相場展望7月6日 米国: 「金利引き上げ再開」とNYダウのチャート「下落示唆」に注目 日本: 外国人の先物筋と現物筋の「売り」揃い踏みに注意、物色に変化
2023年7月6日 11:33
■I.米国株式市場
●1.NYダウの推移
1)7/3、NYダウ+10高、34,418ドル(日経新聞より抜粋)
・増配を発表した金融のゴールドマンサックスやJPモルガンチェースなどが上昇し、NYダウを支え、昨年12月上旬以来の約7カ月ぶりの高値となった。一方、ハイテクの一角に利益確定売りが出て、NYダウは下げる場面もあった。
・7/3は独立記念日の祝日前で、13時までの短縮取引だった。積極的な売買を控える市場参加者が多く、方向感に乏しかった。
・米連邦準備理事会(FRB)が6/28夕に公表した大手23行のストレステスト(健全性審査)の結果を受け、ゴールドマンやJPモルガンなどが6/30の通常取引終了後に四半期配当の増額を発表し、2銘柄でNYダウを30ドル上げた。ストレステストは23行すべてが厳しい不況下でも必要な自己資本を維持できるとの試算を示した。
・7/3発表の6月の米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数は46.0と市場予想47.3に反して低下したが、個別指標の「新規受注」が上昇した。「価格」や「雇用」が低下したことで、インフレ圧力や労働需給の緩和を示したとの受け止めもあった。
・ドラッグストアのウォルグリーンズや映画娯楽のディズニーが上げた。4~6月期の販売台数が市場予想を上回った電気自動車のテスラが+7%高。一方、ゴーグル型端末の生産計画引下げが伝わったスマホのアップルが安い。ソフトウェアのマイクロソフトも下げた。
【前回は】相場展望7月3日号 米国: 10年債金利「4%」超で、資金は「株式⇒債券」へ流出か 日本: 日本株上昇の牽引役・海外投資家、6月3週で売り越し転換
2)7/4、祝日「独立記念日」で休場
3)7/5、NYダウ▲129ドル安、34,288ドル(日経新聞より抜粋)
・7/5発表の中国と欧州の経済指標の悪化を受け、世界景気の先行き不透明感が強まった。米連邦準備理事会(FRB)による利上げ継続観測も株式相場の重荷になった。
・中国メディアの財新と米S&Pグローバルが7/5発表した中国の非製造業購買担当者景気指標(PMI)は前月比▲3.2ポイント低下の53.9だった。一方、欧州では6月のユーロ圏総合PMIは49.9と、好不況の境目となる50を下回り、半年ぶりの低水準となった。欧州中央銀行(ECB)は利上げを継続するなか、景況感が一段と悪化するとの懸念が高まった。
・FRBが午後に発表した6/13~14開催分の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨では、「何人かの参加者は6月会合で政策金利を+0.25%引上げることが好ましいとの見方を示していた」ことが明らかとなった。市場では「7月の会合で利上げを決める確率を高める内容だ」と受け止められた。
・米国と中国の経済的な対立が再び激しくなりかねないとの懸念も株式相場の重荷となった。米誌ウォールストリートジャーナルは7/4、「バイデン米政権は中国企業を対象にクラウドコンピューティングサービスの利用制限を設ける準備を進めている」と報じた。7/3には中国が一部の半導体関連素材の輸出制限を発表していた。
・NYダウは7/3にほぼ7カ月ぶりの高値を付けた後で、主力銘柄に利益確定目的の売りが出やすい面もあった。「7/4の独立記念日の祝日の後で、休暇中の市場参加者も多いうえ、7/7には6月米雇用統計の発表を控えていることもあり、7/5は買い意欲に乏しかった」との見方もあった。
・半導体のインテルが▲3%下げた。工業製品・事務用品のスリーエムや金融のゴールドマンサックス、スポーツ用品のナイキも安かった。半導体関連株は売りが優勢だった。半面、航空機のボーイングや顧客情報管理のセールスフォース、ドラッグストアのウォルグリーンズは買われた。交流サイトのメタやネット検索のアルファベットが買われた。
