大きくなったがんが消失 優秀な薬の運び屋を開発 マウス実験で 東大ら
2023年10月17日 08:19
がんの治療法は日々進化しており、治療できる病気になりつつある。しかしその部位や進行度によっては、まだまだ治療が難しいことがあるのも事実だ。東京大学は13日、効果が非常に強い抗がん剤を、ターゲットのがん細胞へ効果的に輸送するシステムを開発したと発表した。マウスによる実験で、大きくなった乳がん細胞を消失させることに成功。今後この方法をヒトに用いることができれば、がん治療が大きく進歩することが期待される。
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今回の研究は、東京大学アイソトープ総合センターの杉山暁助教、同大学大学院薬学系研究科の金井求教授、山次健三助教(現:千葉大学大学院薬学研究院教授)、日本学術振興会の巽俊文特別研究員、東北大学大学院薬学研究科の坂田樹理助教、徳山英利教授らの研究チームにより行われた。その成果は、4日の「Protein Expression and Purification」に掲載されている。
がん治療の難しさの1つは、がん細胞が「元は自分自身だったもの」が、変異などによってコントロールを失った細胞であることだ。がん細胞を攻撃する薬は、同時に正常細胞をも攻撃してしまう。効果が高い薬ほど副作用も大きくなりやすい。
今回研究グループは、薬を目的の細胞に運ぶ「Cupid-Psycheシステム」を開発し、実験を行った。「Cupid」部分は、細胞の印となる分子を見つける「抗体」部分と、ストレプトアビジンを敵とみなされないように改変したものからできている。「Psyche」部分は、ビオチンと薬剤を繋いだものからなり、この繋がりは細胞内の酵素で切断されるようにデザインされている。
これらを遺伝子工学的に作り出すシステムを構築。また、ストレプトビオチンとアビジンは強く結合するため、混ぜるだけで薬剤と抗体を結合することができる。
今回の研究では、がん細胞の印としてHER 2を見つける抗体を結合したCupidを作成。また、Psycheには効果が非常に強いが副作用が強く、実用が難しい抗がん剤であるデュオカルマイシンを用い、抗体―薬剤の複合体であるAMDCを作成した。
このAMDCを培養がん細胞に使用したところ、濃度依存的にがん細胞を傷害することがわかった。またこの時、デュオカルマイシンは速やかに細胞内に取り込まれてDNAを切断することで、効果を表していることがわかった。
次に人間の乳がん細胞を移植したマウスを用いて、AMDCの効果を確認。16日おきに2回AMDCを投与したマウスは、80日後にがんが消失していた。この効果は投与間隔が長すぎると十分な効果が得られないことがわかった。
これらの研究結果より、デュオカルマイシンを結合したAMDCは、目的のがん細胞に薬剤を届け、高い効果を挙げていることが判明。今後、このシステムをヒトに応用できるか安全性についての確認が行われ、副作用が起こりにくく効果の高いがん治療法の開発に結びついていくことが期待される。(記事:室園美映子・記事一覧を見る)