱炭素取り組みなどの次世代事業にも挑戦しています。

基本戦略① 事業群戦略の実行

まず1つ目の基本戦略である、「事業群戦略の実行」についてです。

本年5月に中期経営計画の攻め筋「Industrial Business Solutions」の一例として自動車、建機・鉱山機械といった「陸のモビリティ」事業戦略としてご説明しましたとおり、トレーディングを起点としたパートナーとの数十年来の強固な関係性を起点に、これまで事業を創造し、拡大を続けてきました。これらはグローバルで100社を超え、地域や機能で分散した事業ポートフォリオを形成しています。

今後は、これら事業を束ねるだけではなく、周辺事業開発を行い、また既存事業同士のシナジーを発揮することで、事業群として、より付加価値の高いソリューションの提供を目指します。次のスライドより、北米自動車事業群戦略の実例をもって、我々の事業群形成のプロセスを具体的にご説明します。

基本戦略① 事業群戦略の実行

世界で最も大きく、かつ競争力のある北米自動車市場においても、Penske事業は圧倒的なプレゼンスを発揮し続けています。Penske Automotive Group(通称PAG)およびPenske Truck Leasing(通称PTL)は いずれも、M&Aを通じた業態変革や事業拡大、最先端のDX技術等も取り入れたオペレーション強化を着実に実行してきました。

その結果、PAGは、乗用車プレミアムブランドを中心に取り扱う米国最大級のディーラーグループであるだけではなく、トラックや中古車等の商品多角化に加え、英国、オーストラリアをはじめ事業展開国は9ヶ国におよび、非常にDiversifiedされたポートフォリオを有しております。

また、PTLは、自社整備拠点を通じたフルメンテナンス・サービスリースを提供することで顧客の車両稼働率を最大化することに強みを発揮、今や車両管理台数は44万台に昇り、米国で圧倒的なプレゼンスを示しております。引き続き、メンテナンス技術やデジタル技術、人材への投資を緩めることなく差別化を図り、成長を続けております。

これらの個社Operational Excellenceを通じた取り組みの深化により下方耐性を強化し、さらに当社のグローバルなネットワークも活かして周辺事業開発や海外展開を積極的にリードし、事業群の形成を推進することで、収益基盤をさらに盤石なものとしてまいります。

基本戦略② バリューチェーンの強靭化

次に2つ目の基本戦略である、「バリューチェーンの強靭化」です。ここでは、船舶事業を例にご説明します。今まで当社船舶事業を包括的にご案内する機会が多くありませんでしたので、詳しくご説明できればと思います。

戦前の旧三井物産(※)は、1900年代より日本の造船所が建造する船の輸出代理店をなりわいとしており、現在の三井E&Sや商船三井も旧三井物産船舶部を源流としています。

その後、1947年に現在の三井物産設立直後から船舶事業に従事し、1980年代には子会社東洋船舶を設立、以来新造船販売以外にも中古船仲介や用船手配、販売した船舶の運航管理など幅広いサービスを提供してきました。

また、以前より取り組んできたアセット投資と船舶の保有に加え、2010年代以降は有力海運プレーヤーや本邦造船所との船舶共同保有や関連共同事業を強化しています。いまではグローバルで約350名のプロフェッショナル人員を内外に抱え、業界随一、商社No.1の組織力と情報力、そして取引実績を誇っています。

環境対応船をはじめとする脱炭素関連の事業開発も着実に進めており、トレーディング・サービス、アセット投資、事業開発の三位一体の事業基盤を維持・拡大しています。

(※注:法的には、旧三井物産と現在の三井物産には継続性はなく、まったく別個の企業体です)

基本戦略② バリューチェーンの強靭化

当社の船舶事業では、バリューチェーン上のさまざまな顧客・パートナーをカバーし、ご覧のような複合的サービスを提供します。アセット投資や事業開発では、有力パートナーと協同で採用した投資機会に参画し、海運市況のボラティリティの中で時宜を得た投資・リサイクルを実現しています。

この結果、フローと投資の両輪で基礎収益力は継続的かつ着実に拡大し、ROICも常時8パーセントから10パーセント台半ばという高い数値を示しています。

また、当社サービス・機能といった提供価値の最大化を通じて、本邦海事クラスターの成長、ひいては海上輸送が90パーセント超を占める日本向け物資の安定供給に間接的に貢献し、バリューチェーンのさらなる強靭化に日々努めています。