●2.米国株:「利上げ再開」とNYダウのチャートの「下落」示唆に注目
1)FRBは6月の「利上げ停止」は間違った決定、利上げすべきであった。
・6/13~14開催のFOMCで「利上げ停止」を決定したが、複数の会議参加者から「利上げ継続」の意見が出されたとの、議事要旨の記載があった。
・インフレ退治は道半ばであるにも関わらず、利上げ停止をした。インフレ率は鈍化したとはいえ、まだまだ高水準にある。FRBが目標とする2%の倍となる4%水準にある。
・インフレ退治の手綱をいったん緩めると、さらなる利上げを必要とすることが歴史は示している。7月に利上げ再開することが望ましい。
2)NYダウは、チャートからは「下落」局面を示している。
・6/15に付けた34,408ドルが壁を形成しているようにみえる。
・また、昨年11/30に付けた高値34,589ドルに対して、3度も跳ね返されている。4度目のチャレンジも失敗しそうな値動きをみせている。
・株式相場を取り巻く環境も厳しさを強めている。欧州経済は金利引上げもあって、景気後退方向にある。ドイツや英国の経済は、景気後退を示しており、当然ながら企業収益に負の影響を与える。米国についても、労働環境は依然として好調であるものの、インフレ率がFRB目標の2%の倍となる4%程度にあり、金融引締めの最中にあり、株式相場はそうそう楽観しておられない。
●3.米6月ISM製造業景況指数は46.0、予想47.1・5月46.9を下回った(フィスコ)
●4.バフェット氏、石油・天然ガス会社オキシデンタル株の保有比率を25.1%に引上げ(ブルームバーグ)
●5.サウジ、日量100万バレルの自主減産を継続、ロシアも50万バレル減(ブルームバーグ)
1)中国の需要低迷が影響し、サウジの減産延長は意外性がない。
●6.OPEC加盟国のUAE、自主的な追加減産行わず=エネルギー相(ブルームバーグ)
■II.中国株式市場
●1.上海総合指数の推移
1)7/3、上海総合+41高、3,243(亜州リサーチより抜粋)
・前週末の好地合いを継ぐ流れとなった。経済の持ち直しをサポートするため、中国当局は景気刺激策を強める見方が広がった。
・人民元安の進行への懸念も和らぐ。中央銀行の中国人民銀行は7/3、人民元レートの対米ドル基準値を8営業日ぶりに元安方向で設定した。6/30開催の人民銀行貨幣政策委員会では、人民元相場の合理的な水準で安定させる方針が確認された。
・米中関係の改善期待も高まったことがプラス。ブリンケン米国務長官が先月に訪中したことに続き、イエレン米財務長官も今月6~9日の日程で首都北京を訪問することが正式に決定した。
・業種別では、金融が相場を牽引し、エネルギー関連もしっかり、空運も高い。消費関連・海運・インフラ関連。公益・不動産なども買われた。半面、医薬品は安く、メディア・娯楽・ハイテクの一角が売られた。
2)7/4、上海総合+1高、3,245(亜州リサーチより抜粋)
・人民元安の進行への警戒感が薄らぐ流れとなった。
・中央銀行の中国人民銀行は7/4、人民元レートの対米ドル基準値を前日に続き元高方向で設定した。7/4の外国為替市場は、人民元高・米ドル安方向に振れている。中国国内からの資金流出懸念も薄らいだ。
・中国経済対策の期待感も支え。中国国内の軟調な経済指標の発表が続くなか、当局は経済の立て直しをサポートするため、景気刺激策を強めるとの見方が改めて広がった。
・ただ、上値は重い。中国景気回復遅れや、米中対立の警戒感で指数は安く推移する場面もあった。
・中国商務部は7/3、半導体製造に不可欠なガリウムやゲルマニウムの輸出を制限すると発表した。市場関係者は、米国など西側先進国が先ごろ、半導体製造装置の中国向け輸出を規制したことに対する報復措置とみている。他方、外電は7/4、事情に詳しい複数の関係者の話として、「バイデン政権は中国企業を対象に、米国のクラウドサービスの利用を制限する準備を進めているもよう」などと報じた。米中は牽制の応酬をしている。
・業種別では、ハイテクの上げが目立ち、自動車も高く、軍事関連も買われた。半面、不動産は冴えない。金融・エネルギー・素材・公益が売られた。
