相場展望5月4日号 米国: 銀行の経営破綻は相次ぎ、信用不安が継続 パウエル議長「タカ派的」で、追加利上げ 日本株: テクニカル指標は「過熱」示唆
2023年5月4日 20:24
■I.米国株式市場
●1.NYダウの推移
1)5/01、NYダウ▲46ドル安、34,051ドル(日経新聞より抜粋)
・米景気の底堅さを示す経済指標の発表を受け、米長期金利が上昇した。金利上昇で相対的な割高感が意識されやすい株式に売りが出た。半面、経営破綻した米中堅銀行のファースト・リパブリック・バンク(FRC)を買収した米銀最大手のJPモルガンチェースが上昇し、NYダウの支えとなった。
・午前発表の4月米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数は47.1と、市場予想46.7を上回った。この発表を受け、「米連邦準備制度理事会(FRB)が5月だけでなく、6月以降も利上げを続ける懸念が強まった」との見方があった。週内に米連邦公開市場委員会(FOMC)や欧州中央銀行(ECB)の理事会を控えていることもあり、米債券市場では長期金利が上昇した。
・NYダウは前週末に2ヶ月半ぶりの高値を付けた。今年は34,000ドル台で上値の重さが目立っていたこともあり、主力銘柄の一部には利益確定の売りも出やすかった。
・金利上昇を受け、相対的に割高感が意識されたハイテク株の一角に売りが出た。ソフトウェアのマイクロソフトや顧客情報管理のセールスフォースが下落した。クレジットカードのアメリカンエクスプレスと航空機のボーイングも安い。
・一方、FRCの買収が利益押し上げにつながるとの期待からJPモルガンチェースは+2%上昇した。スポーツ用品のナイキ、製薬のメルクが買われた。
・ハイテク株が多いナスダック総合株価指数は4営業日ぶりに反落した。電気自動車のテスラは下げる一方、半導体のエヌビディアは+4%上げた。
【前回は】相場展望5月1日号 米インフレは高止まり、高い金利継続と予想 日本株「高PER」は「高所恐怖症」につながる 新日銀総裁も「日本売り」継続
2)5/02、NYダウ▲367ドル安、33,684ドル(日経新聞より抜粋)
・米地域銀行の破綻が連鎖しかねないとの懸念から一部の中堅銀行株が急落した。5/3午後に米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果が発表されるのを前に投資家がリスク回避姿勢を強め、下げ幅は▲600ドルを超える場面があった。
・5/1に経営破綻したファースト・リパブリック・バンクは米銀大手JPモルガンチェースによる救済合併が決まったが、破綻が他に広がることへの警戒は根強い。中堅銀行ではパックウェスト・バンコープが一時▲4割安となったほか、ウエスタン・アライアンス・バンコーポレーションとザイオンズ・バンコーポレーションは▲2割超下げた。NYダウ構成銘柄ではゴールドマンサックスとJPモルガンチェースが下落。
・5/2~3開催のFOMCでは+0.25%の利上げが決まるとの見方が多く、市場の関心は米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエルFRB議長の記者会見に集まる。インフレ圧力が根強いなかで金融引締めが長期化するとの見方も米株相場の重荷。市場では「景気が減速する中で利上げが続けば、さらに経済が冷え込むと懸念する投資家が多い」との声があった。
・原油相場が大きく下げたのを受け、石油のシェブロンが売られた。クレジットカードのアメリカンエクスプレスや顧客情報管理のセールスフォースも安かった。半面、製薬のメルクや医薬品・日用品のジョンソン・アンド・ジョンソンは上昇した。
・ハイテク株比率が高いナスダック総合は続落し、ネット検索のアルファベットや半導体のエヌビディアの下げが目立った。
3)5/03、NYダウ▲270ドル安、33,414ドル、FRB議長会見で売り(日経新聞より抜粋)
・米連邦準備制度理事会(FRB)は5/3まで開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)で+0.25%の利上げを決めた。FOMC後のパウエルFRB議長の記者会見がタカ派的と受け止められ、次第に売りが優勢となった。
・+0.25%の利上げは大方の予想通りだった。パウエル議長は記者会見で、「金融引締めが正当化される場合には、その用意がある」などと述べた。「今回で利上げを打ち止めするという見方が後退し、タカ派的との受け止め方が広がった」との説明が、相場の重荷となった。