基本戦略③ ポートフォリオマネジメント

3つ目の基本戦略である「ポートフォリオマネジメント」についてご説明します。これは、先ほどご説明した「事業群戦略」に、「グループ経営力強化」「戦略的リサイクル」を加えた三位一体の取り組みにより、ポートフォリオ価値の向上を実現する取り組みです。

「事業群戦略」を推進することで、地域および機能で分散した事業ポートフォリオを良質化し、ステークホルダーに提供する付加価値の最大化を進めます。

「グループ経営力強化」とは、個社の取締役会を通じたガバナンス強化をはじめとする施策を通じて、個社の自立経営を促進する取り組みです。これにより、事業群を形成する個社の企業価値向上を実現します。

なお、事業群戦略に合致しない、または当社グループによる一層の企業価値向上が難しいと判断する事業については、適切な時期を見極めながら、撤退を随時断行し、戦略的リサイクルを進めます。

これらはすでに一定の成果を見せており、2022年、2023年の実績の一部を本スライドの下にてご紹介しております。

持続的な収益基盤の創出・強化

これら3つの基本戦略を通じた事業ポートフォリオ価値の向上により、現在の中経期間最終年度である2026年3月期に向けて1,500億円規模の当期利益を目指します。また定常的にROIC8パーセント超の創出も目指します。

次世代事業への挑戦

最後に、モビリティ領域での実績や知見を活かした取り組みとして、脱炭素社会の実現に向けた事業についてご説明します。

こちらに記載した案件は、2023年の取り組み実例です。水素・電気・メタノール・アンモニア、バイオディーゼルといった次世代燃料のさらなる普及と利活用に向けて、バリューチェーン上のさまざまなステークホルダーの需要と呼応させ、また他事業本部の機能との掛け合わせで複合的な価値提供を実現していきます。

なお、こちらのスライドには記載しておりませんが、日本の物流の未来を支えることを目指し、AI開発を手掛けるPreferred Networksさま、三菱地所さまをはじめ、多様な株主、パートナーと共同で、レベル4自動運転技術を活用した幹線輸送サービスの開発・実証を進めております。統合報告書にも記載しておりますので、ぜひご一読ください。

以上となります。本日はご清聴ありがとうございました。

質疑応答:収益の下方耐性への対策について

質問者:モビリティ領域の収益の拡大は、過去数年を見ても非常に力強く、「ここまで利益が出てくるとは」と、ポジティブな意味で驚いています。

一方で、2026年3月期に向けて当期利益1,500億円を目指す中で、かなり業績は上がってきているものの、好景気やサプライチェーンの混乱がもたらした特殊な環境に収益が嵩上げされている部分があり、今後の業績に不安を感じています。

今後投資を拡大していく中で、収益の下方耐性に対して、どのような対策を打っているのでしょうか。また、景気が悪化したとしても、どの程度の実力値があると認識しているか教えてください。

大黒:下方耐性に関して、足元より少し前になりますが、コロナ禍の時期についてご説明します。2021年3月期上半期において、全社の中でもモビリティ領域は新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けました。厳しい状況に陥り、赤字のグループ会社も急増しましたが、グループ会社各社で販管費を削減し、バランスシートを圧縮するなど、地道な努力を積み上げました。その結果、下方耐性が強化されました。

また、コロナ禍を機に事業の優劣が改めて見えてきました。前中経の3年間、また今期も含めて、将来的に継続が難しいと判断した事業から撤退していく取り組みを続けています。

このような取り組みを通じてオペレーションの効率化を進めてきましたので、景気・市場回復という追い風が吹いた時に、モビリティ領域という「凧」が一気に高く揚がったと考えています。

今期は、期初からある程度の市況の正常化を見込んでいましたが、地域や商品によってばらつきがあり、地域によってはかなりバックログ、バックオーダーを抱えている市場もあります。またコロナ禍の間にポジショニングが変化し、競争優位が高まった事業もあるなど、事業は相当改善しています。

このように、事業ポートフォリオが良質化していることから、先ほどご説明した「事業群戦略の実行」「バリューチェーンの強靭化」「ポートフォリオマネジメント」の3つの基本戦略に集中して取り組める環境にあり、確実に取り組んでいきます。