3)7/5、上海総合▲22安、3,222(亜州リサーチより抜粋)
・投資家の慎重スタンスが高まる流れとなった。
・対外関係の悪化や中国景気の回復遅れが懸念されている。欧州連合(EU)の外交トップのボレル副委員長が来週予定していた訪中について、中国政府が延期したことが7/4に分かった。理由は明らかにされていない。
・足元では、半導体分野などを巡り、米国を中心とした西側諸国と中国の間で、摩擦が強まっている。
・また、取引時間中に公表された6月財新中国サービス業PMIは53.9となり、市場予想56.2以上に前月の57.1から低下した。足元では、予想を下回る経済指標の発表が相次いでいる。もっとも、下値を叩くような売りはみられない。
・人民元安の進行が一服するなか、資金流出の警戒感が薄れていることはプラスだ。
・業種別では、ハイテクの下げが目立ち、消費関連も冴えない。半面、レアアース・非鉄は高い。不動産は買われた。
●2.財新の中国製造PMI、6月は50.5に低下、景気回復失速を示す(ロイターより抜粋)
1)6月の中国製造業購買担当者景気指数(PMI)は50.5と、5月の50.9から低下した。財新のPMIは、雇用市場悪化やデフレ圧力の高まり、楽観的な見方後退などを反映している。
2)6月は生産と新規受注の伸びがともに鈍化。売上高の伸び悩みを背景に雇用は4カ月連続で減少した。
●3.中国、半導体材料のガリウム・ゲルマニウムを輸出規制、米国に報復か(共同通信)
■III.日本株式市場
●1.日経平均の推移
1)7/3、日経平均+564円高、33,753円(日経新聞より抜粋)
・1990年3月以来およそ33年ぶりに高値を更新した。
・7/3朝方に日銀が発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)で企業の景況感などに改善がみられたことを好感して、主力製造業株に買いが入った。前週末の米株式相場の上昇も支えになった。
・朝方に日銀が発表した短観では、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業・製造業でプラス5と、前回調査から改善した。企業の景況感の改善を背景にIHIやダイキンなど機械株が買われ、相場上昇を牽引した。東証業種別株価指数では機械が+3.2%高と、33業種中の上昇率首位となった。
・短観では企業の物価見通しの鈍化が示唆されたとあって、日銀の大規模な金融緩和策が継続するとの見方も広がった。こうした受け止めから欧州勢を中心に海外投資家の買いが再び活発になった、との指摘があった。
・東エレク・アドテストが大幅上昇、郵船・日産自・三菱自も買われた。一方、高島屋が売られ、京王が軟調で、サイバーも冴えなかった。
2)7/4、日経平均▲330円安、33,422円(日経新聞より抜粋)
・前日に日経平均が大幅高となり33年ぶりの高値を更新したため、短期的な過熱感を意識した利益確定売りが優勢となり、ダイキンやファナックなど機械株の下げが目立った。
・前日の日経平均は日銀の6月全国短期経済観測調査(短観)で企業の景況感が改善したのを好感し、+564円上昇した。今日はその反動で目先の利益を確定する売りが出た。肺がん薬の臨床試験の一部で有意な改善を示さなかったと発表した第一三共が急落し、日経平均の重荷となった。
・バリュー(割安)株の一角には買いが入り、相場を下支えした。TOPIXバリュー指数は▲0.11%安と、グロース指数▲0.15%安よりは底堅い。市場では「鉄鋼や銀行など株価指標面で出遅れ感のある銘柄には買いをいれる動きがみられた」との声があった。
・ファストリ・信越化・中外薬・アステラスが下げた。一方、三菱UFJ・三井住友FGなど銀行株は高く、アドテスト・トヨタも上昇。
3)7/5、日経平均▲83円安、33,338円(日経新聞より抜粋)
・1990年以来およそ33年ぶりの高値圏にあり、利益確定売りが出やすかった。日経平均寄与度の高いファストリが売られて日経平均を下押しした。
・前日の米株式市場は独立記念日の祝日で休場だったため、材料も乏しく、日本株も下げ一巡後は小動きだった。
