副業でインボイス登録しないとどうなる?
2023年9月30日 08:06
副業者の中には、インボイス登録するべきか迷っている人も多いだろう。本記事では、インボイス制度の副業への影響やデメリット、そして対応策について紹介する。
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■BtoBの副業はインボイス登録した方が無難か
10月1日から始まるインボイス制度の目的は、消費税額や適用税率の正確な把握だ。背景には、軽減税率により10%と8%の消費税率が混在している状況がある。インボイス(適格請求書)は取引による価格と税率が記載された書類で、これを用いてより正確な消費税の納税が可能となる。免税事業者の場合、インボイス登録すると、今後は適格事業者として消費税を納める義務が生じる。
副業における、インボイス制度によるデメリットとしては、報酬や受注数が減るといった懸念が挙げられる。それは、インボイス制度によって、副業者に仕事を発注するクライアント側の税負担が増える可能性があるからだ。BtoCよりも、BtoBの副業の方がより影響を受けやすいだろう。
インボイス制度の理解を深めるには、仕入税額控除が鍵となる。仕入税額控除とは、事業における仕入れなど、経費にかかる消費税が控除される制度だ。インボイス制度では、この仕入税額控除の手続きが変わる。制度が開始されると、仕入税額控除の申請には、インボイスが必要になるのだ。
免税事業者の副業者と取引する場合、クライアントは仕入税額控除が受けられず、消費税を全額負担しなければならない。クライアントが仕入税額控除を受けたい場合、インボイスを発行できる適格事業者の副業者と取引する必要がある。
そのため、免税事業者のまま副業する場合、消費税分が報酬から差し引かれるなど、単価が下がる懸念があるのだ。しかし、クライアント側が一方的に消費税の支払いを拒否するなどの行為や、報酬の大幅な減額などは下請法に抵触する。
企業との取引がメインの場合、長期的には適格事業者になった方が無難かもしれない。だが現時点では、今後の副業市場の反応を見なければ、インボイス登録すべきかを早計に判断するのもまた難しいだろう。
加えて経過措置が取られるため、免税業者からの仕入であっても導入から3年間は80%が、その後の3年間は50%が控除できる。
■インボイス登録すると”本名バレ”のデメリットがある
インボイス制度は登録すれば終わりではない、会計ソフトを対応させるなど、事務処理なども必要となる。
MM総研が8月に発表した「インボイス制度への対応実態調査」によれば、6月末時点でインボイス制度への対応が完了している事業者は30%以下だった。
また、7月にSansanは「インボイス制度に関する実態調査」の結果を発表している。こちらでも、6月末時点でインボイス(適格請求書)の受領手続きが完了している企業は20%と少なかった。さらに33.9%の企業がが免税事業者でも取引継続と回答しており、16.6%が適格事業者への転換を働きかけると回答している。
8月には、東京商工リサーチも第3回「インボイス制度に関するアンケート調査」の結果を発表している。これによれば、「免税事業者と取引しない」と回答した企業は8.3%、「取引価格を引き下げる」と回答した企業は3.4%だった。こうした情報から、すぐにインボイス登録しないと副業収入が下がるとは限らないかもしれない。
副業者にとってインボイス制度のデメリットには、本名がクライアントに伝わる点が挙げられる。発行されるインボイスには、適格事業者の登録番号と、副業者の本名が記載されるからだ。加えて、登録番号と本名は国税庁のウェブサイトで簡単に検索できる。
何らかの都合で副業者がクライアントに本名を伝えたくない場合、媒介者交付特例を活用するのがおすすめだ。媒介者交付特例とは、クライアントと副業者の間に入った仲介者(媒介者)が代わりにインボイスを発行できる制度である。この媒介者交付特例を使えば、本名をクライアントに知らせずに、副業を続けることが可能だ。
ただし、媒介者交付特例が適用されるのは適格事業者だけで、インボイス登録済みであることが条件である。免税事業者は、そもそもインボイスを発行できないため、媒介者交付特例を利用できない点に注意が必要だ。
副業者が媒介者交付特例を活用したい場合、おすすめなのは、クラウドソーシングサイトのような仲介業者である。大手のクラウドワークスやランサーズは、媒介者交付特例でのインボイス制度への対応を公式にアナウンスしている。本名を伏せたまま副業を続けたい場合は、インボイス登録してクラウドソーシングサイトを活用するといいだろう。(記事:西島武・記事一覧を見る)