「ビッグモーター」で発覚した、器物損壊と詐欺行為という滅茶苦茶 (下)
2023年7月22日 16:50
ビッグモーターで年収が4607万円と報じられた「店長」は、年収が1494万円の工場長を通じて整備士に修理代金の嵩上げを強く求める。整備士の946万円という年収も確かに多いが、その上の工場長や店長は、職員が暴走するほど高額の報酬を受け取る。
【前回は】「ビッグモーター」で発覚した、器物損壊と詐欺行為という滅茶苦茶 (上)
職員の頑張りに応じて報酬を上積みする「成果主義」は、タガが外れるととんでもない方向に暴走するというのは、過去の様々な事例が教えてくれる。
器物損壊罪や詐欺罪などの刑事罰として立件される可能性すら感じさせる今回の事態は、損害保険(損保)の在り方そのものにも疑問を投げかけている。
ビッグモーターの事案で浮き彫りになったのは、損保の代理店が申請した案件であれば、ノーチェックで保険金支払いの対象になっていた問題だ。東京海上HDの永野毅会長が20日、記者団の取材に応じて「報道が事実なら、ビジネスの常識を超えたことが起こっている」と示した認識は、損保も被害者の立場にあることを語る。
修理工場が、自分の仕事を自分で増やすという事態は、明らかに良識を超えているが、世の中が良識で回っていると考えるなら、法律や規制は無用の長物になっていた筈だ。
水増しされた保険金の支払いをしてきた損保会社は一義的な被害者であるが、保険料率は保険金の支払い実績をもとに見直されることを考えると、本当の被害者は全ての保険契約者ということになる。詐欺による保険金請求のツケは、回り回って一般のユーザーが負担する仕組みだから、損保会社が一方的に負担をする訳ではない。
一時的に発生する多額な負担を、保険の掛け金で支払うシステムに問題はない。保険に問題があるとするなら、「自分の金ではない」という意識が脇の甘さを引き出しかねない恐れと、「保険が下りるなら」と考えて請求書の内容に無頓着になりがちな、保険契約者の心理にある。
ひとつの重大事故の影には29の軽微な事故があるという「ハインリッヒの法則」を念頭にこの事件を見ると、発覚していない同様の事例が日本中にどれだけあるのかという疑念が生まれてくる。今回損保会社に突き付けられた課題は、「保険金請求に対してどんな改革を成し遂げて、同様の事案の発生を防止する」かということだ。
既に国土交通省は道路運送車両法違反の疑いで動き始め、タレントがCMを降板したビッグモーター絡みの話題は、しばらく燃え盛る。煽りを喰らう同業各社は、忍耐が続くと腹を括っておく必要がありそうだ。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)