・ファストリが7/4発表したカジュアル衣料品店「ユニクロ」の6月国内既存店(直営店、電子商取引=EC含む)売上高は7カ月ぶりに前年同月比でマイナスとなった。これを嫌気した売りが出て、ファストリは前日比で▲2%超下げ、1銘柄で日経平均を約▲94円押し下げた。
・日経平均は朝方に一時▲380円ほど下落。日銀の金融緩和継続姿勢や国内景気の回復期待、東証による低PBR(株価純資産倍率)企業への改善要請といった買い材料を背景に、日本株の先高観は根強く、節目の33,000円近辺まで下げる場面では押し目買いが入り、下げ幅を縮小した。
・HOYA・三越伊勢丹・キリンが下落。一方、海運市況の好転が期待されるなか川崎汽船などの海運株が大幅高。治験結果を受けて約▲15%安となった第一三共は約+7%高と反発した。
●2.日本株:海外投資家の先物筋と現物株筋の「売り」揃い踏みに注意
1)外国人の先物動向と日経平均(先物は枚数、「投資も森」から)
・ 6/28 6/29 6/30 7/3 7/4 7/5
外国人先物 ▲2,885枚売▲1,995 ▲2,549 +1,584買 ▲4,983 ▲1,458
日経平均 +655円高 +40 ▲45円安 +564 ▲330 ▲83
・海外投資家は2分される。1つは、短期筋の先物中心の投資家。2つは、現物株の比較的中期的な投資家。短期筋の先物手口をみると、6月中旬以降に売りに転じた模様。現物株の投資家は、先物に遅れて、最近になって売りが目立ち始めた。
・6/29までは、外国人の先物筋が売り越しても、外国人の現物株筋の強い買いで、日経平均は上昇してきた。ところが、7/3以降から、先物と現物買いの揃い踏みで下落していることが、みて取れる。
・外国人の先物筋と現物筋が揃って「売り」局面となった場合、高値恐怖感から大幅下落となる局面が想定されるだけに、注意したい。
2)日本株の上昇は、海外から資金が流入していることにある。
・欧州は金利引上げと、中国の景気回復への期待外れから、欧州に溜まった資金が日本に流れ込んだためであろう。要するに、欧州では景気後退が厳しさを増すなか、資金運用先に困っている。米国に資金運用を求めても、米国株式市場も高値圏にあり、リスクが高い。中国も景気回復に弱さがみられ、かつ、経済よりも政治優先が強まっている。
・その点、日本は日銀の総裁が交替しても低金利継続しており、金利リスクが低い。日本は労働力がひっ迫しており、コロナ禍の回復で需要が増している。中国を除く外国人観光客も急増している。日本では需要回復のなか労働力不足に対処するため、省人化投資が急増しており、経済の牽引となっている。また、半導体の供給が回復し、自動車などで生産回復が著しい。そして、米国はじめ各国への輸出ドライブがかかり始めた。
・結果として、日本企業の収益向上が期待される。世界から運用資金が日本に流れ込んできた要因はそこにあろう。
3)日本株も33年ぶりの高値圏到達しており、下落リスクが増えている。
・日経平均の上昇は、日経平均への寄与度が高い少数の銘柄に集中した結果である。多くの個別銘柄は、チャートをみると下落傾向を示し始めている。
・物色の流れをみても、成長株⇒割安株へと変化しつつある。大型の値がさ成長株に高値警戒感が強まっっている様子である。今までの相場に変化が生じかけている。
●3.企業動向
1)三菱重工 次世代型原子炉の中核企業に選定で、経産省が調整(NHK)
2)ルネサス 米ウルフスピードとSicパワー半導体ウエハーの供給契約(時事通信)
●4.企業業績
1)オカムラ 2024/3純利益150⇒164億円上方修正(日経新聞)
2)ABCマート 6月既存店売上高は前年同月比+19.5%増(フィスコ)
■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)
・2607 不二製油 業績好調
・4385 メルカリ 業績好調
・8308 りそな 金利上昇期待
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