太陽光パネルの設置を義務付ける東京都の、重い言葉と軽い内容!
2023年6月9日 08:29
22年12月、東京都議会は新築の建物などに太陽光パネルの設置を「義務付ける」環境確保条例の改正案を、賛成多数で可決した。今後約2年間の周知期間を経て、25年4月に施行される。
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太陽光発電システムは、設置時の多大な金銭負担や稼働後の電気代の負担軽減などの経済問題、自然災害や火災発生などの場合には取り扱いに注意が必要な問題、概ね20~30年と言われる耐用年数経過後の処分など流動的で技術的な結論が得られていない問題と、多様な話題を提供している。
すでに2年間の周知期間に突入しているため、東京都環境局はHP上に、「太陽光パネル設置・解体新書・Q&A」なるページを設置してPRを始めている(最新更新日23年5月24日)。今回の条例改正で最大の違和感は「義務」という言葉の使い方だ。辞書で「義務」の意味を調べると、大略「(法律で強制された)しなければならないこと、または、してはいけないこと」とある。
東京都の条例改正では「パネル設置を義務付けられる」のは、都内での戸建て住宅供給実績が年間延床面積2万平方メートル以上となる、50社程度の大手住宅メーカーだ。
対象となる建物は、延床面積が2000平方メートル未満の新築建築物で、屋根の面積が20平方メートル未満の狭小住宅は対象外となる。
大手住宅メーカーは施主等に対して、断熱・省エネ・再エネ等の環境性能について説明を行い、施主はその説明や東京都の指針を考慮して、必要な措置を講じて環境負荷の低減に努めるという前提で、発注に当たっての判断を行う。
要するに、大手住宅メーカーは説明すること、施主は説明を聞いて判断することが「義務」だという。施主が「そんな金のかかるとこはしない」と決めても、ペナルティは特にない。対象となる大手住宅メーカーの太陽光パネル設置状況が低迷するなど、取り組みが十分でないと判断された場合には東京都の助言や指導があり、その後も改善の意思がなければ事業者名の公表も「検討している」という。
25年に施行されから2~3年は様子を見てから助言と指導をして、その後の改善状況を見守った上で「さっぱり協力的でない業者」を公表するまでには10年単位の時間が必要になるだろう。
「義務」という重い言葉が使われている割には実態が伴わない、言葉遊びのように感じるのは不謹慎だろうか。
金銭的な負担増を施主に強制するリスクは回避して、「本気」振りを強調するための花火を上げたいという思惑が先行したかのような条例の改正だ。実態のない義務が軽々しく濫用されると、言葉の重みが失われる。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)