一帯一路プロジェクト: 裏の意味と政策対応(1)【中国問題グローバル研究所】

2023年10月24日 10:23

*10:23JST 一帯一路プロジェクト: 裏の意味と政策対応(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)陳建甫博士の考察を2回に渡ってお届けする。


1.一帯一路構想の現状
一帯一路構想の10年:節目と変化。2013年に打ち出された中国の一帯一路構想が10年目を迎えた。中国は当初、東南アジア、南アジア、中東、北アフリカ、欧州の各国を結ぶ「シルクロード経済ベルト」(一帯)と「21世紀海上シルクロード」(一路)という、2つの重要経済ルートに沿って大規模インフラを建設するプロジェクトとして、この構想を打ち出した。この経済ルート上にある国々は、「中国・モンゴル・ロシア経済回廊」「新ユーラシアランドブリッジ経済回廊」「中国・中央アジア・西アジア経済回廊」「中国・パキスタン経済回廊」「バングラデシュ・中国経済回廊」「インド・ミャンマー経済回廊」「中国・インドシナ半島経済回廊」の6つの主要経済回廊によって結ばれている。

2014年以降、中国は一帯一路プロジェクトに年間1,000億米ドルを超える投資を行ってきた。2020年から2022年にかけては、コロナ禍の影響で減少したが、いずれの年も600億米ドルを上回っている。2023年8月末時点で中国は一帯一路に関して200以上の協力文書を、152カ国および32国際機関と締結している。

戦略的転換:一帯一路投資の質とエネルギー。中国の一帯一路構想に対する投資プロジェクトを見ると、最大の投資分野はエネルギー開発(全体の約40%)で、これに交通網整備(同24%)、不動産開発と鉱山開発(いずれも同9%)が続く。このことから、一帯一路構想は中国の発展に必要なエネルギー供給の一元管理により重点を置いているはずであることが伺える。

中国と一帯一路の協力文書に署名した各国は、相対的利益の改善と経済安全保障強化を図れなかっただけでなく、中国への貿易依存を強める結果となった。また中国は直接投資により、相手国の国家安全保障に間接的に影響を与えることもできている。中国による意思決定への干渉や情報セキュリティリスクが大きな批判を浴びてきた。欧州には中国と協力関係にあったものの、「デリスキング(リスク回避)」政策に転換した国もある。リトアニア、ラトビア、エストニアの3カ国は2021年、ロシアのウクライナ侵攻や中国の外交政策、貿易問題などの理由により、「中国と中東欧諸国の協力枠組み」から離脱した。チェコ共和国も2023年6月29日に、中国を体系的な競争相手と位置づける新たな「安全保障戦略」を発表した。


・中南米や太平洋地域への一帯一路拡大
中南米・カリブ諸国:駆け引き vs 長期的メリット。2013年には合計10カ国が中華民国(台湾)と国交を断絶した。2016年時点で台湾と断交した国は8カ国あり、そのうち5カ国が中南米である(パナマ、ドミニカ共和国、エルサルバドル、ニカラグア、ホンデュラス)。各国への中国のインフラ建設投資は当初著しく増えたが、長期的データを検証したところ、中国と国交を樹立しても短期的な成果しか得られず、長期的な経済的効果は生まれていないことが分かった。中国と新たに国交を結んだ国の景気は、台湾と国交を維持している国と比べて著しく上向いているわけではない。

ソロモン諸島の先:太平洋地域における影響争い。中国の経済援助は現地民主主義の発展、法の支配、ジェンダー問題、経済的平等に悪影響を与えるだけにとどまらず、周囲地域の民主主義を脅かすことすら少なくない。最も顕著な事例として2019年9月、ソロモン諸島が台湾と断交したことが挙げられる。その後、ソロモン諸島は11月に中国と国交を樹立し、「シルクロード経済ベルト共同推進」に関する覚書に調印している。その後、中国政府の優先課題は開発から国防へとシフトし、両国が昨年4月に「安全保障協力協定」を締結したことで、周辺国の警戒感が強まった。

台湾から中国への国交切り替え拡大に歯止めをかけるため、米国の議員らは「Defund China’s Allies Act(中国同盟国への出資停止法)」の法案提出など、国交を切り替えようとしている国に対する米国の対外援助を禁じるよう求めている。台湾は現在の外交戦略に「量より質を重視する」原則を導入して、医療や農業技術などの支援プログラムを友好国に提供するとともに、対象となる国とより積極的にコミュニケーションをとるべきである。南太平洋島嶼国のなかには、気候変動や高速インターネットといった問題の解決を望んでいるとの意向を、複数の機会にわたりオーストラリアに表明してきた国がある。台湾のICTはおそらく、こうした友好国が抱える高速インターネットのニーズに十分応えられるはずである。


3.一帯一路構想と中国の海外軍事拠点拡大
二重目的の一帯一路構想:軍事と経済の中枢化。一帯一路構想は当初、主に経済的な動機によるものと思われていたが、人民解放軍が「海外物流施設の整備」を名目に海外基地の建設を開始した。海上シルクロードの経済開発と同様、中国の海外基地建設プロジェクトも経済と軍事という「2つの目的」を掲げている。こうした基地は、戦争や紛争が勃発すれば間違いなく軍用目的となる。海外にこうした支柱となる港を設置すれば、軍事的性格を直接疑われるような事態は避けられる。

アフリカでは、東アフリカのジブチにあるドラレ・ターミナルが中国初の海外軍事拠点である。この港は戦略的にみて非常に重要な位置づけにある。海を隔てたアラビア半島に面し、紅海やアデン湾へのアクセスが確保されている。また、インド洋とスエズ運河を結ぶ重要なルートでもある。中国とアフリカの「一帯一路」共同建設協力計画の代表的な建設プロジェクトである、エチオピアとジブチを結ぶアジスアベバ・ジブチ鉄道の建設を受けて、ジブチ港は地域の海運拠点としても設計された。中国は現在、ジブチに加えてカメルーンのクリビ、モザンビークのナカラ、モーリタニアのヌアクショット、赤道ギニアのバタなどで、一帯一路構想を積極的に展開している。軍用にも民生用にもなる施設の前哨地点となる基地を獲得しているのである。

「戦局」となったインド太平洋地域:中国の海外軍事拠点。カンボジアのリアム、スリランカのハンバントタ、パキスタンのグワダル、バヌアツのルーガンビルでは、中国が積極的に軍事拠点を建設している。なかでも改修終了間近のリアム海軍基地は中国にとって、ジブチに次ぐ第2の海外補給基地(overseas support base)、インド太平洋地域では初の海外軍事基地とみられている。これは中国の地域防衛戦略の大きな前進であるとXianはみている。

中国は中南米でも一帯一路構想を推進し、多額の財政投資を行ってきた。投資額はベネズエラ・ホセ港の原油ターミナルに4億4,100万米ドル、キューバのサンティアゴ港に1億3,300万米ドルである。こうしたインフラ投資により、中国は中南米に人民解放軍の拠点を置き、これを展開させる戦略的機会を得られる。中国は現在、アルゼンチンのティエラ・デル・フエゴとチリのプンタ・アレーナスでの多目的港建設に協力する計画も提案している。この計画では、Shaanxi Coal Chemical Industryグループが現地のエネルギーと肥料の開発を支援し、その後港湾ターミナルの建設と管理を担う。それによりマゼラン海峡の航路と航路沿いの地域を管理し、最終的には南極進出の拠点とする。


「小さくても美しい(Small but Beautiful)」一帯一路プロジェクト: 裏の意味と政策対応(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。


(※1)https://grici.or.jp/《CS》

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