人と犬に共通のがん転移を促進する仕組み解明 治療法開発に期待 東大ら
2023年8月1日 07:12
東京大学、東北大学などは7月27日、粘膜に発生する悪性黒色腫について、人と犬に共通する転移を促進する仕組みを解明したと発表した。粘膜型の悪性黒色腫は転移しやすく極めて予後が悪いが、新しい治療法の開発につながる可能性があるという。
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■粘膜型悪性黒色腫とは?
悪性黒色腫には2種類ある。皮膚に発生するものと粘膜に発生するものだ。
このうち粘膜に発生する粘膜型悪性黒色腫は、転移しやすく、5年生存率は約20%と極めて予後が悪い。しかも、悪性黒色腫全体の中でも、約1~2%と発生率が低く、希少ながんであるために、研究も進んでいない。
これに対して、犬の粘膜型悪性黒色腫は、犬の悪性黒色腫全体の中でも発生率が高く、研究が進んでいる。
研究グループも、これまでこのような犬の粘膜型悪性黒色腫について研究を進め、その細胞においてポドプラニンと呼ばれるタンパク質が多くつくられていることを突き止めていた。
■ポドプラニンが粘膜型悪性黒色腫細胞をアメーバ化
研究グループは、ポドプラニンに着目して研究を実施。人と犬に共通して、粘膜型悪性黒色腫細胞においてポドプラニンが多くつくられている場合、早期に転移し、予後も悪いことが判明した。
そこで、犬の粘膜型悪性黒色腫についてさらに研究を進めたところ、ポドプラニンが粘膜型悪性黒色腫細胞をアメーバ化する遺伝子を活性化。粘膜型悪性黒色腫細胞は、アメーバのように自由自在に変形し、正常細胞の間をすり抜けて移動。高い転移能力を獲得することがわかった。
さらに遺伝子解析をおこなったところ、犬と人でこのような転移が促進される仕組みが共通であることがわかった。
研究グループによれば、ポドプラニンは、粘膜型悪性黒色腫の新しい治療標的として有望であり、新しい治療法の開発につながる可能性があるという。
また犬の粘膜型悪性黒色腫が、有用な動物モデルが存在しない人の粘膜型悪性黒色腫の研究において、重要な価値を持つことが、明らかになったとしている。(記事:飯銅重幸・記事一覧を見る)