技術の蓄積が自動車メーカーの実力差 ボディ剛性

2023年9月16日 16:59

●ボンネットフードの開口方向

 最近の車のボンネットフードは、運転席に近い側、フロントグラス側にヒンジがあるものが大多数である。

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 ボンネットフードを開けると、鰐を正面から見たとき、鰐が口を開いた様な状態になるので、「アリゲータータイプ」と呼ぶ。

 これに対して、フロント側、車体前端に近い側にヒンジを設けて、ボンネットフードを開くタイプを、「逆アリゲータータイプ」と呼んでいる。

●昔の自動車技術レベル

 話を簡単にするために、53年前の1970年頃を想定して見たい。

 当時の乗用車は、コロナ、ブルーバード、カペラ、ギャラン、ベレット、シビックや、ハコスカ、初代セリカ、ギャランGTO、また、バモスやフェローバギーといった、多様な車のオンパレードの時代だった。

 『「コロナ」の名誉回復が必要だ』(2020年3月19日付)で触れたが、BC戦争(ブルーバードvsコロナ戦争)と呼ばれた時代の3代目コロナ(RT40/50)の場合、先代の2代目コロナ(RT20/30=俗称ティアラ・コロナ)はデザイン優先で、ボディ剛性の問題点があった。

 そこでボディ剛性を改善し、開通直後の名神高速道路で10万キロの公開耐久テストを実施したりして、汚名返上に努めた。

●ノックダウンで学んだ車づくり

 国産車の場合、いすゞ・ヒルマン(英)、日産・オースチン(英)、日野・ルノー(仏)といった外国車のノックダウン時代を経て、この頃から漸く「自動車生産技術」が身に付いた。

 モータリゼーションの黎明期で、自動車の技術も進歩する途上であったために、ボディ剛性に関しても、現在の完成度には及ばない部分も見受けられた。

 道路にも未舗装部分が多く残っており、悪路を走行するケースも多かったので、結果として本国のオリジナルより足回りは強固になった。

 「ボディ剛性が劣る車が悪路を走る」際には、ボディに捩れが発生し、ボンネットフードをきちんと閉めていても何等かの拍子でロックが外れる事故も起こった。

 ボンネットロックが外れると、前方からの風圧で「鰐が口を開いた」状況になり、前方視界が失われ、事故に繋がった。

 逆アリゲータータイプの場合は、万一ボンネットロックが外れても、風圧でフードが抑えられるので、前方視界を失うケースは少なかった。

●メリットとデメリット

 一般的なレイアウトの乗用車は、エンジンが車室の前方に置かれている。

 そこでエンジンを整備する場面では、アリゲータータイプの場合は車の前方から、両側にそのまま身体を移動して作業が出来るが、逆アリゲータータイプの場合には、右側から整備していて左側に手が届かなければ、逆サイドまで回る必要がある。

 従って、作業性の観点では、アリゲータータイプの方が有利だ。

 また前面衝突の場合、アリゲータータイプであれば、ヒンジが車室側にある関係で、ボンネットフードにクラッシャブル対応部分(故意に強度を落とした部分を設けて、そこでボンネットフードが曲がる)の働きで、乗員への被害を最小限にする様な設計がなされる。

 逆アリゲータータイプの場合は、ボンネットフードの固定部分が前方にある関係で、フードにクラッシャブル対応部分を設けても、衝撃を受ける車室側が固定される度合いが少なく、上手く曲がってくれる確率が低い。そのため他の工夫でフードが車室に突っ込んで来るのを防ぐ手立てが必要となった。

●車体剛性の向上

 最近の車は、ボディ解析も進歩して、技術的にも昔の車よりは格段に車体剛性が上がったので、大多数の車はアリゲータータイプを採用している。

 殆どの乗用車には不必要だが、Jeepの様な不整地走行を想定した車の場合、十分なボディ剛性を確保していても、極悪路のボディの捻じれによって、万一ボンネットロックが外れる事態に備えて、ボンネットストラップも備える事がある。

 蛇足ながら、テスラが走行中にフロントボンネットフードが開いて、前方視界が失われた事故は、単純に技術力不足が原因で、ボディ剛性等の解析能力が50年程昔のレベルだから起こったのだろう。

 無知なジャーナリズムの、一時的な特定銘柄を持ち上げる風潮に流されて、そのメーカーの技術レベルを把握せずに適当な選択をするのは、「命に関わる選択」を余りにも安易に行っているのでは無いか?

 自動車生産技術が十分身に付いた企業の製品を選ぶのが、我が身を守る第一歩だと思う。(記事:沢ハジメ・記事一覧を見る

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