米中覇権争い・台湾有事に備えはあるのか、中国依存度の高い企業【世界のリスクと上場企業】
2023年4月24日 10:29
*10:29JST 米中覇権争い・台湾有事に備えはあるのか、中国依存度の高い企業【世界のリスクと上場企業】
中国が経済的な実力をつけ、米国と対峙することが可能となった現在、台湾有事は起こり得る地政学リスクとして受け止められつつある。
台湾へ侵攻すれば、中国は制裁によってロシアが現在進行形で支払っているような高い経済的コストを支払うことになる。したがって、ロシアがウクライナにしたように、中国が台湾に軍事侵攻する可能性は、常識的に考えれば低そうに思える。ただし、その経済的コストを支払ってでも、統一をすぐさましなければならない事態が発生した際、台湾有事が発生する蓋然性が高くなる。例えば、台湾の中で独立機運が高まるようであれば、香港のように中国が軍事介入するだろう。ロシアのウクライナ侵攻は「常識的な判断」の定義は国によって変わることを教えてくれた。
さらに、様々なシミュレーションがあるものの、中国の軍隊は、台湾へ軍事侵攻し、制圧する能力があるとも言われている。つまり、オペレーション自体はロシアのウクライナ侵攻よりも、中国の台湾侵攻のほうが成功する可能性が高いのだろう。現在、中国による台湾侵攻が、最早十分起こり得る地政学リスクと受け止められているのはこうした背景がある。
実際に台湾有事が起きれば、日本経済もダメージを受けることは間違いない。ロシアが日本を含めた西側陣営の国の企業資産を接収したように、中国も日米が台湾側につくのであれば、日米企業の中国国内資産は接収されるだろう。また、ウクライナ侵攻でロシア向け事業が停止したように、中国向けの事業も停止するだろう。
近年までは、その台湾有事のリスクはさほど蓋然性が高いとは見られてこなかったが、日米が政府の資金を使って台湾のTSMCの工場を誘致する等、西側諸国はそのリスクが顕在化することを想定したアクションを起こしている。そのような状況下、本稿では、日本の上場企業の中で、売上の中国依存度が高い企業を抽出し、日本企業の中国リスクに対する脆弱性を測りたい。
対中国売上依存度トップ10企業
順位 銘柄コード 社名 売上高のうち中国が占める割合 GICS(※)産業セクター
1 6620 宮越ホールディングス 100.0% 不動産管理・開発
2 4936 アクシージア 91.3% パーソナル用品
3 7717 ブイ・テクノロジー 78.8% 電子装置・機器・部品
4 7820 ニホンフラッシュ 74.4% 建設関連製品
5 6246 テクノスマート 69.9% 機械
6 6101 ツガミ 67.6% 機械
7 7859 アルメディオ 63.4% 電子装置・機器・部品
8 7229 ユタカ技研 61.1% 自動車部品
9 3422 J-MAX 57.8% 自動車部品
10 6327 北川精機 56.9% 機械
(※)GICS: Global Industry Classification Standardの略称、米S&Pと米MSCIが共同で行っている産業区分
出所:各社の決算短信、有価証券報告書、IR説明資料等
全上場企業を対象に、直近年度連結売上高のうち、中国の占める割合トップ10を上表にリスト化した。1位の宮越ホールディングス<a href="https://web.fisco.jp/platform/companies/0662000?fm=mj" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><6620></a>、2位のアクシージア<a href="https://web.fisco.jp/platform/companies/0493600?fm=mj" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><4936></a>は特殊に見えるが、全般的に、電子機器、機械、自動車部品の小型株が上位を占めている。
中国依存度が高い上場企業の特徴(依存度トップ100社の集計結果)
「直近年度決算期・中国依存度トップ100社の集計結果」
GICS産業セクター 中国売上高合計値(百万円) 社数
電子装置・機器・部品 1,736,491 24
機械 911,182 23
半導体・半導体製造装置 1,212,997 14
自動車部品 794,334 11
化学 103,513 5
電気設備 569,331 4
商社・流通業 98,885 3
家庭用耐久財 1,155,169 2
ヘルスケア機器・用 98,714 2
繊維・アパレル・贅沢 23,515 2
金属・鉱業 21,905 2
パーソナル用品 21,109 2
ホテル・レストラン・外食 36,793 1
建設関連製品 24,608 1
商業サービス・用品 17,102 1
食品・生活必需品小売 5,640 1
エネルギー設備・サービス 3,447 1
不動産管理・開発 1,407 1
出所:各社の決算短信、有価証券報告書、IR説明資料等
1,中国企業の台頭が目立つセクターを顧客に持つ業種が上位
GICS産業セクター別では、電子装置・機器・部品セクターが24社、半導体・半導体製造装置セクターが14社と多くを占める。液晶及び有機ELディスプレイ世界シェア1位のBOEテクノロジー、半導体ファウンドリで世界シェア4位のSMIC等、中国の電子系製造業事業者の台頭が著しいが、中国売上依存度が高い日本の装置メーカーはそれらの成長を取り込んだ(あるいは日本の同事業者が衰退した)結果、中国売上依存度が高くなったことが言える。