・FOMCの結果公表直後は、声明文で「利上げ打ち止めへの期待」が広がり買い優勢となり、NYダウは一時+100ドル余り上昇する場面があった。
・NYダウ構成銘柄では、ドラッグストアのウォルグリーン、バイオ製薬のアムジェン、金融のJPモルガンチェースなどが安かった。原油先物相場の下落でシェブロンも下落。一方、半導体のインテル、通信のベライゾンが上昇した。
●2.米国株:
・VIX(恐怖)指数が「買われ過ぎ」を示す中で、信用不安が高まった
・米銀行の破綻は今後も続き、米国の信用不安の収束は見通しできず
・FRBは、銀行破綻が相次ぐなか、インフレ抑制重視で+0.25%追加利上げ
1)SP500のVIX(恐怖指数)は4/28に、強い「買われ過ぎ」を示唆
・4/28にVIXは「15.78」と低下し過ぎで、SP500の下洛予感を示唆。
・5/1にはNYダウは▲367ドル安、一時▲600ドル安となる場面があった。
・5/3のNYダウはパウエル議長記者会見後、急落し終値は▲270ドル安となった。VIX指数は「17.64」と上昇したが、まだ株式相場の下落可能性を示している。
2)米国はインフレ抑制のための金利引上げと、金利上昇で債券含み損を抱え地銀が破綻
・地銀破綻数は、5/1で3月から3行となった。要因は、地銀経営不安からくる信用不安からの「預金流出」となっている。
・銀行は自己保身のための資産健全化策として、融資条件厳格化を実施中である。融資厳格化とは(1)貸出条件の厳格化 (2)貸し剥がしであり、「信用収縮」につながる。
・個人の預金者は自身の財産を守るため、より信頼できる金融機関へと預金を移管しており、さらに拡大するおそれがある。企業も存続をかけて運転資金を確保するため、個人と同様に中堅銀行から大手メガバンクへ逃げ出す動きが続きそうである。
・バイデン政権やFRBは、本質的な「預金流出防止」策の実行ができていない。(1)預金保護額の増額と、(2)大手銀行の救済策でしか対策を打っていない。 中堅銀行が破綻した原因は、資金運用してきた「債券の含み損」の大きさを懸念した預金者による預金流出が引き金を引いたことにある。債券の含み損問題は、「金利引上げ」が発端である。米政府・FRBは、その根本問題への対応策が打ち出せない状況にある。
・今回の金融機関の信用不安の発端は、金利安で債券投資に大きく傾いた中堅銀行のリスクマネジメントの稚拙さが経営破綻を招いた。しかも、債券投資では、低利の長期債券である住宅ローン担保証券に傾け、身動きが取れなくなった。短期債券投資であれば、今、5%の高利回りを得られて、傷は浅かった。その運用の失敗が、表面化したのが今回の金融混乱の原因にある。
・いずれにしても、米国における信用不安は収束することなく、不安感がますます増大することになると予想する。個人と企業の行動の行方からして、地方銀行からの預金流出は続くとみる。したがって、中堅銀行などの経営破綻は今後も続く可能性がある。
・経営不安への懸念が高まった米地銀パックウェスト・バンコープの株価は、時間外で約▲57%安と暴落している。(DZHフィナンシャルリサーチ 5/4)
・大手メガ銀行も、債券投資しており、「債券の含み損」問題を内包していると思われる。金融機関の信用不安問題は、これから噴出するリスクがありそうだ。大規模金融緩和で増大したゾンビ企業のうち、ゾンビ金融機関の淘汰が始まったとの見方もできるのではないか。
3) 今週の注目イベント
・5/4 米3月貿易収支
・5/5 米雇用統計
●3.5/3の米連邦公開市場委員会(FOMC)の決定内容(フィスコ)
1)政策金利を+0.25%引上げ。フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を+0.25%引上げ、5.00~5.25%とする。市場の予想通りだった。
2)追加利上げのシグナルは削除。
3)今後、必要となる追加引締めの程度は経済次第。
4)金融システムは堅調で柔軟性がある。
●4.パウエルFRB議長記者会見の要旨(ロイターより抜粋)
1)銀行セクターの状況は広範に改善した。
2)米国の銀行システムは健全で強靱だ。
3)インフレ率を2%に戻すことに強くコミット。
4)物価安定がなければ、持続的に力強い労働市場を維持できず。
5)追加利上げを巡る決定は、データ依存のアプローチを取る。
6)住宅セクターは引続き低迷。
7)労働市場は引続き極めて引き締まっている。
8)労働市場の需給バランスの改善を示すいくつかの兆候がでている。
9)名目賃金の伸びに、緩和の兆候が出ている。
10)求人は減少した。
11)インフレ率は目標を大きく上回っているが、物価上昇は幾分緩やかになっている。
