ハチ毒から体を守るメカニズムを発見 治療法開発に期待 東大の研究
2023年6月9日 11:37
虫に刺されると腫れて痒みや痛みを感じるが、これらはアレルギー反応の1つである。この痒みなどの症状が起きるのに関連しているのが、皮膚に存在する免疫細胞の1つであるマスト細胞だ。このマスト細胞は、ハチの毒からも身を守る働きをしているが、これまで不明だったそのメカニズムを、東京大学の研究チームが明らかにした。
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今回の研究結果は、東京大学の藤原祐樹大学院生、中村達朗特任講師、前原都有子大学院生、林亜佳音大学院生、村田幸久准教授らの研究グループにより行われ、5月22日のProceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)に掲載された。
マスト細胞は、免疫細胞の1種で、血管周囲や皮膚、皮下組織、肺、消化器官など身体中に存在している。この細胞にアレルギーに関連しているIg E抗体が結合すると、ヒスタミンなどの化学伝達物質を放出し、ヒスタミンが蕁麻疹のような痒みや炎症を引き起こす。マスト細胞はともすればアレルギーを引き起こす悪者扱いを受けがちである。
しかし一方で、ハチに刺された時、マスト細胞が活性化しアレルギー反応が起こり、血圧と体温が低下。その結果、毒が身体中に拡散するのを防ぐことや、マスト細胞が作り出すヘパリンが血液凝固を防ぎ、プロテアーゼの働きで毒を分解することなどから、毒から体を守っている可能性がこれまでも考えられていた。
研究チームは、マウスを用いて実験を実施。ちなみに人間がハチに刺された時は、1回目は軽い症状で済むが、2回目はアレルギー反応も加わり重症化。場合によってはアナフィラキシーショックという血圧低下や体温低下などを伴う症状を起こし、命に関わる状態になることもある。一方マウスでは、初回から体温低下や血圧低下が起こることがわかっている。
研究チームはまず、野生型のマウスとマスト細胞を持たないマウスにハチ毒を皮下投与しt比較した。するとマスト細胞を持たないマウスの方が体温低下が顕著で、5匹中4匹が死亡した。一方野生型マウスはすべて生存していた。
このマスト細胞を持たないマウスにマスト細胞を移植すると、野生型マウスのように体温低下は抑えられ生存できるようになった。だがプロスタグランジンD2(PGD2)を産生できないマスト細胞を移植しても、そのような回復は見られなかった。
これらの実験により、マスト細胞が産生するPGD2が、ハチ毒に対する生体反応に影響を与えていると考えられた。
次にマスト細胞がPGD2を産生できないように遺伝子を改変したマウスや、血管内皮細胞にプロスタグランジンD 2受容体を持たないマウスを開発し、実験を行ったところ、ハチ毒への体温低下の反応は顕著になり生存率は低下した。
さらに研究チームは、生体イメージングを用いて、蛍光標識したハチ毒が体内でどのように移動するかを調べた。すると野生型のマウスではハチ毒はリンパ管経由で吸収されているが、PGD2を作れないマウスでは、リンパ管だけでなく毛細血管からも吸収されており、毛細血管のバリア機能が低下していることわかった。
これらの研究結果より、ハチにより活性化したマスト細胞が産生するプロスタグランジンD 2は、その受容体を介して毛細血管のバリア機能を高め、毒が血管か吸収されるのを防ぐことがわかった。このことを人間に応用できれば、ハチなどに刺された時の治療に応用していくことが期待されそうだ。(記事:室園美映子・記事一覧を見る)