ハイブリッド車とEV車の技術格差

2023年6月6日 09:07

●10数年前のトヨタ、ホンダ、日産のハイブリッド車レベル

 10数年前、メーカーをリタイヤした後に勤務した会社で、当時のハイブリッド車の心臓部を入手して、分析テストしたことがある。2010年式(平成22年)当時で見ると、一般的なハイブリッド市販車はトヨタとホンダがあった。

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 トヨタ・プリウスとホンダ・インサイトである。日産もフーガを投入していたが、実績は僅かであった。

●当時のメーカー格差

 当時のハイブリッド車に対する印象は、先行するトヨタ・プリウス、周回遅れで追撃するホンダ・インサイト、そしてそのホンダの背中が次第に小さくなっていく、置いてけぼりの日産という状況であった。

 そこでプリウスとインサイトの心臓部を入手して、実機試験をやった訳だ。

 数が少なく、入手困難なフーガを除外して、新車を購入して試験するにはコストが嵩むので、2代目プリウス(2003~2009年)と2代目インサイト(2009~2014年)の車両で、エンジン部分が損傷していない事故車を苦労して入手し、試験をした。

 結論的に言えば、プリウスを試験した結果実力が判ったので、周回遅れのインサイトは入手していたが、改めて試験するまでも無いと判断し、実機試験は省略した。

●日産の動向

 当時日産は、先行する2社に追いつくべく、某車種のハイブリッド車開発に取り組んでいた。

 客観的に見て、その車種本来の「通常のガソリンエンジン搭載モデル」でも不人気車に近く、販売台数が伸び悩んでおり、ハイブリッド車をその車種に追加しても、大した販売台数の上積みは期待出来ないのは明白だった。

 そして、計画台数はどう見ても過大な数を企画していた様だ。

 結局、彼等なりに冷静に検討を加えた末、ハイブリッド車に見切りをつけて、EV車に注力する決断をしたのだろうと勝手に推測している。思い切りが良かったから、EV車リーフで一応の成功を納めたのだ。

●構造が簡単なEV車

 EV車は従来のガソリンエンジンの代わりに電動モーターを動力源として搭載する。

 そして、内燃機関搭載車に必須の「燃料系」と「排気系」即ち燃料タンクや燃料ポンプ、燃料噴射装置か気化器といったディバイスと、エキゾーストマニホールドやマフラーといった部品が不要となり、勿論「エンジン」も無くなる。代わりに「モーター」と、重くて高価で不安定な「駆動用バッテリー」が搭載される。

 要するに、モーターとバッテリーだけで駆動する訳だから、構造は簡単になる。

●難しい仕掛けのハイブリッド車

 構造が簡単なEV車と較べると、ハイブリッド車は、通常のガソリンエンジン車に電動モーターも搭載し、エンジンとモーターを連携させるから、コントロールシステムは難しい構造となる。

 また、内燃機関が主要動力源だから、「燃料系」と「排気系」は当然存在する。そもそも内燃機関に関する技術は、簡単に習得し、蓄積出来る様な単純なものでは無い。

●内燃機関技術レベルの差

 三菱自動車と現代自動車は、1982年に資本提携を結び、三菱自動車が現代自動車に5%出資し、自動車の技術供与や生産技術の援助を行ってきた。

 その三菱が2002年11月提携解消した際に、本来回収するか完全に廃棄すべき治具・型具や金型を、「自動車の設計、開発、生産、購買、調達に関する技術協力を行っていく」として、残してきた。

 これに対して、某社の社長が「これで彼等が日韓の技術格差を10年分程詰めることが出来る」と、激怒したとの話がある。

 当時は、三菱が1996年から2007年に採用していた直噴エンジンGDIエンジン「Gasoline Direct injection engine(ガソリン直噴エンジン)」だ。

 車に詳しい人なら、評価もご存知だろうが、このレベルのエンジンでさえ、彼等には垂涎のレベルだった。

●技術レベルの低い国がEV車へシフト

 純粋な内燃機関だけで走る自動車ですら、エンジン技術格差があるのに、これと電動モーターを複雑に連動させるハイブリッド技術は、「EV推しを推進する」国々にとっては解決困難な課題であった。

 『カメラを作れる国と自動車を造れる国の相関』(4月21日付)で述べた様に、カメラも満足に作れない国には、ハイブリッド車を作ることは出来ず、構造が極めて簡単なEV車に逃げ込んだのであろうことは、疑う余地は無い。

 内燃機関搭載車すら覚束ない技術レベルの国に、安全なEV車を望む方が無理なのだろう。(記事:沢ハジメ・記事一覧を見る

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