基本的には中小型が多いが、TDK<a href="https://web.fisco.jp/platform/companies/0676200?fm=mj" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><6762></a>(依存度:55.7%)、ディスコ<a href="https://web.fisco.jp/platform/companies/0614600?fm=mj" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><6146></a>(依存度:37.2%)、東エレク<a href="https://web.fisco.jp/platform/companies/0803500?fm=mj" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><8035></a>(依存度:28.3%)等、大企業もいくつか存在し、上記2セクターのどれちらかに相当する。これらの企業は、台湾有事が起きた際に、中国向け輸出分の多くを失う可能性があり、後者のセクターでは、すでに米国による中国への輸出制限措置がとられている。
2,自動車向け設備・部品メーカーが多い
GICS産業セクター別では、機械が23社、自動車部品が11社と、中国売上依存度トップ100社の多くを占めるが、前者の内訳をみてみると、工作機械が多い。おそらく、日本の自動車メーカー(トヨタ<a href="https://web.fisco.jp/platform/companies/0720300?fm=mj" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><7203></a>やホンダ<a href="https://web.fisco.jp/platform/companies/0726700?fm=mj" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><7267></a>等)が中国に製造工場を持っているため、それらに対する供給が中国からの売上高として多く計上されていることも関係しているものと考えられる。こちらは、目立った大企業はファナック<a href="https://web.fisco.jp/platform/companies/0695400?fm=mj" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><6954></a>(依存度:31.1%)といったところで、多くは中小型に分類される企業が多い。中国向け輸出として計上はされていないが(多くは現地工場をもっているため)、台湾有事の際には、会社としての中国向け売上は消失し、現地資産は接収されるリスクが高い。
3,中国に強いコミットメントをしている企業が上位
中国依存度トップの宮越ホールディングス<a href="https://web.fisco.jp/platform/companies/0662000?fm=mj" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><6620></a>(依存度:100%)は勿論、同4位のニホンフラッシュ(依存度:74.4%)は、時価総額で200~300億円のいわば中小型株に分類されるが、中国に現地法人を持っている。2位のアクシージア<a href="https://web.fisco.jp/platform/companies/0493600?fm=mj" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><4936></a>(依存度:91.3%)は、経営トップが中国人。1、2の産業セクターに相当しない企業で、依存度上位企業はこのパターン。このような企業は台湾有事が起きた際、抜本的な措置を講じる必要が出てくる可能性がある。
近年、政府要請と企業自身の危機意識の高まりによって、日本を代表する企業(三菱電機<a href="https://web.fisco.jp/platform/companies/0650300?fm=mj" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><6503></a>、デンソー<a href="https://web.fisco.jp/platform/companies/0690200?fm=mj" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><6902></a>、NEC<a href="https://web.fisco.jp/platform/companies/0670100?fm=mj" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><6701></a>、パナHD<a href="https://web.fisco.jp/platform/companies/0675200?fm=mj" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><6752></a>、富士通<a href="https://web.fisco.jp/platform/companies/0670200?fm=mj" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><6702></a>等)で、経済安全保障担当の部署と担当役員を設置するケースがみられる。地政学リスクが発生しない世界では、そういった部署を設置する経済的合理性はないが、企業は地政学リスクを真剣に受け止め始めているといえよう。《TY》