12)インフレ圧力は引続き高止まりしている。
13)インフレの低下は長い道のり。
14)インフレリスクに大きく配慮。
15)住宅と投資を中心に、金融政策引締めの効果が現れている。
16)制約的な金融政策の効果が十分に発揮されるには、時間がかかる。
●5.FRB議長会見「タカ派」との見方(日経新聞より抜粋)
1)「今回で利上げを打ち止めにするという見方が後退し、タカ派的との受け止め」が広がり、記者会見後の米株式相場は売り優勢となった。NYダウの終値は▲270ドル安。
●6.米FRB、利上げ判断難しく=銀行破綻で信用不安くすぶる(時事通信)
●7.米4月ISM非製造業景気指数51.9、予想51.8・3月51.2を上回る(フィスコ)
●8.米4月ISM製造業景況指数は47.1に回復も、6ヵ月連続で50割れ(ロイターより抜粋)
1)2020年5月以来の低水準だった前月の46.3から上昇。市場予想46.8からも上回る。
2)需要が低迷するなか、製造業の価格は上向き、価格指数は53.2と49.2から上昇した。
3)FRBの積極的な利上げが、重石になっている。
●9.米3月JOLT求人件数は959万件、予想973.6・2月993.1万件を下回る(フィスコ)
1)2021/4月以来で最小となった。
2)米JOLTの発表を受け、労働市場の逼迫緩和の思惑が強まり、利上げ観測が後退した。そのため、2年債利回りが3.988%まで低下し、米国債相場は急伸した。ドル・円は137.60円⇒136.54円までドル安・円高した。
●10.米4月製造業PMIは50.2、予想50.4を下回る(フィスコ)
●11.IMF(国際通貨基金)専務理事、金利上昇で金融部門の脆弱性が露呈、一段のリスク(ブルームバーグ)
●12.米地銀ファースト・リパブリック、米史上2位の規模の破綻、JPモルガンが買収(フィスコ)
1)1985年創業の地方銀行で、カリフォルニア州など全米8州で84店舗を展開(NHK)
株価は、12/30に121ドル ⇒ 4/28 3ドルと、30分の1以下となった。当局によって保護されない預金の割合が昨年末時点で推定67%と高く、預金引き出しの動きが強まり、株価急落もあり、経営への懸念が高まった。
●13.バークシャーのマンガー氏、銀行の商業用不動産融資の問題を警告(ブルームバーグより抜粋)
1)米投資・保険会社バークシャー・ハサウェイのマンガー副会長は、「銀行は不良債権を抱え込んでおり、米商業用不動産市場でこの先、困難が待ち受けていることを示唆している」と、英フィナンシャル・タイムズのインタビューで語った。
2)「米国のあらゆる銀行は現在、不動産融資に対して半年前よりもずっと姿勢を厳しくしている」と付け加えた。
●14.ルービニ氏が警告、「インフレとの闘いで高金利維持、債券と株式が売り込まれる可能性」(ブルームバーグ)
●15.企業業績
1)ボーイング 1~3月決算、3期連続の最終赤字▲570億円、コスト増(NHK)
■II.中国株式市場
●1.上海総合指数の推移
1)5/01、02、03、祝日「労働節(メーデー)」で休場
●2.中国4月製造業購買担当者景況指数(PMI)49.2、景気の節目50割れ、前月比▲2.7低下
1)特に、需要の強さを示す新規受注は48.8と、前月比▲4.8低下と大幅悪化(時事通信)
●3.中国非製造業PMIは56.4、前月比▲1.8低下も、引続き高い景況感を保った(新華社)
■III.日本株式市場
●1.日経平均の推移
1)5/01、日経平均+266円高、29,123円(日経新聞より抜粋)
・為替市場で円安が進み、輸出関連株を中心に採算改善を見込んだ買いが入った。終値で29,000円台回復は2022年8月17日(29,222円)以来の約8ヶ月ぶり。前週末の米株高を受けて、投資家心理が改善したことも支えだった。
・日銀が4/27~28に開催した金融政策決定会合で現行の金融緩和策の維持を決め、日本と欧米の金融政策の方向性の違いから主要通貨に対する円売りが加速して、輸出関連株の買いにつながった。
・主力企業の決算発表が本格化する中、堅調な業績見通しを発表した企業が買われた。
・前週末の米株式市場では、米株の予想変動率を示すVIXが15.78と、不安心理の高まりを示す20を大幅に下回る水準に低下した。これを受けて、先物に商品投資顧問(CTA)などによる機械的な買いが入ったとの指摘もあった。
・一方、米地銀のファースト・リパブリック・バンクの救済を巡り、米連邦預金保険公社(FDIC)が公的管理下に置く方向で調整が大詰めを迎えていると伝わり、先行き不透明感は重荷となった。日経平均は心理的節目を上回ったことで、利益確定売りが出て上値を重くした。