過去の事業を振り返ると、新事業を創出しオペレーションを改善していき、市場の伸びがあれば業績が向上し、市場の伸びが下がると業績は厳しくなる傾向がありました。それを踏まえての今後の見通しに関するご質問だと思います。

「事業群戦略の実行」は、まさにそのようなところも踏まえた戦略です。今までは、グリーンフィールド投資で、1つの事業を大きくするかたちでした。今後はそれだけではなく、周辺にあるものを組み合わせて、ブラウンフィールド投資、ボルトオン買収などでオーガニックグロースとインオーガニックグロースを合わせ技で考えていきます。事業群戦略を通じて、市場の影響に多少はさらされるかもしれませんが、単に市場に連動して業績が変動することのない体質に変えていこうと考えています。

2023年5月に発表した時点では、事業群は3つとご説明しました。この数をなんとか増やそうと、9つというかなり意欲的なターゲットにしています。これが実現すれば、結果として収益基盤は大きくなります。加えて、さまざまな組み合わせで機能と融合しますので、市況が悪化しても、それ以外でもさまざまなかたちでカバーできる状況が作れると考えています。

質疑応答:事業群の成長の時間軸について

質問者:プレゼン資料9ページに、「2026年3月期に向けて、当期利益1,500億円規模を目指す」とあります。しかしチャートを見ると、2026年3月期に基礎営業キャッシュ・フローが落ちているように見え、これは資産売却なども含めての1,500億円ではないかと思っています。

3つの事業群から9つの事業群になり、規模感が育っていくには時間を要すると考えますが、この時間軸は、現中経期間中よりも後の時期だと考えればよいですか。その場合、市況正常化の過程で業績が落ちていく中で、それでも右肩上がりと考えることには違和感を覚えます。時間軸についての考え方について教えてください。

大黒:9つの事業群を作るというチャレンジについて、いくつかの事業群は次世代への取り組みやカーボンニュートラルに向けた取り組みなどを含みます。

したがって、事業群を作っていく過程においても、成長度が増して高いROICを出せるものもあれば、現中経ではなく2030年に向けてROICが上がっていくものもあると考えています。このようなものの合わせ技で取り組んでいます。詳細は開示できませんが、合算すると、結果として1,500億円の収益規模になると考えています。

尚、1,500億円には資産売却などの一過性の数字は含まれていません。一方で、新しい事業機会が増えて市場や事業の環境が変わる中で、収益に合わせてポートフォリオを積み上げてバランスシートを拡大していくのみならず、戦略的リサイクルも遂行し、足し算・引き算の合わせ技で、事業ポートフォリオを良質化する方向に変えていこうと考えています。

質疑応答:モビリティ領域が脱炭素の取り組みで果たす役割について

質問者:会社としてネットゼロに取り組んでいく中で、モビリティ領域としては、脱炭素関連の事業創出というかたちで関与していくというご説明でした。

既存事業におけるCO2排出量の低減のために、例えばトラックや船などで取り組む余地も出てくると思います。ネットゼロへの取り組みの中で、モビリティ部門はどのような位置を占め、また、どのように貢献していくのかお聞かせください。

大黒:おっしゃるように、さまざまな役割があると思っています。既存の事業のカーボンニュートラルに向けた取り組みは、当然のこととして取り組んでいきます。

さらに、次世代燃料事業は当社が強みを発揮できる領域だと考えています。この取り組みを事業本部単独で考えていくよりも、「チーム三井」としてワンチームで進めていきたいと考えています。

そのような意味では、やはり輸送はGHG削減余地があり、変えていかなければいかない領域です。船舶はもちろん、車両・モビリティにおいて、脱炭素に向けた次世代エンジンや次世代車両に取り組むことにより、上流の次世代燃料や、エネルギーセグメントのプロジェクトを実現可能にしていきます。このような「デマンドクリエーター」としての役割が、我々にはあると思っています。

最近、次世代燃料やカーボンニュートラルでは本部の垣根がなくなり、一緒に取り組む案件が非常に増えてきています。その中でモビリティ領域の役割は、明確に先を見通しづらいプロジェクトを実現可能にしていくために、次世代燃料の需要を十分に作っていくことだと考えています。

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