中国不動産部門における危機とダイナミクスの変化(1)【中国問題グローバル研究所】

2023年9月4日 10:22

*10:22JST 中国不動産部門における危機とダイナミクスの変化(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)陳建甫博士の考察を2回に渡ってお届けする。


1.はじめに
国際市場との相関関係、そして経済成長推進の大黒柱という役割によって増幅された中国不動産部門の荒れ狂わんばかりの展開は、世界の金融情勢に衝撃を与えた。この危機がもたらした深刻な影響は不動産業界の枠を超え、建設、資材、銀行などの関連業界にも及んでいる。たとえば不動産業界が経済成長の一つ柱となってきた深圳市では、現状の先行き不透明感から、建設作業員の間で雇用や将来の収入への不安が広がっている。

恒大集団(Evergrande group)による破産保護申請を受けて世界中の投資家、規制当局、政府は危機感を強め、今回の危機による影響を最小限に抑え、より広範囲な経済への悪影響を回避しようと対応に追われた。

中国の不動産危機の世界的な影響は、国境を越えて事業を展開する金融機関にも及んでいる。これらの金融機関が大きな不確実性に直面している一方、不動産業界と建設業界など他業界との共生関係は新たな段階に入った。グローバルな金融が網の目のように複雑に結びついたことを反映してサプライチェーンは混乱の影響を受けやすくなっていることから、商品価格の変動が懸念材料となっている。

中国の不動産部門はダイナミックでプレイヤー同士が深く結び付いていることから、経済圏の枠を超えて波及するいくつもの困難を招いた。本稿では、不動産業界を揺るがしている状況について深く堀り下げ、恒大集団、碧桂園(Country Garden)、SOHO中国(SOHO China)などの主要プレイヤーが直面した危機から得られた教訓を読み解いてみたい。市場の状況についてのデータに基づいた考察や、規制当局の対応やパラダイムシフトについての検討を通して、複雑な中国不動産業界の混乱を見ていこう。中国不動産業界の今後を決める課題やトレンドを探る中で、よりしなやかで持続可能な未来への道筋を示す変革のチャンスが見えてくるだろう。グローバルな金融への影響、政策的配慮、社会経済上の込み入った問題が複雑に絡み合う状況において、こうした危機から引き出された教訓が、中国の不動産をめぐる状況を語るための新たな語り口を形成していくことに疑いはない。


2.恒大集団、碧桂園、SOHO中国からの教訓
まず最初に挙げたいのは、不動産部門の突出したプレイヤーである恒大集団で起きた大混乱だ。恒大集団の物件にそれまで蓄えてきた貯金を注ぎ込んだ個人の住宅所有者は今、住宅完成についても金銭的損失についても見通しが立たないという現実に直面している。恒大集団が直面している混乱は、「三条紅線」(=3本の赤い線、three red lines)という規制の枠組みに関わるもので、この規制は2020年8月に行われたデベロッパー各社との会合で住宅都市農村建設部(Ministry of Housing and Urban-Rural Development)と中国人民銀行(People’s Bank of China)が示したものだ。

「三条紅線」は、1)前受金等を除いた資産負債比率が70%超、2)純負債自己資本比率が100%超、3)現預金に対する短期有利子負債の比率が1倍未満、という3つの評価基準を設定しており、不動産会社は「三条紅線」の評価状況に応じて「赤」、「オレンジ」、「黄」、「緑」の4段階の監視レベルに分類される。上記の基準にすべて当てはまった不動産会社は赤レベルとされ、有利子負債の増加が認められなくなる。

2021年1月1日以降、不動産業界はレバレッジ解消の正式な審査段階に入った。試験運用対象に指定された不動産会社12社は2023年6月までに、「三条紅線」基準への適合を迫られた。さらに、恒大集団をはじめとするすべての不動産会社が、2023年末までにこれらの基準に適合することが義務付けられた。2023年8月、恒大集団は米国のマンハッタン破産裁判所を通じて破産保護手続きを開始した。同月末には債務再編計画を決議する集会も予定されている。

同様に碧桂園のケースでも、同社が開発した地区のコミュニティーが、資産価値と需要が変動する中で市場の動きの変化による影響を受けている。同社は知名度が高い割に負債による資金調達と土地取得戦略に大きく依存しており、経済が大きく混乱すればその脆弱性が露呈するおそれがある。同社は積極的な事業拡大で躍進したが、それは過剰だったおそれもある事業拡大や競争激化による相当程度のリスクももたらした。これに加えて、不動産業界が規制環境や消費者の選好の変化に対応する中、碧桂園が長期的な成長を維持するには機敏な事業運営を続けなければならない。

