現在囁かれている「半導体の危機」、今更スマホも車もない社会に戻るのか?

2023年7月17日 06:56

 半導体の製造工程は400とも600とも表現されるほど複雑で入り組んでいるが、超微細化が進むほどに重要性を増しているのが温度管理だ。

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 半導体の製造工程(ドライエッチング)で100度近くまで温度を上昇させる必要がある場合と、-70度程度の極低温まで引き下げる場合がある。この幅広い温度帯域をコントロールするためには、最適化された冷媒が欠かせない。

 循環して使用されるこの冷媒は、徐々に減少することが避けられないので補充作業が必要となる。冷媒の世界シェアは、米スリーエム社がベルギー工場で製造しているフロリナートが約50%、同社がアメリカ工場で製造しているノベックが約30%、ベルギーのソルベイ社がイタリア工場で製造しているガルデンが約20%となっていて、スリーエム社が合計約80%のシェアを押さえる寡占状態だ。

 これらの製品には、炭素とフッ素が結合した有機フッ素化合物( PFAS・ピーファス)の一種が使われている。PFASは「フォーエバーケミカル(永遠に残る化学物質)」とも呼ばれ、1万種類を超えるほどの広がりがある。

 熱に強く水や油を弾く性格から、フライパンなどの調理器具はもとより化粧品、半導体、医療機器、電池など幅広い商品に使用されているが、国際的な規制強化の動きは強まっている。PFASの中で最も毒性が強いと見られる2種類については、国連条約で廃絶することが既に決定されている。アメリカの約30州もPFASの規制導入に動いている。

 こうした流れの中で22年12月、スリーエム社は25年末までにPFASの生産や使用を全廃すると発表した。スリーエム社がフロリナートを製造しているベルギーにおいて、PFASを巡る公害問題で地方政府との対立が続き、訴訟などの法的な負担が300億米ドルにも達すると見られている。

 PFAS関連の売上が4半期で僅かに10億米ドル程度に過ぎない状態では、事業が成り立たないと結論するのはやむを得ない。

 結果として、スリーエム社が製造していたシェア80%に及ぶ冷媒の供給が停止する危機が迫る。シェア20%のソルベイ社にも複雑な事情があり、増産によって対応する気はないと伝えられる。

 フロリナートやノベックにかわる代替品を発見しなければ、半導体そのものの製造に赤信号が付くことは避けられない。半導体が製造できなくなれば、スマホや車を始めとする世の中のシステムが徐々に停止する。

 果たして25年末までの僅かな期間に、スリーエム社の退場に起因する冷媒不足を解決することが可能なのか?(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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