・NEC・コマツ・日産自・マツダ・ソフトバンクGも高かった。一方、ソニー・レーザーテクは下落、郵船など海運株は下げが目立った。
2)5/02、日経平均+34円高、29,157円(日経新聞より抜粋)
・為替市場で急速な円安・ドル高の進行を受け、輸出関連株の一角に買いが入った。日経平均は3日連続の上昇で、年初来高値を更新し、2022年8月17日(29,222円)以来8カ月ぶりの高値水準を付けた。
・円相場が137円台後半まで下落し、円安進行で輸出採算が改善するとも見方から、東京市場では電気機器や精密機器などが買われた。指数寄与度の高い東エレク・アドテストの上昇も、日経平均の押し上げ要因となった。
・買い一巡後は伸び悩んだ。東京市場が5連休の間、海外では米連邦公開市場委員会(FOMC)や欧州中央銀行(ECB)の理事会の結果が公表される。重要イベントを控えているうえ、日経平均は前日までの3営業日で+700円余り上昇していたため、いったん利益を確定するための売りも出やすかった。東京プライム市場では6割の銘柄が下落し、日経平均は小幅ながら下落に転じる場面もあった。
・三井E&S・ルネサス・HOYA・第一三共が上昇、半面、双日・TOTO・サイバー・高島屋・Jフロント・丸井が売られた。
3)5/03、祝日「憲法記念日」で休場
●2.日本株 : テクニカル指数は「過熱」を示唆
1)テクニカル指数は「過熱」を示唆、売り圧力が懸念
・日経平均移動平均線、特に「200日」の乖離率「5%超」異常に高く警戒が必要。
・日経平均200日移動平均: 5/2 27,559円 乖離率 +5.80%
・日経平均 25日移動平均: 5/2 28,300円 乖離率 +3.03%
・新高値銘柄数がピークにあり、勢いが低下方向にある。
4/27 4/28 5/1 5/2
・新高値銘柄数 72 280 430 260 相場の勢い低下を示唆
・新安値銘柄数 53 19 11 17 慎重姿勢が継続
・5/2の日経平均は+34円高にもかかわらず、「値上がり銘柄数が減少」と変調の兆し
4/27 4/28 5/1 5/2
・値上がり銘柄数 1,037 1,659 1,355 623 強気相場に変調の兆し
・値下がり銘柄数 712 155 417 1,115 弱気派が増加
・日経平均の値幅 +41円高 +398 +266 +34 高値圏
2)5/3~5、ゴールデンウィークで休場(5/4 みどりの日、5/5 こどもの日)
●3.20カ月連続貿易赤字、日本はどうしたのか =日本華僑報5/1(Record Chinaより抜粋)
1)今年3月の貿易統計が20カ月連続の赤字、2022年の年間赤字が▲21.8兆円となった。
その要因は、
(1)エネルギー問題:東日本大震災で原油輸入が激増、ウクライナ侵攻で価格高騰。
(2)自動車輸出不振:2022年に前年比▲13.6%減少。
(3)円安:米国の急速な利上げで円安、輸入コスト増加。
2)今後
・日本は現在政治的にも経済的にも歴史の分岐点に立っており、「うっかりすれば、国運を見誤る可能性が高い。そうなれば20年、30年の停滞どころの話ではなくなる」と評している。
●4.企業動向
1)ソフトバンクG 傘下の英アームの米国上場を申請、今年最大規模か(ロイター)
●5.企業業績
1)大塚商会 1~3月期営業利益165億円黒字、前年同期比+22.4%増、好スタート(フィスコ)
2)エアリンク 1~3月期営業利益10億円黒字、前年同期比+7.4%増(フィスコ)
3)双日 2023/3月期決算、純利益1,112億円黒字、前期比+35.1億円(フィスコ)
2024/3月期見通し純利益950億円黒字、前期比▲14.6%減益
4)日本航空 2023/3月期決算、純利益344億円黒字、前年▲1,775億円赤字(NHK)
2019年比、国内線90%・国際線50%まで回復
5)ANA 2023/3月期決算、最終利益894億円黒字、前年▲1,436億円赤字(NHK)
2024/3月期見通し、最終利益800億円と増収減益
6)三井物産 2023/3月期決算、最終利益1兆1,306億円、前年比+23.6%増(NHK)
新型コロナ需要回復、天然ガスなど資源価格上昇、円安の効果
■IV.注目銘柄(投資はご自身の責任でお願いします)
・4004 レゾナック 業績回復期待。
・4301 アミューズ 業績回復期待。
・4452 花王 業績回復期待。
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