さらに、不動産市場は相互につながっているため、碧桂園で悪い事態が発生すれば業界全体のリスクが増幅されるおそれがある。ある大企業1社の財務問題が債務不履行や金融混乱という連鎖反応を誘発する「ドミノ効果」の可能性が不動産業界の脆弱性を際立たせている。こうした不透明な状況を乗り越えていく過程で、債務管理、リソースの最適化、ビジネスモデルの転換といった同社の戦略は、起こりうる悪い結果を軽減させて持続可能な成長への道を切り拓く上で大きな力になるだろう。

3つ目の事例は財務不安が露呈したSOHO中国だ。子会社の「北京望京捜候房地産」(Beijing Wangjing Sohou Real Estate)による土地増値税滞納が明らかになったことで、業界の宿痾とも言える財務面の脆弱性が浮き彫りになった。SOHO中国は積極的な用地取得に突き進んだ末の過剰拡大と負債の増加という、この業界でよく見られる典型的な苦境に直面している。中国の都市化ブームの恩恵を受けようと力を入れた一等地の取得競争はデベロッパー各社の財務を圧迫したほか、不動産価格の上昇が進んで持ち家を高嶺の花にしてしまった。

さらに、SOHO中国の大幅な業績悪化が業界内の懸念を増幅させている。今年度上半期の利益はマイナス90%という異例の落ち込みで、かつての安定ぶりとは天と地ほどの差がある。こうした苦境の背景には、政策や規制の変化によって不動産市場の成長見通しが鈍化したという、より広いマクロ経済情勢がある。同社の苦境は、過剰債務や恒大集団の危機で見られたような外部要因で悪化した脆弱性が露呈することがどのような結果をもたらすのかを示している。現在進行中の危機がより広範な金融不安にエスカレートするおそれがあり、クロスデフォルトの恐怖が迫っている。

恒大集団、碧桂園、SOHO中国の事例は、経済の先行きが不透明な状況では財務のレジリエンスが極めて重要であることをよく示している。これらの企業の野心的な拡大戦略から生じた脆弱性に照らしてみるに、中核となる強みに合わせた多角化戦略が必要であることがよく分かる。持続的成長には負債による資金調達と慎重な財務管理を調和させることが大前提となる。グローバルな金融市場と経済成長の要として重要な地位を占めている中国の不動産部門が相互に複雑に影響し合い、危機の影響を増幅させている。さらに、建設、資材、銀行などの関連業界にも幅広く影響して事態の深刻さに拍車をかけている。恒大集団の破産申請が世界的に波紋を広げた中、各国の投資家、規制当局、政府は警戒を強め、こうした悪影響がさらに広がることがないよう対応に当たっている。


3.データで見る不動産市場の変化

こうした危機の核心にあるのが、中国不動産部門の成長と安定の微妙なバランスだ。恒大集団、碧桂園、SOHO中国といった大手企業が直面した課題によって、慎重な財務管理を促す頑健な規制の必要性が浮き彫りになった。

国家統計局が最近発表したデータによると、7月の住宅価格は70の主要都市で目立った動きを見せた。これは過去のパターンから逸脱するもので見過すことはできない。たとえば武漢市では住宅価格が大幅に下落し、将来の経済的安定のため不動産価格上昇を当てにしていた家庭が厳しい現実に直面している。

調査対象都市のうち65都市で中古住宅価格が前年同月比で下落した。前月比で下落したのは63都市に上り、この現象が広範囲に及んでいることが分かる。この多面的なデータによって危機の複雑さや、それに対処する戦略を包括的に再評価する必要性が浮き彫りになった。

データに基づくこの知見は、経済面で重要であるだけでなく、消費者感情の変化、規制介入の影響、そして不動産をめぐる状況そのものの変化を反映している。予想されていた価格高騰が起こらなかったことから、さまざまな要因が複雑に絡み合う状況を切り抜ける上で、状況に適応した政策の必要性が示された。さらに中古住宅価格が下落したことで、消費者行動、銀行の安定性、全体的な経済成長など、より広範な経済的影響への懸念も生じている。

少子化の傾向は当然、将来の住宅需要の減少に直結する。ここ数年、年間出生率は一貫して低下しており、人口のマイナス成長への道が固まってきた。こうした人口動態上の変化は、今後数年間の不動産市場における新規需要の減少を予想させるものだ。

データに基づくこうした視点から導き出された全体的な知見から、危機がはらむ問題の複雑さが浮き彫りになったとともに、市場の動きの変化、規制の影響、消費者の選好の変化、世界経済の相互関連性も考慮した包括的で状況に適応できるアプローチが必要であることが強く示されている。データに基づくこの視点は、不動産部門のしなやかで持続可能な未来を模索する政策立案者、投資家、利害関係者らを導く光となるだろう。


「中国不動産部門における危機とダイナミクスの変化(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。

写真: EVERGRANDE, REQUEST FOR BANKRUPTCY PROTECTION

(※1)https://grici.or.jp/《CS》

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